白川式頭皮治療法の臨床応用

白川式頭皮治療法の臨床応用

                               

白川式頭皮治療法は、鍼治療あるいは手指による調気手技療法のいずれでも行うことができる。

頭皮治療法は、大脳、脳幹、小脳に作用させることができるので、脳の老化や脳に起因する病気を、また内臓、運動器、五感器等の一般的な病気に対しても、身体の司令塔である脳に作用させることで効果的な治療ができる。

頭皮治療法は、脳の機能をレベルアップさせることも期待できるので、病気の治療に限定されることなく、精神活動、内臓の活動、運動能力、感覚器等のさらなるレベルアップや若返り、また美容に対しても効果が期待できる。

「疾患別の治療法」

1,認知症 

2,大脳の疲労回復、記憶力、精神安定、集中力、創造性の向上

3,脳梗塞、脳出血等による後遺症の半身麻痺、老化による運動能力、感覚の低下、さらに頚部、肩、肩関節、肘、手関節、指、腰部、仙骨部、臀部、股関節、膝関節、足関節の治療

4,小脳の老化に伴う平衡感覚の低下、足腰のふらつきや頼りなさ、協調動作のスローモーション化、記憶装置の機能低下による記憶力の低下、運動の学習能力低下等の治療,また運動における平衡感覚の向上、スポーツや運動の練習での学習能力の向上

5,老人病の治療

6,老化に伴う頚部、背部の痛み、とりわけ腰腿部の虚痛や無力感

7,不眠症

8,鬱病、精神安定、意欲の向上

9,嗜眠、無気力、精神的落ち込み、眩暈、頭重、浮腫

10,冷えのぼせ、片頭痛

11,全身的冷え性、寒がり

12,生理痛

13,眼病(黄斑変性、中心性網膜症、飛蚊症、網膜剥離、サルコイドーシス、アトピー性白内障、緑内障、網膜色素変性)

14,狭心症、心筋梗塞

15,顔面麻痺

16,アレルギー性の疾患(花粉症、慢性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、化学物質過敏症等)

17,美容(表情の問題、顔面のクマ、くすみ、しみ、しわ、吹きでもの、頬の浮腫とたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂、足の浮腫み、腹部膨満、乳房の下垂、臀部の弛み、食欲のコントロール、減肥)

18,パソコン病、頚部の痛みや肩こり

19,頻尿、前立腺肥大、インポテンツ、腰部仙骨部の重痛

20,慢性腎不全

21,禿

22,甲状腺(バセドー氏病、橋本病)

23,腰痛(ぎっくり腰、腎虚腰痛、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、湿熱下注による重痛、脊柱管狭窄症、痺証、癌の骨への転移による腰痛)

24,五十肩、肩関節痛、肩凝り

25,手術の癒着による後遺症(乳癌、子宮癌等)

26,骨折や外傷の手術後のリハビリ段階での治療

27,酸欠等による脳障害

28,痰切、咳

29,全身的レベルの筋肉痛、運動麻痺、筋萎縮

30,慢性疲労症候群

31,ヘルペス

32,シェーグレン症候群

33,不妊症

34,爪の変形、乾燥肌

35,突発性難聴

36,多汗症

37,認知症の証型別治療

38,鬱病の病因病機と治療線と取穴

 

「頭皮治療法の手技」

鍼治療と調気手技療法では、治療手段が鍼によるか手指によるかの違いがあるが、基礎理論や四診合算による診断法や、頭皮の治療線と身体の経絡経穴に関しては共通している。

鍼治療、調気手技療法のいずれにおいても、経絡や頭皮の治療線に流れている気に対して得気を得て、その気に対する補瀉手技を通して調気する治療法ということでも共通している。

調気手技療法における得気は、経絡や治療線の中に流れている気に対して、程よく作用しやすいように、手指による適度の圧力を加えることである。その圧力が強過ぎて経絡に流れている気の深さを突き抜けるような圧力、また、弱過ぎて気に届かないような圧力でも効果が得られない。

補瀉手技は気に対して行うので、気を逃さないように行わなければならない。

鍼治療、調気手技療法の双方に使用される補瀉手技には、補瀉迎随法、捻転法、提挿法、呼吸補瀉法、平補平瀉法等があり、原理的には共通している。

具体的な手技では、鍼治療と手指による手技療法のそれぞれの特徴を生かすように工夫して行われる。

頭皮治療法における鍼治療では、頭皮の治療線に対しても、経絡経穴に対する手技と同様に、得気を得た後、虚実によって補瀉法を使い分けて治療する。

頭皮治療法における調気手技療法の手技は、平補平瀉法を基本にして行う。

耳ツボ治療も、補瀉法が難しいので、補瀉法は行われないが、よい治療効果が出る。

頭皮治療法も補瀉法をしなくても、平補平瀉法で治療効果が出る。

鍼や指の圧よる適当な刺激をすることで、身体の方から、双方向性の良性の調節作用が発揮されて治療効果が出るようになる。言い換えれば、鍼治療や手技療法には、自己治癒能力を上手く引き出すことができるということがある。

このような効果を引き出す適当な手技は平補平瀉法である。

調気手技療法は、経絡経穴に対しては効果的な補瀉法ができるが、頭皮の治療線に対する補瀉手技の難しさがあるので、平補平瀉法を基本にするとよい。

鍼治療も平補平瀉法でもよいが、弁証に基づいた補瀉法は、より高い治療効果が期待できるので補瀉法を採用するとよい。

なお頭皮治療法での鍼治療には、雀啄の補瀉法が適合している。

 

1,認知症

*大脳線1、大脳線Ⅲの治療線は、脳の精神活動に良好な作用をしやすく、認知症や鬱病に対しても良い治療効果を発揮することができるので、基本処方となる。

*陰虚タイプの認知症―基本処方の大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、太衝の瀉法、復溜、懸鐘の補法を追加するとよい。

*気虚証、腎陽虚証、腎精不足タイプの認知症―基本処方の大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、、天柱、太谿、懸鐘、足三里の補法を追加するとよい。

*現代の認知症は、例え、高齢者であっても、全て腎虚証というわけではなく、ストレスによる肝気鬱結で引き起こされる瘀血証や、食べ過ぎ、飲み過ぎ等による痰湿証等の実証タイプもある。腎虚証と於血や痰湿との虚実夾雑証が多い。

また若年性のアルツハイマーは、老化による腎虚証とは関係なく、主にストレスからくる肝気鬱結による実証タイプである。

*実証タイプの認知症―基本処方の大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線上焦、脳幹線中焦―瀉法、

内関から間使へ透刺、三陰交、豊隆、陰陵泉、風池―瀉法

*虚実夾雑タイプの認知症は、実証タイプに腎虚証タイプの処方を加えたものになる。

*脳梗塞等の脳血管障害に伴う認知症で、半身麻痺がみられる場合は、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線、顔面線―瀉法、大脳線Ⅰ、脳幹線中焦―瀉法による治療で、手足の半身麻痺の回復するのと同時に、認知症も治癒することが多い。下肢線、上肢線だけで認知症の治療ができることもある。

 

2,大脳の疲労回復、記憶力、精神安定、集中力、創造性の向上

*大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線1の上焦と中焦、 肩凝り、目の症状、頭痛等がある場合は、脊柱線の頚椎、肩凝線―瀉法を追加するとよい。

弁証取穴は、

・肝気上逆―百会、風池、内関から間使へ透刺、太衝から湧泉へ透刺―瀉法

・肝陽上亢―太衝、百会、風池―瀉法、復溜、懸鐘―補法、

・痰湿上蒙―豊隆、陰陵泉、頭維―瀉法、

・中気下陥―足三里、合谷、百会―補法

・腎性不足、腎気虚、腎陽墟―太谿、懸鐘、風池、百会―補法

*試験直前で長時間勉強をするときは、頭に置鍼したままで勉強をすると、精神安定し、記憶力もアップした状態で、脳の疲労感も出ないので、いくらでも詰め込みができる。試験前に治療すると、試験本番では、脳がクリアーな状態で、緊張してあがることがないので実力を発揮できる。

*頭皮針の治療を継続すると、精神安定し、集中力が高まり、記憶力、理解力、創造力、ひらめきがよくなる。さらに、肩こりと目の疲れが解消されるので、頭を使う仕事や精神的ストレスを受けやすい仕事をしている人には最適の治療法である。

 

3,脳梗塞、脳出血等による後遺症の半身麻痺、老化による運動能力、感覚の低下、さらに頚部、肩、肩関節、肘、手関節、指、腰部、仙骨部、臀部、股関節、膝関節、足関節の治療

*脳梗塞等の脳血管障害による後遺症の半身麻痺の治療は、病位が手足であっても、病気の原因は脳の病変にあるので、手足の局所に直接、刺鍼して治療するよりも、脳の病変に効果的に効かせる治療法の方が良い治療効果をもたらすことができる。

そのような効果的治療法は、いくつかあるが、この頭皮治療法が、日本の実情に即した治療法であり、また最も効果的な治療法の一つである。

*下肢の治療―前頂から頭維にかけて溝状になっている治療線で、前頂より約3分の1の下肢線、 顔面部の治療は前頂と頭維の間の治療線で、頭維より3分の1の顔面線、 上肢の治療―顋会から頭維の溝状になっている治療線で、その治療線の満中の3分の1の上肢線―瀉法、

*実証タイプの脳梗塞による半身麻痺の上肢、下肢の治療には、大脳線1、脳幹線1中焦―瀉法、さらに実証タイプの脳梗塞による半身麻痺、高血圧タイプの人の治療には脳幹線1下焦―瀉法。老化等による腎虚証がある場合には、脳幹線Ⅰ下焦の補法。

*さらに脳梗塞の後遺症による半身麻痺には、内関から間使へ透刺、風池、天柱、三陰交、豊隆を追加取穴するとよい。

*気虚於血タイプの脳梗塞には合谷、足三里―補法、三陰交―瀉法を追加するとよい。

*頚部、肩、また頚部の病変が原因で起こる指をはじめとする上肢の痛みやシビレの治療には、脊柱線の頚部、肩凝り線、大脳線Ⅳの上肢で治療する。

天柱や頚部の膀胱経のラインの治療は、患側の反対側の督脈上の脊柱線の外方2、3ミリの間にみられる縦に走っている反応線を追加して治療するとよい。

また、頚部の風池や少陽経のエリア、肩、肩関節の治療は、肩凝り線の数ミリ横に並行して出ている溝状の反応線を追加して治療する。

頚部や肩の凝りには、白川式手鍼の三焦、上焦、あるいは下後谿がよい。

また、経絡弁証で症状のある経絡を特定し、手指、手関節、肩関節であるか、部位にかかわりなく、すべての邪気による痛みやしびれや運動制限には、その経絡の井穴に刺鍼して瀉法を施して運動鍼にするとよい。抜鍼の後、井穴からは出血しやすいので血が止まるまで、アルコールにしたした綿花で、よく消毒をした方がよい。井穴はその経絡上のどの部位であるかにかかわらず、疎通経絡の効果は抜群に高い。

また胸鎖乳突筋の治療は、頭皮鍼や手鍼でも効果が出にくいことがある。その時は、懸鐘に刺鍼して運動鍼にすると確実に効果が出る。

*腰、仙骨部の於血による腰痛の治療は、脊柱線下焦―瀉法で治療する。

膀胱経の痛みの場合は、脊柱線下焦と、さらに患側の反対側で督脈より数ミリ外方で患部に相応する高さに出ている反応線に追加して治療するとよい。

*下焦湿熱による重だるい腰痛には、脊柱線の下焦に、さらに脳幹線Ⅰの中焦、下焦を追加するとよい。

*於血、湿熱のいずれのタイプの腰痛にも、後谿、委中の効果は高い。

また、慢性化している腰痛で、於血タイプには、間使、三陰交がよい。下焦湿熱タイプには、陰陵泉、中極を追加するとよい。

慢性的腰痛の根本的治療のためには、全身的レベルの於血症、あるいは湿熱証を治療する必要がある。

*志室より外方の腰痛は、腎膀胱経の腰痛ではなく、肝気鬱結に伴う肝経のルート上の少腹部の於血による反射痛であることが多い。少腹部痛の部位は中極の外方3寸の子宮穴から2寸5分上方の間で圧痛点が出るところである。そこに刺鍼すると、志室の外方の腰痛は即座に取れる。また生理痛にもよい。

*老化による腎虚証の足腰の無力感やふらつきを伴った腰痛には、脳幹線Ⅰ下焦、脊柱線下焦は補法にする。また弁証に基づいて、太谿あるいは復溜、懸鐘、腎兪を取穴し、補法を施すとよい。

*股関節の治療は、百会から45度角前方の通天までの溝状の反応が出ている股関節線で治療する。

支溝、陽陵泉、環跳を追加取穴するとよい。あるいは、白川式手鍼の下焦がよい。

*ここで紹介した上肢線や下肢線の位置とは異なるが、頭皮鍼の国際標準化方案で、解剖学上の大脳の運動野、感覚野の位置に照応する運動区、感覚区で治療してもよい効果が出るので参考にするとよい。

*頚部、背部、腰仙部の督脈と膀胱経、小腸経の痛みやしびれ、運動制限に対しては、白川式手鍼の下後谿に刺鍼して運動鍼がよい。運動しているうちに、脊柱や背部の筋肉が驚くほど柔軟になる。

*上肢、下肢の痛みや、シビレは、通常、経絡病として、あるいは運動器疾患として治療されることが多いが、しばしば、臓腑の反応として、経絡上に痛みやシビレとして現れることもあるので、その場合は、臓腑弁証による取穴が必要である。

たとえば、膝の内側の痛みは肝気欝結で、外膝眼の痛みは胃の病で出現することがしばしばある。その場合は、下肢線の治療ではなく、患側の反対側の脳幹線Ⅱ中焦をで治療すると著効が出ることがある。

肝経のエリア―である膝の内側の痛みには、膝痛Ⅱ号穴(肘頭より約1寸外下方にある骨が集まってできたような窪み)が特効穴である。

 

4,小脳の老化に伴う平衡感覚の低下、足腰のふらつきや頼りなさ、協調動作のスローモーション化、記憶装置の機能低下による記憶力の低下、運動の学習能力低下等の治療、また運動における平衡感覚の向上、スポーツや運動の練習での学習能力の向上

*老化による認知症の治療に際しては、大脳と小脳の老化現象を鑑別した方がよい。小脳の老化による諸症状の大半は、腎の生理作用である作強の官の低下に相当する。

*小脳の老化の治療は、小脳線―補法、脳幹線下焦―補法

国際標準化方案の小脳に位置する平衡区で治療してもよい。

老人の治療では/風池、天柱と太谿あるいは復溜、懸鐘の補法を追加するとよい。

小脳の老化の治療ではなく、小脳の運動能力やその学習能力の向上には、小脳線、脊柱線の相当部位―瀉法、手鍼の下後谿―瀉法を追加してもよい。

 

5,老人病の治療

*脳幹の機能は、中医学の臓腑の生理作用に、ほぼ相応している。

脳幹を治療する脳幹線を上焦、中焦、下焦に3区分して、臓腑弁証に基づいて、上中下焦を選んで補瀉法を施すと、すべての臓腑病の治療に対応できる。

*老化が原因の病であっても、年だから仕方がないと思われがちであるが、老化の進行を食い止め若返らせることも一定程度可能である。

包括的な老化や若返りの治療は、脳幹線Ⅰ、Ⅱの下焦、、小脳線―補法、大脳線Ⅰ―瀉法を基本にして、さらに弁証に基づいて必要な治療線を追加してゆけばよい。

*老化に伴う耳鳴り難聴には、天衝から角孫の少陽後線―瀉法、脳幹線Ⅰの下焦―補法、

翳風、聴宮、外関、丘墟―瀉法、復溜―補法を追加取穴するとよい。

*老化が原因とされる眼病は、陰虚湿熱証が大半を占める。

脊柱線の中焦の数ミリ外方の両側で肝兪穴に相当する部位の反応線、大脳線Ⅰ、Ⅲ、脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦―瀉法、脳幹線Ⅰの下焦―補法

攅竹から睛明、紫竹空から太陽へ透刺―手技はしない、風池、天柱、光明、太衝―瀉法、三陰交あるいは復溜―補法

*耳、眼の治療線は、頭皮鍼の国際基準の位置を参考にしてもよい。

*老化に伴う頻尿、夜間の回数の増加、小便の失禁、また大便の失禁は、腎陽虚あるいは脾腎陽虚証―脳幹線1、Ⅱ下焦、脳幹線Ⅰ中焦―補法

太谿、関元、腎兪、脾兪―補法、陰陵泉―平補平瀉、関元に灸を加える。

*高齢者でも、飲酒の量が多い人、あるいは、甘いものを食べ過ぎる人は、腎虚証は理論上はあることは間違いないが、病気の直接的な病因、病機は飲酒が原因で生じた湿熱邪が下焦に下注して尿道が詰まったことで、頻尿になったと考えられる。そのような場合は、脳幹線Ⅰ、Ⅱの下焦、脳幹線1中焦―瀉法

陰陵泉、中極―瀉法

 

6,老化に伴う頚部、背部の痛み、とりわけ腰腿部の虚痛や無力感

*相応する脊柱線の治療線―先瀉後補法、脳幹線1下焦―補法

白川式手鍼の下後谿―平補平瀉、太谿(陽虚)あるいは復溜(陰虚)、懸鐘(髄会、老化に伴う骨の変形がある場合)、飛陽(絡穴)―補法

さらに、陽虚証には、関元や命門に補法と灸を追加するとよい。

*老化にともなって、足腰が無力な感じがして頼りなく、ふらつきを伴う腎虚腰痛には、老化による腎の作強の官の作用の低下によるものとしてと捉える。小脳線―補法、脳幹線Ⅰ下焦―補法、両治療線をセットにして治療するとよい。

 

7,不眠症

*不眠症の共通の治療線―大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法

*心肝火旺―脳幹線Ⅰ上焦(心火)、脳幹線Ⅰ中焦(肝火)―瀉法

風池、内関、神門、太衝―瀉法を追加するとよい。

*心腎不交―脳幹線Ⅰ上焦(心火)―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦(腎陰)―補法

風池、神門―瀉法、復溜―補法を追加するとよい。

*心脾両虚―脳幹線Ⅰ上焦(心血)、脳幹線Ⅰ中焦(脾気)―補法

風池、神門、三陰交―補法を追加するとよい。

*頑固な不眠症は、通常の弁証取穴による治療だけでも治療効果はあるが、根治させることが難しい場合がある。

弁証に関わりなく、大脳線1、大脳線Ⅲを追加すると、いずれの証型に対しても、治療効果の即効性、持続性ともによく、根治するケースが多い。

 

8,鬱病、精神安定、意欲の向上

*肝気欝結(気鬱化火)、痰迷心竅(痰火擾心)―大脳線1、大脳線Ⅲ、 脳幹線Ⅰ上焦(心)、脳幹線Ⅰ中焦(肝、脾胃)、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

風池、内関、神門、豊隆、太衝、鳩尾から中脘へ透刺―瀉法を追加するとよい。

*体鍼の弁証取穴による鬱病の治療は、即効性もあり、治癒に向かっているように思える時もある。しかし、鍼治療の無力さを思い知らされるほど逆戻りすることもある。信頼性において不安定性があり、根治させる力に欠けているように思える。

*頭皮鍼による治療と体鍼のコンビネイションの治療は、10数年来の鬱病患者であっても、鬱病の核心部分である鬱的精神症状が、数回の治療で、ほぼ消失し、精神的安定を保てるようになることが、しばしばある。

*しかし問題も残る。鍼治療で不眠症がなくなるが、睡眠薬の服用を継続することが多いので、逆に、嗜眠傾向になって困ることになる。現在は、病院と連携して治療できる状態ではないので、薬の扱いについての問題が残ることが多いので、患者に、この点をしっかり理解しておいてもらうことが必要である。

 

9,嗜眠、無気力、精神的落ち込み、眩暈、頭重、浮腫

*痰湿中阻、痰湿上蒙、痰迷心竅、肝気犯脾―大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ上焦(心、肺)、脳幹線Ⅰ中焦(肝胆脾胃)、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

風池、陰陵泉、豊隆、内関から間使の透刺、太衝―瀉法を追加取穴するとよい。

*脾虚生湿、中気下陥―大脳線Ⅰ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―補法

百会、足三里、合谷の補法を追加するとよい。

*痰湿が関係している病気は、鍼治療をすると即効性もあり治療結果もよいが、根本的に治療することは、食事内容や食習慣の問題もあって難しい。

現代は痰湿を生み出す食べ物(甘いもの、魚、野菜、果物等の生もの、油っこいものの取り過ぎ、過度の飲酒)に偏っている食事をしている人が多い。また、夜食の習慣、食事時間の不規則、早飯食い等も、痰湿を生み出す。

痰湿による病気は、数限りがなく、しかも完治するのは難しい。根本的には、食習慣を改める以外に方法がない。食事指導を丁寧にすること自体が、最大の治療効果をもたらす。

 

10,冷えのぼせ、片頭痛

*肝気上逆になると、肝気の上昇速度が平常より速くなるので、気に連れられて血も速く上昇するようになって、足手が冷えて頭顔面部がのぼせてくる。

*脈状では、左の脈は、心(血脈)、肝(蔵血)、腎(腎陰)であるので、血や陰の状態を反映するので、肝気鬱結症では、陰血の流れが詰まって、脈なし状態になりやすい。右の脈は、肺(一身の気)、脾(気の生産)、腎(腎陽)であるので、気や陽の状態を反映する。肝火、胃火、心火等の陽が盛んになると、脈状が浮、滑、有力になる。

治療をして冷えのぼせがなくなると、左右の極端なアンバランスの脈状も、徐々にバランスを回復してくる。

*冷えのぼせは、老人によく見られる腎陽虚証による冷え性、寒がりとは、根本的に異なる。

腎陽虚証には、灸をする必要があり、その効果も高い。しかし冷えのぼせに、灸をすると、手足が温まることはなく、さらに、のぼせの症状が悪化し、深刻な医療被害(顔面麻痺、じんましん、アトピー性皮膚炎等)が出ることもある。

肝病には、灸は禁忌である。肝気鬱結で、温煦作用のある気が鬱結している状態に、お灸をすることは、爆薬の導火線に火をつけるに等しい。

*このタイプの冷えのぼせの治療は、百会、太衝に鍼の瀉法をして降気すると、上逆していた気血が引き下ろされて頭が涼しくなり足が温かくなってくる。

*肝気上逆―脳幹線1中焦(肝)、脳幹線Ⅱ中焦(肝)―瀉法

百会、風池、太衝から湧泉に透刺(透刺する時の太衝の位置は行間から約2寸上の小さな窪み、湧泉の瀉法には引火帰源の作用があり、頭部の熱を足の方に引き下ろす作用がある)―瀉法

*片頭痛には、脳幹線Ⅰ、Ⅱ中焦、少陽前線、肩凝り線―瀉法

さらに丘墟(原穴)あるいは陽輔(経火穴で木の子穴)の瀉法をするとよい。

 

11,全身的冷え性、寒がり

*若くて体力のある人であっても、突発的に精神的な強いストレスが加わると、ショック状態に陥り、肝気鬱結で気血の流れが全面的に止まって意識不明に陥り、顔面蒼白で全身的寒がりになることもある。

また持続的な強いストレスがあり、きつい肝気鬱結になると、陰盛タイプで気鬱化火になりにくい人は、慢性的に全身の気血の流れが詰まり、気血が流れにくくなって、全身的冷え性、寒がりになりやすい。

このような全身的冷え性は、肝気鬱結という実証の極みであり、腎陽虚証の全身的冷え性とは、虚実の違いがあり、根本的に異なるタイプの冷え性である。

*脈診では、肝気鬱結で熱化しないで、全身の気血の流れが詰まっているので、脈の方も沈み、詰まって渋る。肝気鬱結の程度が強いと、左右の脈状は、脈なし状態になる。陽虚証でも、陽気が弱くなるので、脈は沈みやすくなるが、脈なしになるほど沈むくことはあまりない。

肝気欝結の治療をすると、気血が流れ始め全身が徐々に温かくなってくる。また、脈も、緩んできて、脈状が多少感じられるくらいに変化してくる。

*老人の全身的冷え性、寒がりは老化による腎陽虚証の可能性が高い。しかし若い世代の人(たとえば、7×4の28歳の女性は、腎気が最も旺盛な女盛りであるので、数%の例外を除けば、一般的には腎虚証はない)の冷え性、寒がりは、ストレスによる実証タイプの肝気鬱結による。

*肝気欝結タイプの全身的冷え性寒がり―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

内関から間使への透刺、期門、太衝、三陰交―瀉法を追加するとよい。

*灸は陰陽理論に従って行われるべきである。灸には、冷えや寒さには熱、水には火ということで、温熱散寒、温通経絡、温補腎陽、湿邪には灸の火で去湿、引火帰源等の作用がある。

熱邪による実熱証、陰虚内熱による虚熱のいずれの熱証にも、お灸は止めた方が良い。お灸の適応症かどうかの判断をする際は、必ず、寒熱の弁証が必要である。

また、温煦作用のある気が鬱結している肝気鬱結がベースになっている肝病には、お灸は、深刻な医療被害に直結することがあるので禁忌である。

*腎陽虚証タイプの全身的冷え性、寒がり―脳幹線Ⅰ下焦―補法

太谿、関元、腎兪―補法、さらに関元、命門に灸を追加するとよい。

 

12,生理痛

*実証タイプの生理痛は、生理前や生理の前半に、気滞瘀血で血の流れが詰まって実痛になる。血の色は暗く、血の塊り等の於血の症状がある。また冷えのぼせ、片頭痛、イライラ感、肩こり、季肋部痛や少腹部痛を伴うことがある。

*肝気鬱結の実証タイプ―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

内関から間使への透刺、三陰交、太衝、少腹部の肝経上の圧痛点―瀉法

*寒凝肝脈の実証タイプ―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法、

三陰交、太衝、中極―瀉法と灸

冬場あるいは冷房の強いところで、ミニスカートで素足の状態でいると、寒邪に侵襲されて生理痛になることがある。

*生理痛には三陰交を取穴するとよいと覚えている人が多いが、三陰交は血に関係する経穴である。血は単独で動くことはできないので、三陰交にだけ刺鍼しても、瘀血を効果的に処理して生理痛をなくする効果は弱い。

血を動かすには、気が血を先導して動いているのだから、行気できる経穴を取穴する必要がある。肝の疏泄作用を活発にして行気できる経穴がよい。肝経と同名経で、肝経の子経である心包経(心)の内関あるいは間使を取穴するのが最適である。実際に、内関あるいは間使を取穴して瀉法をすると、一穴だけでも、劇症タイプの生理痛であっても痛みは取れる。なお内関と三陰交の組み合わせにすると最適の治療になる。

*虚証タイプの生理痛は、血虚証タイプの人が、生理に伴って、さらに気血が失われ、血虚証がさらに進行するので、生理の後半から生理後に、しくしくと痛む虚痛になる。同時に、全身的消耗感や倦怠感を伴う。

*虚証タイプ-脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―補法

三陰交、足三里―補法

 

13,眼病(黄斑変性、中心性網膜症、飛蚊症、網膜剥離、サルコイドーシス、アトピー性白内障、緑内障、網膜色素変性)

食糧難による栄養不足、重労働による気血の損傷等による虚証が多かった時代には、眼病でも、肝血虚証や肝腎陰虚証等の虚証タイプが多かった。

食べ過ぎ、飲み過ぎ、過剰なストレス、運動不足等による生活習慣病が一般化している現代においては、眼病の病名が異なっていても、ほとんどの眼病は、肝気鬱結がベースにある。肝胆湿熱証などの実証タイプが大半である。

しかし、実証タイプの眼病も、長期化したり、加齢による老化が加わってくると、虚実夾雑、さらには、肝腎陰虚に変化することがある。

*肝胆湿熱証―脳幹線Ⅰの中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲ、脊髄線中焦の数ミリ外側で溝状で圧痛のある線(肝兪の位置に相当する部位)―瀉法、 頭皮鍼の国際基準の視区の取穴位置を参照してもよい。

*風池、天柱(あるいは圧痛点)、攅竹から上睛明へ透刺、絲竹空から太陽へ透刺、内関から間使へ透刺、陰陵泉、光明、太衝―瀉法をするとよい。

晴明、球后に深く刺鍼してもよいが、内出血の可能性があるので要注意である。

難病あるいは、効果的な治療法がないといわれる眼病であっても、それは現代医学の話であって、医学の原理が異なる中医学の立場からは、それほど困難とは思えないこともあり、治療成績もよいので諦めずに試してみるとよい。

 

14,狭心症、心筋梗塞

*心血瘀阻―脳幹線Ⅱ上焦、脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

発作時は、脳幹線Ⅱ上焦に刺鍼し手技をして、5分くらい置鍼していると、発作が沈静化し始めるが、さらに脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦を追加するとよい。

*内関から郄門への透刺、神門、膻中、三陰交、豊隆―瀉法

発作時は、頭皮鍼は、第4と第5胸椎棘突起間、第5と第6胸椎棘突起間の督脈の外方7分から、やや内方に向けて約1寸5分の深さまで刺入し強刺激する。

一時、発作が治まっても、再発する可能性があるので、病院へ行くように勧めた方が良い。

 

 

15,顔面麻痺

*現代の日本における顔面麻痺は、風邪によるものよりストレスが原因で起こる肝胆火旺証が多い。

*肝胆火旺―脳幹線Ⅰ中焦、大脳線1、脳幹線Ⅱ中焦、頷厭から懸釐の溝状の線がある少陽前線―瀉法

太衝、丘墟、風池、合谷、顔面の局所穴―瀉法を追加するとよい。

*風邪による顔面麻痺―脳幹線Ⅱ上焦、少陽前線―瀉法

合谷、顔面の局所取穴(初期の表証の時期は、刺鍼の深さは浅い方が良い。深く刺すと、邪気を深く追い込むことになる)

 

16,アレルギー性の疾患(花粉症、慢性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、化学物質過敏症等)

*アレルギー性の疾患は、湿熱証、肝気欝結証の実証と、肺気虚証の虚実夾雑証であることが共通している。

飲酒や甘いものを取り過ぎて脾胃湿熱証になると、脾胃の昇降の気機が失調して、脾の昇清作用と胃の降濁作用が低下する。

肺に栄養物質が昇って来なくなるので、結果的に、肺気虚になる。また胃の降濁作用が低下すると湿熱邪が肺に貯まるようになる。

ストレスで肝の疏泄作用が低下すると、脾胃の気機が一層悪化して、結果として、肺気虚証も進行する。

肺気虚で衛気不固になると、邪気からの防御作用が低下して、様々な邪気(アレルゲン)に侵襲されやすくなる。

邪気に侵襲されると、脾胃で造られて、肺、肝、皮下等に貯まっていた湿熱邪が体表に溢れ出てくる。花粉症は肝から眼へ、肺から鼻へ、アトピ―は皮下から皮膚へという具合に、湿熱邪が溢れ出てくる。

*湿熱証タイプの人は、潜在的にアレルギー体質ということになるので、アレルギー疾患をすでに発病している人は、もちろん、予防的な意味で、飲酒、過食、ストレス、運動不足、不眠の「養生5点セット」を心がける必要がある。

*アレルギー性の疾患の共通穴―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1―瀉法、脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補

曲池、内関、陰陵泉、三陰交、豊隆、太衝―瀉法、肺兪あるいは合谷に先瀉後補をするとよい。

疾患別に経穴の加減をするとよい。アレルギー性の喘息には天突を加える。

 

17,美容(表情の問題、顔面のクマ、くすみ、しみ、しわ、吹きでもの、頬の浮腫とたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂、足の浮腫み、腹部膨満、乳房の下垂、臀部の弛み、食欲のコントロール、減肥)

*美容全般(顔面から全身まで)の共通の治療線―脳幹線1中焦、脳幹線1上焦、大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅱ中焦、頷厭から懸釐の少陽前線―瀉法

風池、天柱、内関から間使の透刺、太衝、三陰交、陰陵泉、豊隆、足三里、内庭―瀉法を追加するとよい。、

*この治療で、精神状態を好転させることができるので、美容の第一のポイントである表情をよくすることができる。

*眼瞼下垂等の様々な下垂症状は、これまで、中気下陥と弁証されてきた。しかし食欲が旺盛でパワフルな実証タイプの人でも、様々な下垂症状がみられる。

中気下陥でなくとも、過食、飲酒による痰湿中阻、湿困脾、さらにストレスによる肝気鬱結で、脾胃の昇降の気機が正常に働らかなくなり、脾の昇清作用が低下して、結果的に、中気下陥と似たような下垂傾向が現れる。さらに、胃の降濁作用も低下するので、痰湿が降りてこなくなり、痰湿が停滞して重く垂れ下がった感じにもなりやすい。

*痰湿中阻による下垂症状全般―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

陰陵泉、足三里、豊隆、中脘、中極、太衝、内関―瀉法

痰湿中阻や肝気欝結が改善されると、脾の昇清作用が回復して、眠気眼で、ぼんやりした表情がきりりとしてくる、、瞼が軽くなって大きく開き細目から大きな目に変わる、頬の弛みや浮腫が取れ顔面が引き締まってリフトアップされるので、ほうれい線も消える。

同時に、全身の下垂傾向と浮腫(乳房や臀部の弛み、腹部の肥満、下肢の浮腫)、さらに、低血圧による立ちくらみや寝起きの悪さ、頭重、嗜眠傾向、脱肛、子宮下垂等も改善される。

*顔面のクマや、皮膚のくすみは、ストレスが主な原因である肝気鬱結証による気滞瘀血で、於血の暗い色が皮膚に反映してできる。また血の循環が悪くなって、皮膚に栄養が届かないので皮膚がカサカサして潤いや艶がなくなる。いずれも、肝気欝結の治療がポイントになる。

大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、少陽前線―瀉法

内関から間使への透刺、三陰交、太衝、風池、天柱、合谷の瀉法を追加するとよい。

*吹きでものは生理前に出やすいが、生理前になると、血が下がるので、陰陽のバランスが崩れて頭顔面部が熱化しやすくなる。また、肝火が胃に移る、あるいは、熱化しやすい食物を過食て胃熱が発生し、それらの熱が顔面部の胃経に上ってくると、吹き出物が出やすくなる。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅰ、少陽前線―瀉法

中脘、内庭、内関、太衝―瀉法

*顔面の美容に対して、局所取穴をしてもかまわないが、顔面の美容の問題は、ほとんど全身性の問題と関連しているので、局所取穴の効果は極めて限定的である。

本治法の頭皮鍼や弁証取穴で、顔面や身体の美容の問題は、ほぼ改善されるが、シミ、しわの治療では、局所取穴を併用してもよい。

食欲のコントロールや減肥治療では、頭皮鍼と弁証配穴による治療は、本治法であり、即効性も高い。耳ツボを加えると持続性が高まる。

局所への刺鍼とパルスによる治療も一定の効果があるが、表示法的効果に終わることが多いので、その必要性はあまりない。

*食欲のコントロールや減肥―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法。

中脘、水分、内庭、足三里、豊隆、陰陵泉、太衝―瀉法をするとよい。

 

18,パソコン病、頚部の痛みや肩こり

パソコン等の労損で形成された於血による頚、肩、上背部の凝りや痛みに対する共通の治療線―百会から絡却の肩凝り線、脊柱線の頚椎とその数ミリ外方の健側の反応線、脊柱線の上焦とその数ミリ外方の健側の反応線―瀉法

白川式手鍼の上焦穴、三焦穴、下後谿、下合谷の中から選穴し運動鍼にするとよい。

ストレスからくる肝欝気滞瘀血の痛みや肝気上逆によるのぼせを伴った張痛、痰湿証や湿熱証による重痛―共通の治療線に脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法を追加するとよい。

*労損による瘀血タイプ―内関から間使へ透刺、風池、天柱、丘墟、外関、曲池、後谿―瀉法

*肝気鬱結、肝気上逆タイプ―内関から間使へ透刺、百会、風池、丘墟、太衝から湧泉へ透刺―瀉法、

*痰湿証、湿熱証タイプ―風池、陰陵泉、豊隆、後谿―瀉法

*中気下陥・気虚瘀血の虚証タイプ―脳幹線Ⅰ中焦―補法または先瀉後補

百会、足三里―補法、三陰交―瀉法

*肝陽上亢―脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、太衝、丘墟―瀉法、復溜―補法

痛みや硬結が残っている場合に、局所に取穴するか、耳ツボ、吸い玉、手技療法もよい。

 

19,頻尿、前立腺肥大、インポテンツ、腰部仙骨部の重痛

*これらの疾患は、従来は、腎陽虚証として弁証されてきたが、高齢者は、その可能性が高いが、それ以外の比較的若い世代では、90%以上は湿熱下注として弁証される。このように変化してきた理由は、現代人は、アルコールの摂取量が限度を超えている人が多いこと、あるいは、甘いもの、火を通さない生もの、油っこいものを取り過ぎる傾向があり、これらが中焦で湿邪、あるいは湿熱邪が大量に生み出され、それが下焦に下注し下焦で湿熱邪が詰まって、このような疾患を引き起こすことになる。

ストレスが加わると、症状をさらに悪化させることがある。

*湿熱下注―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦、脊柱線下焦―瀉法

陰陵泉、中極(やや下方に向けて1,5寸の深さまで刺入して尿道に響かせる。次膠、あるいは秩辺付近の反応点から内下方に向けて、2寸から2寸5分の深さまで刺入し、陰部神経を狙って尿道に響かせる―瀉法

即効性があり、また食養生と治療を継続して、湿熱邪が去邪されると完治する可能性もある。

*腎陽虚症―脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦―補法

太谿、関元、腎兪―補法、関元と命門に灸をするとよい。

 

20,慢性腎不全

*腎には、実証はないという考え方があり、腎病は、腎性不足、腎気虚証、腎陽虚証、腎陰虚等の虚証として弁証されてきた。腎に実証はないということの意味は、腎精は不足することで病になることがあるが、過剰になり過ぎて病になるということはないということである。

また、心のように心包という防衛隊で衛られているわけではないので邪気にやられることはないということではない。

臨床上は、腎も、邪気に犯されて発病することがしばしばあるので、一面的解釈をしないように注意すべきである。

現代では、腎虚証タイプの腎臓病の患者はめずらしい。これは、病因から考えると、分かりやすい。現代は、食糧難で、栄養不足の時代ではないので、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス等の生活習慣病を引き起こすような原因が、腎病においても主要な病因になっている。

腎病であっても虚証がメインではなく、中焦で作られた湿熱邪が腎膀胱に下注して引き起こされる湿熱下注が患者の大半である。

弁証をする際には、断片的な一般的理論の誤った適応に振り回されることなく、現代の時代の特徴を踏まえて、客観的で具体的な情報に基づいて四診合算による総合判断によって、どうしてこのような病気になったのかというストーリーを、つまり病因病機について明らかにした方がよい。

*人工透析をしている患者を治療対象に考えているわけではない。鍼治療をして、人工透析をする必要がなくなるというようなことは考えにくい。しかし、人工透析にともなう諸症状は、鍼治療で緩和される。

ここでの治療対象は人工透析を開始する以前の段階であり、慢性腎不全の患者の大半を占めている下焦湿熱証タイプの患者が対象である。この段階であれば、病の程度によるが、鍼治療の効果がよいので、人工透析に頼ることなく、鍼治療で、病状をコントロールすることは可能であり、治癒する可能性もあり得る。

腎虚証タイプの慢性腎不全は、予後の判定は難しい場合があるので、ケースバイケースで判断した方がよい。

*下焦湿熱証―脳幹線1下焦、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

陰陵泉、中極、次膠、足三里、中脘―瀉法にするとよい。腎経の経穴そのものは、経絡病の場合は除外して、直接的な瀉法をすることは腎の正気を損傷することを避けるために控えた方がよい。

*腎陽虚あるいは脾腎陽虚―脳幹線Ⅰの下焦と中焦、脳幹線Ⅱ下焦―補

太谿、関元、腎兪、足三里―補法と灸、陰陵泉の先瀉後補

 

21,禿

*禿の証型―老化に伴う腎精不足、消耗性の慢性病、体力の消耗等による気血不足は、虚証タイプの禿になる。

さらに抗がん剤等による特殊なケースの虚実夾雑の禿もある。

飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス、運動不足、パソコン等のやり過ぎによる頚肩部のつまり等、生活習慣病を引き起こすのと同じ原因である実証タイプの湿熱証、肝気鬱結症、瘀血症等による禿がある。高齢者を除けば、実証タイプの禿が大半を占める。

*腎精不足、気血不足等の虚証タイプ―脳幹線Ⅰの下焦と中焦―補法

太谿(気虚、陽虚、腎性不足)あるいは復溜(陰虚)、気血不足には三陰交、足三里―補法、さらに陰虚には百会、風池は瀉法、他の虚証タイプには、百会、風池は補法にする。

*飲酒や甘いものの取り過ぎと、持続的なストレスが原因で引き起こされる肝胆湿熱証では、頭部が熱くなり、しかも多汗になるので、まるで、お湯で毛根が蒸されるような状態になり髪が抜けてゆく。

肝胆湿熱証の禿げやすい部位は、肝経のルート上にある百会の位置する頭頂部、胆経と胃経の交会穴である頭維の付近。

なお肝胆湿熱証だけでなく、脾胃湿熱証も同時にあるのが普通であるが、そのような場合は、頭維の付近から前額部全体にかけて禿げ上がる。

肝胆湿熱証の禿―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1―瀉法

百会、頭維、風池、陰陵泉、太衝、足臨泣、内庭―瀉法にするとよい。

*ストレスによる肝気鬱結になると、於血が形成されて気血の流れが詰まって毛根に栄養を補給できなくなるので脱毛する。さらに、労逸による頚、肩部に瘀血があれば症状を悪化させる。

肝気鬱結になると、とりわけ胆経に沿って於血による円形性脱毛症ができやすくなる。さらに持続的な強いストレスによる慢性的肝気鬱結証では、円形性脱毛症の範囲を超えて、肝胆の経絡のルートである百会のある頭頂部や胆経の走行線上から禿の範囲が拡大して全面的に禿げることもある。

肝気鬱結による於血証タイプの禿―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法、

禿ている局所に梅花鍼か散鍼をしてもよい、百会、四神聡、風池、内関から間使へ透刺、三陰交、太衝、丘墟―瀉法

 

22,甲状腺(バセドー氏病、橋本病)

*バセドー氏病の初期は、激しい肝火上炎があり、その熱邪によって大量の発汗が起こり、それによる気随津液で、急速に気陰両虚が進行する。

この病は、一見すると、実証の症状だけが目に入ってくる。また機能亢進というイメージが焼き付いているので、なおさら、そう見える。

しかし、機能亢進すればするほど、その分、虚の程度も進行するのが、この病の特徴である。虚の側面を見落とさないようにして、しっかり気陰を補うことが治療のポイントになる。

バセドー氏病―脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ下焦―補法

百会、風池、内関から郄門への透刺、天突、太衝、甲状腺腫への局所取穴―瀉法、足三里、三陰交―補法

*バセドー氏病で、肝と密接な関係にある眼が球突出するのは、肝気上逆、あるいは肝火上炎で脳の内部が膨張し圧力が高まって眼球が突出すると考えられる。その予防あるいは初期症状の治療には、平肝潜陽の作用がある百会、風池、太衝、光明―瀉法、復溜―補法をするとよい。

バセドー氏病の後遺症としての眼球突出の治療は、平肝潜陽の作用のある経穴を使って脳内の圧を人為的に下げた状態にしておいて、眼球を手掌でしばらく圧迫する治療を繰り返すと、徐々に、元の位置に戻るようになってくる。

眼球突出の程度がひどいものは、眼窩内刺鍼をした方がよい。さらに、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、少陽前線、大脳線Ⅲ、風池、天柱、太衝―瀉法をした方がよい。

*橋本病の初期は気虚証であるが、病気が進行すると陽虚証になる。逆に、若い女性で、気虚証や陽虚証の特徴的な症状が揃っているような場合は、橋本病を疑ってみてもよい。気虚証の段階の橋本病は治療効果がよい。

気虚証―大脳線1―瀉法、脳幹線1の上焦と中焦―補法

天突―平補平瀉、 足三里、合谷、百会―補法

陽虚証―大脳線1―瀉法、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦―補法

天突―平補平瀉、太谿、足三里、関元、腎兪―補法、 関元、足三里に灸頭

鍼、さらに中脘、膻中、大椎、至陽、命門に温灸をするとよい。

 

23,腰痛(ぎっくり腰、腎虚腰痛、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、湿熱下注による重痛、脊柱管狭窄症、痺証、癌の骨への転移による腰痛)

*腰痛の共通の治療線―脊柱線下焦、(腰椎、あるいは仙骨)と、患部に相応する部位で、督脈上の脊柱線下焦の数ミリ外方にある健側の反応線―瀉法

*ぎっくり腰―脊柱線下焦―瀉法

手鍼(下後谿、あるいは下焦、三焦)、あるいは委中―瀉法、あるいは局所

の阻力鍼法

*腎虚腰痛―脳幹線Ⅰ下焦、脊柱線下焦―補法

陽虚―太谿、腎兪、関元に鍼の補法と灸、陰虚―腎兪、復溜―補法

*椎間板ヘルニア―脊柱線下焦―瀉法

手鍼(下後谿、あるいは下焦、三焦)、あるいは委中―瀉法、あるいは局所の華佗挟脊―瀉法

*骨粗鬆症の急性期―脊柱線下焦―瀉法、

手鍼(下後谿-瀉法)、脳幹線Ⅰ下焦―補法

陽虚タイプ―太谿、懸鐘、腎兪、 陰虚タイプ―復溜、懸鐘、腎兪―捻転の補法(各穴に5~10分間)

この治療で、急性期で、全く動けないくらいの状態であっても、治療後には、なんとかトイレに行けるようになる。髄会の懸鐘への5分間以上の補法が最も効果的である。

*湿熱下注による重痛―腰痛の訴えがあった場合、治療に取り掛かる前に、その症状が、痛いか、重いかを確認すべきである。痛ければ瘀血、重ければ湿邪の可能性が高いので治療法も異なってくる。

湿熱下注―脊柱線下焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

陰陵泉、束骨(体重節痛を主る兪穴)、中極、次膠、委中、手鍼(下後谿)―瀉法、 湿邪による重痛には、局所取穴の効果は薄いので省略してもよい。

*脊柱管狭窄症は、椎間板ヘルニアや骨の変形に伴う物理的狭窄と瘀血により、気血の流れが詰まりぎみであるところに、湿熱邪が下注してきて、さらに詰まりが悪化した状態である。

この病の特徴は、脊柱管内部で邪気による詰まりの程度が強いので、下肢の方への気血の流れが悪くなり、歩いて消費される栄養量に対して、供給量が追い付かなくなる。それで少し歩くと栄養不足に陥り歩けなくなってしまうのである。休憩すると、供給量が徐々に増加してくるので、また歩けるようになる。

このようなことなので、治療のポイントは、脊柱管内の湿熱邪や於血を効果的に取り除いて気血の流れを回復することである。

また、腎虚証による骨の変形等があれが、去邪を先行した治療の後に、腎虚証の治療をすることになる。

脊柱管狭窄症―脊柱線下焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

内関から間使の透刺、束骨、陰陵泉、三陰交、中極、次膠、委中―瀉法、手鍼(下後谿-瀉法)

*痺証―風寒湿邪による腰痛―全身的に正気が衰えていれば、その虚に乗じて風寒湿邪に侵襲される可能性が大である。若い人であっても、産後や正気を損傷している状態で、無理をして風寒湿邪にさらされるようなことをすると、痺証になることがある。

しかし、虚証でなくとも、またスポーツ選手のような屈強な人であっても、痺症になることがある。

運動をして汗をかいたままの状態、つまり、汗腺が開いたままになっている状態で、汗で湿った下着のままで寒風吹きすさぶ外に立っていたら、風寒邪にやられて、痺症になる可能性がある。

例え、正気が充実していても、邪気に襲われるような条件があれば、痺症になることもある。運動をした後の養生が大切である。

また、骨折、捻挫、椎間板ヘル二ア、手術の痕などが治らずに残っている状態であれば、そこで、気血の流れが詰まっている。全身的虚証でなくても、局所のつまりが原因で正気不足になっているので、邪気に侵襲されて痺証になることがしばしばある。

*痺症による坐骨神経痛―脊柱線下焦、百会から通天への斜めの治療線である股関節、前頂から頭維までの溝状になっている斜めの線で、前頂よりの3分の1の部分の大脳線Ⅳの下肢線―瀉法

手鍼の(下焦)―瀉法、委中(四総穴)、崑崙(喘咳寒熱を主る経穴)、陽輔(経穴)―瀉法で寒邪を取る、 束骨(体重節痛を主る兪穴)、足の臨泣(兪穴)―瀉法で湿邪を取る。局所取穴に灸頭鍼をして寒湿邪を取る。

*癌の骨への転移による腰痛―脊柱線下焦―瀉法、脳幹線Ⅰの中焦と下焦―先瀉後補

手鍼(下後谿)、委中―瀉法、太谿あるいは復溜、懸鐘、足三里―補法、局所取穴は癌の転移の問題があるので禁忌。耳ツボは即効性と持続性があるのでよい。

 

 

24,五十肩、肩関節痛、肩凝り

*五十肩は風寒湿邪による痺症であり、天候に左右されやすいという特徴がある。肩関節痛はスポーツや仕事で痛めた通常の運動器疾患であり、五十肩とは病因が異なるので、その治療法も多少の違いがある。

*共通の治療線―百会から絡却までの肩凝り線、脊柱線頚椎の健側より数ミリ外方の反応線、健側の顋会から頭維までの線の真ん中の3分の1の大脳線Ⅳ上肢線―瀉法、

*大腸経には曲池、あるいは井穴の商陽、三焦経には外関、あるいは井穴の関衝、小腸経には手鍼(下後谿)、肺経には尺沢あるいは井穴の少商―瀉法

*同名経の足の経穴を取って、上の病である肩関節を治療することができる。

陽明大腸経の肩髃の痛み―陽明胃経の足三里の下1寸―瀉法

少陽三焦経の肩膠の痛み―少陽胆経の陽陵泉―瀉法

太陰肺経上の肩前の痛み―瘀血がある時は太陰経の三陰交、湿邪がある時は太陰経の陰陵泉―瀉法

*五十肩での寒湿邪には局所の灸頭鍼がよい。五十肩の初期で、病位が筋肉にあるときは、筋肉に沿って横刺する。時間がたって、肩関節内部の深部に痛みがあり、於血による夜間痛がみられるような場合は、肩髃、肩髎(腕を少し拳ると窪みができるところ)に、約45度角で、深さ1寸3分くらい刺入する。

*肩凝りの標示法は、ほとんど五十肩や肩関節痛の治療に準じたものになるが、肩凝りは、弁証論治による治療をしなければ、その場しのぎの治療になり、患者との信頼を失うことになる。

肩凝りのタイプとしては、パソコン等の労損で頚椎に何らかの損傷を伴っていることがあり、頚、肩だけの凝りではなく上肢に痛みやしびれが出やすい於血証タイプ、

ストレスで肝鬱気滞於血になって詰っているタイプ、あるいは肝気上逆になり、熱感を伴って膨張するような、あるいは張ってくる感じがするタイプ、

痰湿や外湿で重だるくなるタイプ、

さらに、気虚於血タイプ、肝陽上亢タイプ、心血悪阻タイプ等がある。

臨床上は、いくつかのタイプの複合である場合が多い。治療は、タイプに相応した治療をする必要がある。

*労損による於血証タイプの治療は、標示法でよいが、それ以外のタイプは、肩凝りの症状に目を奪われることなく、臓腑弁証に基づいた治療を優先した方が、結果的には良い効果が得られる。最後に局所的に残った痛みや凝りがあれば、局所取穴で簡単に取れることが多い。

 

 

25,手術の癒着による後遺症(乳癌、子宮癌等)

*上枝の手術の後遺症には、顋会から頭維までの線の満中の3分の1の大脳線

Ⅳ上肢―瀉法

下肢の手術の後遺症には、前頂から頭維の線で前頂よりの3分の1の大脳線Ⅳ

下肢―瀉法

*胸部の心、肺や乳房の手術による癒着で発生する瘀血による引きつりや、痛み、リンパの流れの滞りによる浮腫―脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅱ上焦―瀉法

肺の手術には、尺沢、心の手術には内関、乳房の手術には足三里―瀉法、

*肝胆脾胃の手術の癒着による後遺症―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

肝―太衝、胆―陽陵泉、脾―三陰交あるいは陰陵泉、胃、大腸―足三里―瀉法、

*子宮、卵巣、前立腺、大腸の手術による於血―脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦(大腸には、脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦を加える)

子宮、卵巣―三陰交、太衝、 前立腺―三陰交、陰陵泉、 大腸―上巨虚―瀉法を加える。

*手術による癒着の後遺症は、全て瘀血として捉え、全身的観点から、間使、三陰交の瀉法で行気活血すると効果的である。

また手術部位の該当する経絡の井穴を取り、時には運動鍼にして疎通経絡をはかる。また、局所の圧痛点、反応点に刺鍼する

*また、手術の結果、癒着により、リンパの流れが詰まって起こる浮腫(乳癌や子宮癌の手術でよくみられる)は、もともとの原因である手術の癒着(病因論からすると人為的な外傷により形成された於血として捉える)による於血を取り除くと、同時に、脾が水湿の運化作用の中軸であるので、この作用を利用して去湿する。

また関係する経絡の五兪穴の体重節痛を主る各経絡の兪穴を取穴して去湿する。さらに、三焦の気能化水の作用を活発にして浮腫の治療をすることができる。

*乳癌のケースでは、乳房は上焦に位置し、また浮腫の部位が肺経の領域に重なっているので、肺の通調水道作用を活発にさせることで治療することできる。

乳房は脾と関連し、また乳頭は肝と関連し胃経の走行上にあるので、治療に際しては、これらのことも考慮した方がよい。

手術の経過、患者の感覚、さらに触診もして、水湿の流れの詰まりの原因になっている局所を特定して、そこに刺鍼するとよい。

*乳癌の手術後の浮腫の治療―尺沢、陰陵泉、豊隆、陽池、局所の圧痛点、反応点―瀉法の治療穴を於血の治療穴(内関から間使に透刺、三陰交、太衝)に追加取穴する。

*子宮癌の手術後の浮腫には、子宮が下焦にあることから、水湿の運化作用の中軸である脾に加え、腎膀胱の気化作用を活発にして去湿する。また生殖器は肝経のルート上にあるので、肝経の兪穴を使用することができる。

陰陵泉、中極、子宮穴、太衝、次髎局所取穴―瀉法を、於血の治療穴に追加する。

 

26,骨折や外傷の手術後のリハビリ段階での治療

*骨折部位は、長期間、固定するので、リハビリ段階になって動かそうとしても固まっているので痛くて動かすことができない。リハビリ単独で回復させるには長期間かかる。

これは病因論から言えば、労逸ということになり、つまり、長期間、動かさなったことで頑固な瘀血が形成されたと考える。強力な行気活血を行う必要があり、また、そうすることで、固まって痛くて動かすことができなかったのに、一気に動かせるようになる。

*骨折部位に相応する治療線を選ぶ。たとえば、手足の骨折部位には、そこに相応する大脳線Ⅳの上肢、下肢の治療線を取る。治療線のすぐ近くに反応が出ている線があれば、そこも追加するとよい。

*どの部位の骨折であっても瘀血を取るために、全身的観点から、間使、三陰交の瀉法で行気活血をした方がよい。また、骨折部位で該当する経絡の井穴を取穴して運動鍼にして疎通経絡するとよい。

*井穴への取穴は、爪を使うと、経絡の溝と井穴のアナを確認できる。その穴に20度角で薄い筋肉層に沿って約1分刺入すると、無痛で得気が取れる。その得気に対して捻転の瀉法を軽く施す。得気が取れていれば手技をしても、ほとんど痛みはない。

刺鍼した状態で運動鍼にする。さらに関節の運動やマッサージを加えてもよい。

井穴は抜鍼した際に出血するが、出血が止まるまで、アルコール綿でよく拭き取るとよい。

*鍼治療を取り入れたリハビリをすると、通常のリハビリ期間を3分の1以下に短縮できる。

数回の治療で、リハビリを省略することができるくらい早期に回復することもある。

*骨折部位や手術部位が、寒い日や雨降りには、神経痛様の痛みが出るになりやすいが、リハビリ段階で、鍼治療を取り入れると痺証になるのを予防できる。また、痺症になれば、鍼治療が最も効果的治療法である。

多くの場合、このような痺証は、手術の失敗による後遺症の痛みとして考えられることが多いが、厳密にいうと後遺症とは言えない、手術をした部位と同じ部位に、別の病気である風寒湿邪による痺証が発症したというのが正確な捉え方である。

*痺証は、全身的な虚証があり、邪正闘争に負けて発症すると考えられてきた。臨床上は、正気が充実している人であっても、外傷による骨折や捻挫、また手術による癒着等による於血があると、そこで、気血津液の流れが滞るので、結果的に、局所が正気不足に陥り、風寒湿邪に侵襲されやすくなり痺証になるケースがしばしば見かけられる。

外傷の治療や手術に際しては、あらかじめ、治療の一部に鍼治療を組み込んでおけば、於血を取り除けるので痺証の予防ができる。

さらに、気血の流れが、きわめて良好な状態になるので、術後の痛みの予防ができ、術後の回復も飛躍的に向上する。

27,酸欠等による脳障害

*労災事故や赤ちゃんの保育器の事故等によって、命は助かったけれど、酸欠による脳障害が残るということがある。このような脳障害には、頭皮鍼による治療が最適である。発症後の経過期間が相当、長くても効果が期待できる場合がある。

*酸欠による脳障害は、上肢、下肢の運動障害、精神障害、知能の障害、感覚器の障害、言語障害、内臓の障害という具合に、広範囲に及ぶこともあり、その程度も、軽度から重度まであるが、すべて治療対象になり得る。治療結果が、すべて良好ということはないが、障害の程度がかなり改善することが多い。

*上肢や下肢の運動障害―大脳線Ⅳ上肢、下肢、脊柱線頚椎、大脳線Ⅰ

関係する経絡の井穴に刺鍼して運動鍼にするとよい。

小脳の障害―小脳線、大脳線Ⅲ

脊柱の障害―脊柱線の相応する部位、大脳線Ⅰ

手鍼の下後谿―瀉法

解剖学上の大脳の運動野、感覚野、小脳の位置に刺鍼する「頭鍼療法の国際基準」の治療法を参考にしてもよい。

運動器の障害には、手鍼の下後谿、三焦、下焦、上焦を追加してもよい。

*精神障害、知能の障害―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ、大脳線Ⅱ(上焦、中焦、下焦)大脳線Ⅱの上焦、中焦、下焦は障害に相応する治療線―瀉法、例えば、精神的イラつき、怒りやすい―大脳線Ⅱ中焦、また怖がり―大脳線Ⅱ下焦、

*眼の障害―大脳線1、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲ、肩凝り線、脊柱線中焦の数ミリ外方(肝兪の位置に相当する位置)―瀉法

国際基準の視区を参照してもよい。

太衝、光明、風池、天柱、攅竹から上睛明、絲竹空から太陽へ透刺を追加するとよい。

*耳の障害―天衝から角孫の少陽後線、脳幹線Ⅰ中焦、―瀉法

国際基準の治療線を参考にしてもよい。

翳風、外関、丘墟―瀉法を追加するとよい。

もし、腎虚証があれば、脳幹線Ⅰ下焦―補法、太谿(気虚、陽虚、腎性不足)あるいは復溜(陰虚)―補法を追加するとよい。

*言語障害―大脳線1、脳幹線Ⅰ上焦、大脳線Ⅳ顔面(構音障害)―瀉法、

国際基準の言語区(失語症)を参考にしてもよい。

廉泉、通里―瀉法をするとよい。

*内臓の障害―脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦、 脳幹線Ⅱ上焦、中焦、下焦、大脳線1―瀉法から臓腑弁証に基づいて相応する治療線を選ぶ。

*脳障害の共通穴として内関から間使へ透刺、三陰交、風池、天柱、懸鐘―瀉法をするとよい。

また腎虚証がある場合は、脳幹線Ⅰ下焦、小脳線―補法、太谿あるいは復溜、懸鐘―補法を追加取穴するとよい。

*脳血管障害、脳腫瘍、外傷、細菌の毒素、薬害等による脳障害にも、この治療法は参考にできる。

 

28,痰切、咳

*痰が多すぎても、痰が詰まって出ないのも、痰が絡んで咳こむのも苦しいが、比較的シンプルな治療法で対処できる。

*痰湿阻肺―風邪を引いていなくても、脾胃で作られた痰湿が、肺に貯まり、止めどもなく痰が喉から出てくることがある。

このような痰の治療は、生痰の源は脾、貯痰の器は肺、痰が詰まっている部位は喉であることから、痰湿阻肺の治療線は、大脳線Ⅰ(喉)、脳幹線Ⅰ上焦(肺)、脳幹線1中焦(脾胃)―瀉法

天突、豊隆、尺沢―瀉法をするとよい。

*痰の色が黄色くて、ねばくなり、痰が切れない等、熱化して痰熱になっている場合は、栄穴の内庭、魚際を追加するとよい。

*風邪引きで、表証から裏証になって、痰が黄色く、ねばくなり、また喉の奥の気管支付近から、酷い咳や痰が出るような場合も、この治療法でよい。

*喘息発作時の治療法も、これでよい。

 

29,全身的レベルの筋肉痛、運動麻痺、筋萎縮

*線維筋痛症(筋肉痛)、多発性硬化症(筋麻痺)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(筋萎縮)

これらは、全て難病で、病気の原因も治療法も分かっていない。

このような病名を聞いた段階では逃げ出したくなるが、現代医学にとって難病であっても、医学体系の異なる中医学にとって難病であるかどうかは病名からは判断することはできない。双方にとって難病の場合もあるし、いずれかの一方において難病であって、もう一方にとっては適応症ということもある。

病名が難病であっても、一切、気にする必要はなく、中医学の原理に沿って適応症かどうかを冷静に判断して適応症であれば、たんたんと治療をすればよい。

*中医学の立場からすると、これらの筋肉の病は、病気の具体的な引き金になった原因や患者が置かれてきた状況から判断して、主な病因は強いストレスであると考えられる。

主訴は、症状が異なるが、いずれも全身的な筋の問題(筋の痛みあるいは筋の麻痺あるいは萎縮)と肝の関係、さらに肝と関係する症候群等から総合判定すると、弁証は肝気鬱結である。

個々の筋肉の問題ではなく、全身的レベルでの筋の問題ということになるので、「肝血により全身の筋は栄養される」という中医学の原理が、これらの筋の病を考える際のポイントになる。

強い肝気鬱結状態になると、肝の疏泄作用が低下して、肝に蓄えられている血の流れが全身的に詰まりやすくなる。

とりわけ、筋に対する血流が悪化すると、、瘀血による筋痛が全身的レベルで出たり、さらに詰まりの程度が強くなると、結果として筋に肝血が届かなくなり筋が栄養不足に陥り、体質やその時の発病の条件の違いによって、筋の麻痺、さらには、筋の萎縮という症状が出るようになったと考えられる。

これらの3種類の病気は、病因病機からみると、症状や程度も異なるが、同類の病であるので、異病同治で治療することができる。

*肝血虚証でも、全身レベルで血が不足して筋を養えなくなると、似かよった病気になる可能性があるが、強いストレスによる肝気鬱結が病の基礎になっている場合は、このような病になる。病因論から鑑別する必要がある。

*また、ALSは、筋の委縮という点に着目すると、「痿証」の範疇になるが、古典で取り上げられている痿証の病因は肺熱であるので、古典を標準にすると、痿証の範疇には当てはまらない。

*脳幹線Ⅰ中焦(肝)、脳幹線Ⅱ中焦(肝)、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法

さらに、症状によって適当な治療線(たとえば、大脳線Ⅳの上肢、下肢、脊柱線の頚椎、上中下焦)を追加するとよい。

*内関から間使へ透刺、三陰交、太衝、陽陵泉、風池―瀉法

症状の変化に応じて、取穴を臨機応変に変えてもよい。

 

30,慢性疲労症候群

*問診で、「いかがですか」との問いに、最初に「疲れる、あるいは疲れた」と答える患者が多い。

おそらく答えるときの表情からして、主訴は、全身的疲労倦怠感であると解釈できる。疲れるという曖昧な表現を、どのように医学的に解釈するべきか悩むところであるが、言葉の意味から素直に解釈すると、何かをしすぎてエネルギーを使い果たして消耗している状態であるといえる。虚実でいえば、虚の状態であるといえる。臨床上、果たして、この解釈で当たっているかどうかということが問題である。

*正気不足による慢性疲労症候群―気虚、血虚、津液不足―脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦―補法

合谷、足三里、三陰交―補法

気血津液の何が、どの臓腑で不足しているかという臓腑弁証をして、上記の経穴に、臓腑の虚を補う適切な経穴をプラスしてゆけばよい。

*疲労感というものは、虚証の時だけ出るものではなく、肝気欝結による気滞、瘀血あるいは痰湿による詰まりで、気血の巡りが悪化しても、詰まって苦しいというのも疲労感として表現されることがある。

膨張感、痛い、痺れる、重い、熱ぽい、冷える等の邪気の性質を反映した感覚も、「疲れた」と表現されることがある。

さらに、これらの身体的症状や感覚があると、それに相応した精神症状(イライラ感、落ち込み、無気力、倦怠感、泣く、集中力がなくなる)も現れるので、それらも疲労感として自覚されるようになる。、

「疲れた」という表現は、上記したような様々な症状や感覚を、ひとまとめにしてイメージとして表現したものである。

実証タイプの疲労感の方が、虚証タイプのそれよりも、きつく耐えがたいものとして感じられることが多い。

*現代では、高齢者や慢性病で正気を損傷している人を除くと、大半の人は実証タイプの疲労感である。ストレスによる肝欝気滞瘀血や食べ過ぎによる痰湿、運動不足による瘀血等が疲労感を作り出す根本になっているので、患者自身が、それらの病因を取り除けるように適切なアドバイスをすることが、根本的な治療のカギになる。

*実証タイプの慢性疲労症候群―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

内関から間使の透刺、三陰交、風池、太衝、豊隆(足三里)、陰陵泉―瀉法

 

31,ヘルペス

*ヘルペスは湿熱証であるが、肝胆の経絡上のエリアに出やすいので、肝胆湿熱証として弁証されることが多い。ヘルペスは体質的に湿熱証タイプの人が、何らかの原因で正気不足に陥ったときに、その虚をついて、それまで体内で潜在化していた湿熱邪(ヘルペス)が暴れ出して発病したと捉えることができる。

*治療は、先ず顕在化した湿熱邪を取り去ることに集中すべきであるが、その後、正気の回復をはかる治療をすべきである。

*ヘルペスの治療―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ中焦、ヘルペスが出現している部位に相応する治療線―瀉法

陰陵泉、豊隆、足臨泣、中渚、内関、太衝―瀉法、局所の散鍼あるいは梅花鍼

*ヘルペスは、病院で治療ができて、表面上はきれいに治るが、後遺症として相当きつい神経痛が残ることがしばしばある。しかし、その予防法や治療法がない。

鍼で治療すると、治療効果もよく、何より神経痛が後遺症として残ることはないので、これこそ鍼治療の適応症である。後遺症の神経痛に対しても一定の治療効果がある。

 

32,シェーグレン症候群

*この病は難病ということになっているが、弁証は肝腎陰虚証である。

患者のほとんどは、女性であること、好発年齢は40歳代から50歳代であり、まさに、更年期の真っ最中に差しかかっている年齢の人が発症しやすい。女性にとって、この時期は、7×7の49歳で、腎精が衰え、天癸も急激に枯渇して月経もなくなる年齢を挟んだ更年期ということになる。。

肝腎の精血も虚衰してくる、この時期に、持続的な強いストレスを受けて、肝鬱化火になると、その火邪で肝腎陰虚になり、陰虚内熱、陰虚内燥が一層、盛んになり、津液不足が全身的に表面化してくる。

津液不足による具体的症状として、眼の乾燥やまぶしさ(肝陰虚の症状)、唾液が出なくなり口内が乾燥する。かすれ声になる(腎陰虚の症状)。さらに脳の髄液や心陰による心の潤いまでもなくなり、全身が、まるで魚の干物のようにひからびた状態になってくる。全身が干物というイメージに当てはまる症状は、すべて、この病の症状の可能性がある。

*この病は、更年期と重なって発症することが多いので、ほとんどが女性の患者である。更年期障害を広く解釈すれば、この病は、更年期症状の一部と解釈することができる。

この病の症状と言えるのか、更年期に良くみられる症状なのかの境界線を引くことは難しい。たとえば、この病には、更年期によく見られる精神症状が強く現れることが多いが、いずれの症状であるかの鑑別はむつかしい。

ところで、中医学によるこの病の治療においては、更年期障害との関連性はどうかについても、あまり深く考える必要がないということであり、病因、病機をしっかり把握して治療すればそれでよい。

*また、膠原病、とりわけ関節リュウマチを併発している人が多いようである。更年期の時期は、肝気鬱結によって気血の流れが詰まりやすくなるので、結果として、あちらこちらで、正気不足に陥りやすくなる。また老化への曲がり角に差し掛かっているので、全身的レベルの正気不足もあるという二重の正気不足があるので、その虚に乗じて風寒湿邪に侵襲されて、リュウマチのような痺症になりやすいと考えられる。

リュウマチそのものは、風寒湿邪の性質を反映した症状を呈するが、このような陰虚タイプのリュウマチは、寒湿邪の性質が現れている一般的リュウマチと異なる固有の症状を現すことが多い。

たとえば、陰虚による熱ぽっさや乾燥感を伴うことがある。

*シェーグレン症候群・肝腎陰虚証―大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法、

リュ―マチには該当する部位に相応した大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法を追加する。

*肝腎陰虚―三陰交、復溜―補法(5分から10分間)

陰虚による陽亢や、乾燥や熱の症状には、栄穴の行間、内庭、魚際等を追加取穴するとよい。刺鍼後、数分間以内に、乾燥感がなくなり、唾液が出てくる、眼が潤ってくる等、この病の主症状は消失する。治療を継続すると、主症状は治癒する。

肝気上逆、気鬱化火―風池、内関、太衝から湧泉に透刺―瀉法

リュウマチ―曲池、陰陵泉―瀉法)、

 

33,不妊症

*不妊症は、人の成長、発育、生殖、老化を主る物質である天癸の働きと関係している。

肝腎の精血が充足していれば、天癸も充足するが、肝腎の精血が虚衰して、天癸が枯渇しているような状態では妊娠は難しい。

*女性は、14歳で「腎精が充実し、天癸が至る」、生殖機能を促進する物質である天癸が充満して受胎可能になり、21歳で成人になり、28歳で身体的ピークになり、その後、下降してゆく。35歳から老化によるやつれが出始め、42歳で老化が目立つようになり、49歳で腎精が空虚になり、閉経して老人となる。

35歳から腎精が衰えはじめ、天癸も虚衰しはじめるので、妊娠しにくい状態に徐々になりはじめ、42歳が妊娠できるほぼ限界になる。

*21歳で成人になり、28歳でピークを迎え、35歳からは老化し始めるということなので、出産に適した年齢は、腎精が盛んな21歳から35歳ということになる。

*40歳前後の不妊症は、腎精と天癸が虚衰し受胎しにくい状態になっているので、腎精と生殖機能を促進する物質である天癸を充実させて、あるいは若返らせて妊娠可能な状態にするということになる。

このようなことは、不可能なことのように思われるけれど、中医学では、まるで話にならないというわけではない。

*腎精は、たえず後天の気によって補われて充足することになっているので、腎精を直接補うだけでなく、後天の気の方からも補うことができる。

腎精の不足は、精血同源ということから、肝血を充足させることを通して腎精を補うことができる。さらに気血生化の源である脾胃を健やかにすることで、肝血を補うことができる。このような治療をすることで、腎精が充足し、天癸による生殖機能が促進されると、妊娠の可能性が高まる。

*しかし臨床上は、このような理論による治療だけでは、上手くゆくとはかぎらない。治療が成功するには、乗り越えなければならないハードルがいくつかある。そのハードルとは何か。

*現代は、ストレス社会の中で、多くの女性は程度の差はあるが肝気欝結を起こし衝任脈失調による生理痛や生理不順がある。

生理の状態が限度を超えて正常範囲内でなくなれば、腎精や天癸の虚衰の問題はなくても不妊症になる。

*ストレスで肝の疏泄作用が低下すると脾胃の気機が失調する。また食べ過ぎ、飲み過ぎによる痰湿中阻になって、脾胃の気血生化の源が正常に働かなくなっても、後天の気を順調に生産できなくなり、先天の気に悪影響を及ぼすことにもなる。

さらに中焦で生産された痰湿は、経絡の走行に従って全身至る所に運ばれる可能性があり、それが衝任脈にも及び、衝任脈失調になったり、おりものが多くなったりすることがある。

飲食不節による痰湿証は、肥満になるだけでなく、不妊症の原因にもなりかねない。

*40歳前後で不妊治療を希望している大半の人は、肝鬱気滞於血、痰湿等で気血津液の流れが詰まり、その悪影響で生殖機能も低下している可能性が高い。このような場合は、腎虚証による不妊症の可能性が理論上は十分にあるけれど、先ず、実証の面の治療を先行させた方がよい。

肝鬱気滞於血や痰湿証等の実証が治療で改善されると、気血津液の流れが、正常化するので、老化していると思われていた生殖器機能や勢いのなかった卵子も、元気を取り戻して、妊娠可能な状態になることがある。

*実証の問題が取り除かれても、腎精や天癸の虚衰による卵巣や卵子の老化の問題等で、妊娠できないのであれば虚証の治療に集中するべきである。

*また、35歳くらいまでの若い人の不妊症のうち、腎精や天癸の虚衰による不妊症の人は、先天的腎精不足や消耗性の慢性病患者に、ほぼ限定されるので、数%程度の比率になる。

若い人の大半の不妊症は、肝気欝結や痰湿証、衝任脈失調証等の実証タイプの治療をすることで妊娠する可能性が高い。実証タイプの不妊症は、詰まりが取れさえすれば問題がなくなるので、1回から5回くらいの短期間の治療で不妊症の治療に成功する可能性がある。

例えば、肝気鬱結を解く治療に的を絞ること、また、生理の周期を整える治療、生理痛の治療がポイントになることが多い。

また検査の結果で、卵管が詰まって不妊症になっているというようなことが判明すれば、その治療に的を絞って治療すればよい。

*全身的冷え性、寒がりは、一般的には、腎陽虚証と考えられるが、老人では、その可能性が高いが、若い世代では、本物の腎陽虚証の人は、数%程度にしかすぎない。

全身的冷え性、寒がりの人は、腎陽虚証ではなく、肝気欝結の程度が酷い人で、気血の流れが酷く詰まり、それで、全身的冷えや寒さを感じるのである。

*このような冷え性タイプの人の脈診は、ほとんど脈状が感じられないくらい沈、渋である。沈脈は、邪気である於血が裏に詰まっているので、正気は邪気の存在する裏に向うので脈も沈む。

渋脈は、於血で脈の拍動がわからなくなるくらい血流が詰まっていることを意味する。

*陽虚証でも、似たような脈状になることがあるが、陽虚証で、脈上がわからないくらい脈が沈んでいるときは、陽虚の極みであり、ご臨終直前の状態である。不妊治療をしようという意気込みのある人に、陽虚の極みの脈が出るというようなことは考えにくい。

*治療は、思い切った強い瀉法で、頑固な肝気欝結の治療をすると、気血が流れ始めて全身が温まってくる。お灸の必要はないし、お灸をすると、気鬱化火になり、酷いのぼせになって裏目になる可能性もある。

なお、脈状も、1回の治療では、それほど、はっきりした変化が見られないが、何回か治療を継続しているうちに、脈状が分かる程度に脈も変化してくる。

*なお、冷えのぼせタイプも、腎陽虚証とは関係がなく、肝気欝結をベースにした肝気上逆、肝火上炎等の実証タイプである。これらの実証タイプの人で、生理痛や生理不順等が正常の範囲を超えている人は、不妊症になりやすい。

*肝気鬱結、肝気上逆、気滞瘀血、痰湿等の実証タイプの治療―大脳線1、脳幹線1中焦、脳幹線1下焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

内関から間使へ透刺、太衝から湧泉に透刺、足三里、三陰交、風池―瀉法

*腎精不足、肝腎不足、天癸の衰弱等の虚証タイプの治療―脳幹線Ⅰ中焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦―補法

内関から間使に透刺―瀉法、太谿あるいは復溜、三陰交、足三里―補法(補法の手技の時間は、捻転の補法で約3分から10分間、鍼尖の感覚が虚から実に変わるまで手技を継続すること、また置鍼の必要はない。)

虚実夾雑タイプは先瀉後補にする。

 

34,爪の変形、乾燥肌

*爪は肝との関係が深く、老化や慢性病による体力の衰えにより肝の陰血不足になると、爪は肝の陰、血の滋潤を受けることができなくなり、爪が乾燥したり、ひび割れたり、もろくなって欠けたり、様々な変形を起こすようになる。また、爪や皮膚の色が赤みや艶がなくなる。

*またストレスによる肝気欝結で気滞瘀血が形成されると、気血の流れが詰まって、爪を滋潤できなくなり、これまた、虚実の違いがあるが、似たような症状が出るようになる。さらに於血があるので爪の色や皮膚の色が、やや紫暗色になり艶もなくなる。

*爪の変形の原因には、これ以外にも、爪切りで深爪にすることが原因で巻き爪になる、ハイヒール等の合わない靴が原因で爪が変形することもある。

*日本の冬場の太平洋側の気候は乾燥しやすいので、燥邪による影響から爪のひび割れや変形、乾燥肌になりやすくなる。暖房による人工的乾燥で引き起こされる乾燥は、さらに症状を悪化させる。

燥邪にやられた場合は、爪だけでなく全身的に皮膚がカサカサする乾燥肌になったり、唇がひび割れたり、口渇もする。

燥邪による爪の変形や乾燥肌は冬場の乾燥シーズンに限定され、他の季節には起こらない。

*爪の変形や皮膚のカサツキは、肝気欝結による実証タイプのものが一般的であるが、高齢者や虚弱な人は、虚証タイプの陰虚、あるいは津液不足による内燥で、爪や皮膚が乾燥する。虚の程度がひどくなると、爪や皮膚にとどまらず、全身あらゆるところが、まるで魚の干物のように乾燥してくる。

*陰血不足の虚証タイプの爪、皮膚の治療―大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法

脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線1中焦―補法、

三陰交、あるいは復溜―補法、太衝―平補平瀉

*肝気鬱結等の実証タイプの爪、皮膚の治療―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱの中焦―瀉法、大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法

内関から間使の透刺、太衝、三陰交―瀉法、 爪の治療には、大敦、変形している爪の指の井穴―瀉法あるいは刺絡を追加する。

*燥邪による爪の変形、乾燥、あるいは乾燥肌の治療―脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補、大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法、脳幹線下焦―補法

列欠―瀉法、復溜―補法(捻転の補法3~10分間)、肺兪―先瀉後補

*アトピ―性皮膚炎で、冬場、燥邪にやられて皮膚が異常乾燥した場合は、病因病機が異なるので、根本原因である湿熱邪を取ることがポイントになる。(復溜の補法で津液を増やして燥邪を消滅させる治療法は、湿熱邪を増やすことになり症状を悪化させる可能性があるので適当でない。)

アトピ―性皮膚炎による乾燥の治療―曲池、陰陵泉、三陰交、太衝―瀉法、肺兪―先瀉後補

 

35,突発性難聴

*突発性難聴と言われているものの90%以上はストレスが原因である。その他に、大音響によるもの、風邪引きで中耳炎をこじらせたもの、外傷等がある。

難聴、耳鳴り、耳閉感等の共通する症状があれば、病因にかかわりなく、臨床上は、すべて突発性難聴ということになる。

*耳の症状以外にも、頚、肩のこり、片頭痛、のぼせ、めまい、イライラ感、時には落ち込む、不眠、時には眠気、胸苦しさ、心煩、動悸、季肋部痛、肩甲骨間部の痛み、胃腸症状、浮腫み、生理痛等、次から次へといろいろな症状を併発することがある。これらの随伴症状があるものは、ストレスが原因の突発性難聴の特徴である。

*ストレス性のものは、ストレスが軽減すれば症状も軽減する可能性があるので、精神状態やその他の症状が好転すれば、突発性難聴の症状も自然に軽減するか、一時的に消失することが多い。

しかし、客観的なストレスの原因が継続している場合やストレスを受けやすいタイプの人は治療した時は、すっきりすることがあるが、症状が繰り返しぶり返してくる可能性が大である。治療では、病気の根本的原因であるストレスそのものを除去することはできないからである。

そこで、ストレスへの対処法が大切な問題になってくる。あれこれのカウンセリングは時間の無駄になることが多いので、その患者にとって、ストレスに対する的確で実行可能な対処法を見出すことが大切である。

時には、出過ぎたことになるかもしれないが、ストレスの原因そのものの解決法を見出す話をすることが必要な場合もある。

たとえば、嫁姑の関係が最悪状態であるとき、鍼治療で突発性難聴の治療に成功すると思うか。また、お嫁さんと姑さんの双方が、突発性難聴の治療にあなたの治療院に通っていたらどうするか。

*ストレス以外の原因の突発性難聴は器質的なダメージを受けている可能性が高い。症状そのものは、ある程度、軽減することもあるが、根本的な治癒は難しい場合がある。

*老人性の突発性難聴というものはない。もし老人であっても、そうなった場合はストレスが原因でなったと考えればよい。このような場合は、腎虚証は潜在的にあることはまちがいないが、当面の治療は突発性難聴の治療に絞った方がよい。

老人性の難聴の原因は、老化に伴うものであり、腎虚証がもとにあって、徐々に進行して難聴や耳鳴りになるで、突発的に難聴になるものは腎虚証ではない。

*ストレス性の突発性難聴(弁証は肝胆火旺である。ストレスによる肝火が、表裏関係にある胆経にそって耳の周りを巡行している胆経に影響して発症した)

―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、天衝から角孫(少陽後線)、大脳線1、肩凝り線―瀉法、

翳風、風池、百会、太衝、外関、丘墟

耳ツボ―内耳、神門、肝、胆、頚椎外側の反応点

*外傷、中耳炎、音響が原因の突発性難聴

頭皮鍼―少陽後線、大脳線1、脳幹線Ⅰ中焦、肩凝り線―瀉法、

耳ツボ―内耳、神門、胆、頚椎外側の反応線

体鍼―翳風、聴宮(得気だけで手技はしない)、外関、丘墟、風市―瀉法

*老人性の耳鳴り難聴(突発性難聴ではない)―弁証は腎精不足または腎陰虚

頭皮鍼―脳幹線下焦―補法、少陽後線、肩凝り線―瀉法

耳ツボ―内耳、腎

体鍼―聴宮(得気のみ)、外関―瀉法、風池(陰虚は瀉法、腎精不足は補法)、復溜(陰虚)あるいは太谿(腎精不足)

 

36,多汗症

多汗症は、いくつかのタイプがあり、それぞれ病因病機も異なる。

素体陽盛の人は、病気とは言えないが、暑がりで汗をかきやすい。このようなタイプは、他に特別な病的症状がなければ多汗症とまではいえない。

*湿熱証―とりわけ、脾胃湿熱証が基にあり、肝胆湿熱証が酷いタイプは、のぼせやすく、頭顔面部を中心に、熱感を伴った全身性の多汗症になりやすい。

健康な人は温度変化により、高温の時は発汗しやすく、低温の時は発汗しない。発汗によって体温の調節をしているのである。

しかし、湿熱証の人は、体内に湿熱邪がたまっているので、普通の人にとっては発汗するほどの高い温度でなくても、少し動いたりすると熱い汗が溢れ出てくる。また、昼夜を問わず発汗しやすい。

*湿熱邪を作り出す飲酒、野菜や魚の生もの、甘いもの、脂っこいもの、激辛を控えるべきである。またストレスでイライラするようなことがあると気鬱火化して多汗症を促進する。

*湿熱邪は、脾胃で作られるので、脾胃の治療を中心に行い、さらに熱化が促進されないように肝の治療を加えるとよい。また、湿熱邪で下焦が詰まって小便のトラブルがあれば、下焦の詰まりを取って湿熱邪を体外に排泄するとよい。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―瀉法。

陰陵泉、豊隆、中脘、中極、太衝―瀉法

*衛気不固(肺気虚)による自汗―全身性の気虚証であり、脾気虚が基にある。気の固摂作用が低下して汗腺の開閉ができなくなると、温度変化にかかわりなく汗が漏れ出るようになる。

自汗は、昼間、目が覚めている時にのみ起こる。

脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ上焦―補法

合谷、足三里―補法

*衛気不固の自汗と同じ症状を呈するが、病因病機が異なる別種類の自汗タイプがある。

お腹がすいて食べ過ぎる、また飲み過ぎる等による痰湿中阻、ストレスによる肝気横逆があると、脾胃の気機の働きが低下するので、脾の昇清作用が低下して肺に栄養が届かなくなる。

中焦は実証であるが、肺は結果的に虚証になる。肺気虚になると、衛気不固の自汗になり、随伴症状として、立ちくらみや、朝眠くて起きられない、疲れやすい、眼瞼下垂等の脾肺の気虚証による低血圧のような症状を伴うことがある。このタイプは、若い女性に見られる。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、

足三里、陰陵泉、太衝―瀉法

*多汗症と言えるかどうかわからないが、陰虚内熱による寝汗は、夜、眠っている時にのみ大量の汗をかくことがある。また暑い季節に、睡眠中に汗ばんでくるといようなものではなく、季節に関わりなく、睡眠中に大量の汗をかいて目が覚める。糖尿病の後期で、陰虚証進行している患者に良くみられる。

脳幹線Ⅰ下焦―補法

復溜―補法(10分間以上)

*多汗症の範疇にはならないが、大量の汗をかくものに「戦汗」がある。これは、外感病で、邪気と正気との激しい戦いのピークに、大量に発汗することをいう。これを境に、病情が快方に向かうケースと、深刻化するケースの岐路に立たされる。病情が悪化した場合は、高熱と発汗によって、気陰両虚になったと診断して、去邪するよりも補法に治療のポイントを移行させるべきである。

脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―補法

合谷―先瀉後補、足三里、復溜あるいは三陰交―補法

 

37,認知症の証型別治療

認知症はアルツハイマー型と血管障害型や、若年性型と老人型等に分類される。このような分類法や各型の特徴等について参考にすることができる。

中医学的分類法や各証型の特徴、さらにその治療法については中医学の体系に沿って行うことになる。

認知症は全て老化現象による腎虚証であるという捉え方は実情にあっていない。生活習慣病の原因と同じく、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス、運動不足等によって形成された痰湿、瘀血が主な病因である実証タイプの認知症もかなり一般化している。

40代、50代に発症する若年性型の認知症の大半は、腎虚証タイプではなく、実証タイプである。

長寿社会の現代では、80歳未満の高齢者で、腎虚証の諸症状があまり見られず、また生活習慣病になるような原因を多く抱えている場合は、実証タイプの認知症になる場合が多い。

現代では、高齢者の認知症の最も多いタイプは、高齢による腎虚証もあるが、実証タイプの要素も重なっている虚実夾雑タイプである。

*老化に伴う腎虚証型―理論上は、50歳前後から、全ての人が老人になり、腎虚証があると考えられるが、現代では、平均寿命が大幅に伸びたので、腎虚があっても、腎虚が主な病因である老人型の認知症になる年齢は、70歳代後半になってからその可能性が高まってくる。

*腎虚証型の認知症―腎精不足、腎気虚、腎陰虚、腎陽虚のちがいによって、治療法も異なる。

全ての腎虚証―脳幹線Ⅰ下焦―補法、 大脳線1、小脳線、大脳線Ⅲ-瀉法

腎気虚型、腎精不足型―太谿、懸鐘、腎兪、風池―補法、

腎陽虚型には上記の経穴に、関元の補法と灸を加える。

腎陰虚型―復溜、腎兪―補法、太衝、風池―瀉法

・痰湿、瘀血等の実証型の認知症―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、

内関から間使に透刺、風池、陰陵泉、豊隆、三陰交、太衝―瀉法

*痰湿証のみで、認知症になる可能性は少ない。しかし食べ過ぎ、飲み過ぎが原因で痰湿証になると、老若男女を問わず、痰湿証に伴う症状(いつもぼんやりして、眠そうで、気力がなくて、反応が鈍い等)が出るが。これは、一般的な痰湿証の症状であるが、高齢者が痰湿証になると、鑑別を間違えて認知症にされてしまうことがある。実際に認知症にされてしまった人もいる。

痰湿証の治療をすれば症状は好転し、認知症に間違われることはなくなる。

*脳血管障害型の認知症で脳梗塞の後遺症による半身麻痺がある場合は、実証型の治療に、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線を加える。すると、手足の麻痺に対する治療効果も、はっきりと現れるが、それ以上に、認知症の症状の方が手足の症状よりも先に好転する。また、くも膜下出血に伴って現れた半身麻痺と認知症も、この治療によって良い治療効果が現れる。脳血管障害型の認知症は、1~3回くらいの治療で、手足の麻痺より先に治癒する場合が多い。

*すべてのタイプの認知症に対して、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法が共通である。

若年性型あるいは、実証型のいずれのタイプの認知症であっても、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法は、痰湿、於血による詰まりを取るために必須である。

すべての老人型、あるいは腎虚証タイプの認知症には、脳幹線Ⅰ下焦―補法が老化に対応する必須の治療線であり、その治療効果は期待に添う結果を出してくれる。

虚実夾雑証には補瀉兼治をすることになる。

頭皮治療法とっては、認知症の治療は得意分野の一つである。

 

38,鬱病の病因病機と治療線と取穴

鬱病は、持続的な強いストレスがあり、さらにアルコール、甘いもの、生もの、油っこいもの等を過度に摂取する習慣があり、この二つの病因が重なると鬱病になる可能性が出てくる。

ストレスによって引き起こされた肝気鬱結による気鬱が肝の子である心に及び、鬱々とした精神状態がもたらされる。

また、飲食不節によって中焦で痰湿が生産されて、それが胃の経別を通じて心に及ぶと、湿の性質を反映して重くて沈んだ精神状態になる。

気鬱と痰湿が、心で結合すると、両方の性質が混ざり合って鬱病固有の精神症状が生まれる。

また肝気鬱結から気鬱化火になり、その火が肝の子である心に移行すると心火になり、その火が痰湿を結合すると痰火となり、躁状態になる。

火が燃え尽きると、躁状態から鬱状態に戻る。このようにして躁鬱を繰り返すことがある。

*治療は気鬱と痰湿を取り除く治療と精神安定のための治療がポイントになる。大脳線Ⅰ、大脳線Ⅱ上焦、大脳線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲの上焦、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法 (過敏な人には、大脳線Ⅱ上焦、大脳線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ中焦を省略してもよい)

百会、風池、神門、内関から間使への透刺、陰陵泉、豊隆、太衝、鳩尾から中

脘への透刺(あるいは鳩尾、上脘、中脘への3鍼)―瀉法、

*頭皮鍼による鬱病の治療は著効がみられることがあり、数回の治療で、長年の鬱状態や不眠症から脱却することもある。

頭皮治療法にとって、鬱病の治療は不眠症の治療と共に得意分野の一つである。

*鍼治療の結果、実質的に抗鬱剤や睡眠薬が不必要になっているにもかかわらず、薬をそのまま服用すると、薬が効きすぎて、異常な眠気に襲われる等の薬の副作用が出始めることがある。長年にわたって薬を飲むことが習慣化しているので、止めるのが怖いということや、リバウンドの心配もするので、この件が問題として残ることがあるので、担当医に症状が好転したことを告げ、薬の加減をしてもらった方が良い。

調気手技療法

「調気手技療法」             

       

調気手技療法は、弁証論治に基づいた手技療法である。この調気手技療法は、四診合算による主訴や体質に対する診断をし、弁証に基づいた補瀉手技をすることによって、陰陽五行のバランスを整え、心身の健康を回復させようとするものである。

1.あん摩指圧マッサージとの違い(治療か慰安か)

調気手技療法とあん摩指圧マッサージの違いは、手技療法という意味では同じであるが、医学レベルの治療か、慰安に近いものであるかということである。

具体的には、診断をして各患者の主訴や体質に合わせて、補瀉手技を行う治療法か、診断はほとんど行われず、主訴や体質の違いに関わりなく、手技の圧力の加減を聞く程度で、ほぼ一律に得意とする手技を行うかの違いである。

一般的あん摩指圧マッサージによる実際の治療においては、先ず、患者に、うつ向けに寝るように指示した後、すぐに背面の治療を上から下への順序で始めるのが普通である。

これは、問診、舌診、脈診、経絡診、腹診等による診断を省略しているので、病因、また、病気の性質である虚実、寒熱、また、どこの臓腑に、どの経絡に、どのような問題があるのかよく分からないままに治療することになる。

診断なき治療というものは、医学レベルの常識では考えられない。これは治療ではなく慰安である。

調気手技療法は診断に基づいた医学レベルの治療をするものである。

あん摩指圧マッサージ以外の各種の手技療法も、免許の有無の違いはあるが、診断をほとんどしないという意味では共通していて、手技内容もかなり似かよったものが多い。

また、リラクゼーション、リフレ、オイル、アロマ等の手技は、ほぼ撫でるだけであり、例外はあるが、専ら慰安を目的としたものが多い。

現状では、資格制度があるあん摩指圧マッサージよりも、リラクゼーションに類する店の方が一般化していて、なかには、風俗店との境が分からなくなったものまであり、むしろ、そちらの方が集客力も大きいように思われる。

エステは美容の範疇ではあるが、内容的には相当部分、一般的手技療法に似かよった内容である。

整骨院も、建前は治療ということになっているが、実質的には慰安目的のあん摩指圧マッサージと似かよった手技内容になっているところが多い。また、保険治療ということで、その範囲内での可能な治療法という制約にしばられて、本来的な柔道整復の固有の治療法が十分に発揮できていない。

さらに、鍼灸治療院は手技療法ではないが、傾向的にみると治療院という名称がついているが、治療というよりも実質的には慰安目的の鍼灸院が多い。

これらの業界では、いろいろな名称はついているが、大半は、本格的な医学レベルの治療院ではなく、慰安になっているのが現状である。

ストレス社会においては、治療効果は、ともかくとして、その時だけでも、気持ちよくてリラックスできれば良いという客も一定の割合でいる。

調気手技療法では、このようなリラクゼーションの要望に対しても、慰安で対応するのではなく、治療という立場で対応することになる。

弁証論治に基づいて、寧心安心させる治療をすれば、その場だけのリラクゼーション効果ではなく、さらに持続性のある本格的な医学レベルの治療ができる。

手技そのものも、治神というキーワードが理解できれば、最高レベルの気持ちのよい手技で、リラクゼーション効果をもたらすことができる。

ここでの問題は、客が慰安か治療かの選択をするのは自由であるが、現状では、慰安の選択しかできないことが問題である。客に治療というもう一つの選択肢を提供することが大切なのである。

おそらく、潜在的には、慰安を求める客よりも、信頼性のある医学レベルの手技療法を求めている患者の方が圧倒的に多いはずである。

さらに問題なことは、治療という言葉や名称ではなく、信頼性のある医学的レベルの治療が本当にできるかどうかである。

信頼するに値しない低レベルの治療があまりにも横行しすぎた結果、あん摩指圧マッサージ、鍼灸も含めて、国民から、ほとんど見放されたのではないかと思える。手技療法による治療そのものが崩壊の危機に立たされて、今や、慰安だけが残ってしまったというのが現状である。

調気手技療法の治療科目は、肩こり、腰痛、疲労回復、リラクゼーション等に限定されることなく、内科、精神科、外科、老人科、男性科、産婦人科、五感器科、美容等、ほぼ全科目になる。また従来の手技療法では考えられなかったような難病治療にも対応する。

 

 

 

2.調気手技療法の特徴

弁証に基づいた補瀉手技による治療を行うので、患者の主訴や症状、体質の違い、また病因も異なるので、一人、一人診断も異なり、その治療法も異なってくる。全員同じような治療をするということはありえない。

この補瀉手技は、陰陽五行理論によって成り立っているという意味では、鍼灸の補瀉手技と共通している。

鍼の各種の治療法である体鍼、頭皮鍼、眼鍼、手鍼、耳鍼、特効穴治療等における補瀉手技を、調気手技療法に転用できるように工夫したものなので、鍼治療の効果にほぼ匹敵するような効果を出すことができる。

もちろん、手技療法の特徴から、鍼治療と同じような効果を出せないものもあるが、それ以上の効果を出せるものもある。

脳梗塞で入院している寝たきりの半身麻痺の患者が、調気手技療法による頭皮治療の直後に歩き出すということもある。脳血管障害に伴う半身麻痺の比較的早い段階での治療なら、数回の治療で、70%以上、回復する可能性がある。

脳に障害があって、半身麻痺になっているのだから、手足のリハビリで回復させようとすること自体が発想の段階からして無理がある。脳の側から治療できる調気手技療法は理にかなった治療法であり、その実際的効果も目を見はるもがある。この治療法で半身麻痺が急速に回復するので、車椅子は不要になり、手足のリハビリをする必要性もほとんどなくなる。

調気手技療法は、経絡経穴を中心にして治療をする。経穴の効能やその臨床応用に関する授業が専門学校で行われてないのは不思議なくらいである。薬剤師に、薬の効能についての教育をしないで、薬の販売をさせているようなものである。

経穴の効能について精通し、臨床応用ができるようになる訓練が必要である。

経絡経穴に関するしっかりとした臨床教育が行われていれば、例えば、通常の腰痛や膝の痛みによる歩行困難な患者であっても、治療後に歩行ができるようになるくらいに回復させることができる。

在学中に、本物の患者を治療する実践的訓練の機会がほとんどなく、卒業後も、臨床訓練する制度がないので、国家資格を取得しても、心もとない状況である。

また、リハビリ段階になった骨折の患者は、通常のリハビリを省略して、数回の治療で、仕事ができるようになるくらいに回復させることができる。調気手技療法は、骨折におけるリハビリの革命をもたらすかもしれない。

これまでの手技療法では主として運動器疾患が対象で、内科、精神科、婦人、五感器系科、難病治療等は、ほとんど治療対象外とみなされてきた。

しかし調気手技療法では、臓腑弁証を基礎にした治療体系であるので、これまで対象外とみなされてきた疾患(例えば、眩暈、吐き気、腹痛、動悸、不眠症、鬱病、認知症、骨粗鬆症、橋本病、半身麻痺、冷えのぼせ、生理痛、つわり、緑内障、慢性鼻炎、抗がん剤、インターフェロンの副作用、美容等)が

得意な適応疾患になる。

脳幹線1、脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦の治療線は臓腑弁証による臓腑の治療もできるが、脳の解剖学上の脳幹の機能そのものに対しても治療効果がある。

たとえば、脳幹線1、Ⅱの中焦の治療線を使うと、肝胆脾胃の臓腑とその経絡、さらに各臓腑と関連する精神、組織、五官器等の治療もできるので、その応用範囲は想像以上に広範囲に及ぶ。

また、中焦を使うと、脾胃の治療ができるので、食欲不振、下痢や便秘、浮腫等の治療と同時に、中気下陥による眩暈や眼瞼下垂の治療もできる。

また、脳幹線1,Ⅱの中焦の治療線を使って治療すると、脳幹の機能の一つである内臓の自律神経の最高中枢に作用し、たとえば、消化器系統の自律神経を調えて、消化器系の広範囲の疾患の治療ができる。

上焦の治療線を使うと、中医学上あるいは現代医学の心や肺の疾患が治療範囲となる。さらに、上焦には中医学上の心が含まれるので、精神科疾患の治療の要として使われることがある。

下焦の治療線を使用すると、二便の失禁、慢性腎不全、インポテンツ、生理痛、不妊症等に対する治療効果が見られ、両医学上の腎、膀胱、生殖器等の疾患が治療範囲になる

髪際の督脈上の大脳線1、大脳線Ⅲは、鼻、喉、目の症状、視力の向上、顔面部の中心線の美容に即効性がある。

また、認知症の予防と治療、精神不安、鬱病、不眠症等の精神科疾患、広い意味で大脳に起因する疾患の方が、一般的疾患よりも治療効果を発揮しやすい。

身近なところでは、頭の使い過ぎによる脳の疲労感が解消される、さらに、意欲、記憶力、思考力、創造力、集中力が高まる、精神的緊張が緩む、本番の試験等であがらなくなる。

これらの変化から言えることは、大脳線1、Ⅱの治療線は、その位置が前頭葉の中心部分にあることからも、前頭葉の機能そのものを活発にさせる作用があると考えられる。

 

3.調気手技療法の補瀉手技

鍼治療における補瀉手技も、調気手技療法における補瀉手技も、陰陽五行理論を基礎にして成立しているということにおいては共通している。

そこで、鍼治療の補瀉手技を、手指を使って行う調気手技療法に応用できるように工夫して、調気手技療法の補瀉手技を考案した。

たとえば、鍼治療では、腰痛は委中で治療すると効果的であるということは誰でも知っているが、手技療法で、委中を、どのように運用するべきか分かっていないので、委中を臨床で使う人はほとんどいない。

調気手技療法では、於血タイプの腰痛に対しては、足首を浮かして膝蓋骨を圧迫しないようにしておいて、委中に補瀉迎随の瀉法と捻転の瀉法を組み合わせた手技を症状の程度に応じて数分間以上、連続して行う。すると、ほとんどの場合、きわめて良い治療効果を出すことができる。局所の腰部を長時間治療するよりも、委中の治療の方が、短時間で、数倍の治療効果があり、効果も持続する。

これは、委中の経穴の効能によるものであり、その効能を引き出すことができる手技の力による。

これまでに習得してきた様々な手技療法の手技を否定するというのではなく、それらの技術を基礎にしながら、また、それらを引き継ぎながら、補瀉手技の理論や方法を上乗せするようにすればよい。

これまでの手技療法は弁証論治による治療法ではなかったので、補瀉手技の必要がなかった。もし、虚実の弁証を間違えて、補瀉手技を施せば、マイナスの治療効果が出る可能性もあるので、弁証と補瀉手技は一体として捉えて治療するべきである。

調気手技療法は、弁証に基づいて、手指を使って経絡に流れている気に対して補瀉手技を行い、陰陽五行の平衡を調える治療法である。

手技療法の手技は、鍼治療のように経穴の一点に手技を施すこともするが、その特徴を生かして経絡を中心に、線あるいは帯状に、あるは経筋病などは、面で治療するという具合に臨機応変に対処してゆくことになる。

経絡の走行や取穴位置から手指が大きく逸れていたり、治療してゆく順序が補瀉迎隨の方向と反対になったりして、その治療効果を発揮できなかったり、マイナス効果になることさえある。

治療後、揉みおこしで痛くなったという話をよく聞くが、ほとんどの場合、診断をしていないことや技術的未熟さで、逆効果になったケースと思われる。

経絡経穴の位置を実践的に訓練して正確に分かるようになる必要がある。経絡に沿って指で撫でてゆくと、経絡は溝状になって走行していることが分かる。

また、経絡の溝を指で撫でていくと、指先に窪みが感じられるところが、ほとんど経穴の(あな)になっている。

経絡経穴の位置は目視でも訓練すると、かなりの程度まで正確に分かるようになってくる。

経絡の幅と経穴の大きさは皮膚面では、数ミリくらいに感じられるが、筋肉層の表面にふれる深さでは、経穴の大きさは1ミリくらいに感じられる。

手技療法においては、骨際とそのすぐ横にある腱や筋との間にできる溝、腱と腱や筋と筋の間にできる溝に経絡が走行しているのを指で感じ取ることができるように練習をするとよい。

また経絡の溝を撫でていると、はっきりとした窪みを感じることができる経穴(例えば、手三里、風池、百会、崑崙)があるので、分かりやすいところから練習をするとよい。

適度の圧力を加えて、溝状になっている経絡の走行に沿って手技をすると、指先に経絡や経穴固有の感覚が伝わってくる。その感覚を逃さないように手技を行う必要がある。

経絡学説を基礎にする手技療法と現代医学を基礎とするマッサージとは原理が異なるので、明確な使い分けをする必要がある。これを混同すると、補瀉迎隨の方向を間違えることになる。リンパマッサージの手技の順序と経絡治療の補瀉迎随の手技の順序とは同じになることも、反対になることもある。

調気手技療法は、現代医学を基礎とした手技療法と違って、筋肉や神経、リンパに対して手技をするのではない。

例えば、ある筋肉の一部が硬くなって痛みがある場合、そこの筋肉を揉み解すというようには考えない。その筋肉を栄養している経絡の流れの詰まりを取ることにポイントをおいて治療する。あるいは、その痛みが、どのような原因によって痛みが出るようになったのかをよく考え、その根本原因に対する治療をおこなう。

今している治療は、どのような原理で治療をしているのかをよく理解した上で、原理的な一貫性をもって治療する必要がある。

手技療法の経験が豊富な人は、圧力の加え方やその強さに関しては経験的に自然に分かっているので上手な人が多い。

経験的に分かっていることが、実際の治療では大切なことではあるが、それらについて原理からよく理解していることも大切である。原理から理解している人は、初心者でも上達するのが早いし、応用も効くことになる。

手技療法における適度な圧力とは、どういうことか。

鍼治療における鍼の刺入の適当な深さは、経絡の中に流れている気に対して、得気が得られる深さということになる。調気手技療法における指の適度な圧力とは、経絡の深さに、ほどよく圧力が加わる強さが適当ということになる。

虚実によって、多少の圧力の加え方に、差が出てしかるべきであるが、臨床上の感覚としては、強すぎることもなく、弱くて物足りないということでもなく、ほどよい強さで、気持ち良くて、効きそうな感じがするのが良い。

手技療法での得気は、手指で経絡の中を流れている気に対して適度の圧力を加えて、その気を効果的に動かせる状態になったことを得気が得られたという。

手指の圧力が強すぎると、得気が得られる深さを突き抜けるので、痛く感じるだけで治療効果もでない。場合によっては、筋肉痛が残るかもしれない。

また、圧力が弱いと、経絡の深さに届かないので、痒いところに手が届いていない感じがしてイラついてくることがある。

得気を得た後、その気の感覚を逃さないように、経穴や経絡に補瀉手技を施して行くことになる。調気手技療法の手技のポイントは、経絡の気を体感しながら、補瀉手技をするということである。

気の感覚が分からないままで、形だけの補瀉手技をすると、痛たかったり、気持ち悪かったりすることもしばしばあり、治療効果も期待できないばかりか、逆効果になることもある。だれでも、一定の訓練をすれば気の感覚が分かるようになるので、難しく考えることはない。

調気手技療法においては、補瀉手技の中心になるものは補瀉迎隨である。さらに、身体の正面の中心線に対して、手指を外回りさせる(瀉法)、あるいは、内回りさせる(補法)かの回転方向の違いによる捻転補瀉法、また、押して気を入れるか(補法)、あるいは、撮んで邪気を引き抜く(瀉法)かによる提挿の補瀉法がある。

臨床では、いくつかの補瀉法を組み合わせた複合の補瀉法(補瀉迎隨と捻転補瀉法)が使用されることが多い。

また、呼吸補瀉法、男女による左右の使い分け等の補瀉法もある。

さらに、双方向性の良性の調節作用をもたらす平補平瀉法がある。

補瀉法の問題とは少し異なるが、運動が速く活発である気に対する手技をする場合は、気の性質に合わせて、小刻みに、速く動かす手技が適している。

また、津液や血に対する手技は、その性質に合わせて、やや大きめで、ゆっくりとした動作が適している。

 

4.調気手技療法の習得の問題点

調気手技療法のうちの有力な治療法である頭皮治療法は、中医学の基礎理論を学んだことがある人なら、治療線と手技のコツを学び、比較的簡単なレベルの弁証能力があれば、だれでも、調気手技療法だけなら、数回の講習会でかなりの程度までできるようになる。その後、弁証能力の向上のための努力と一定の臨床経験を経て、再度、講習を受ければ、相当程度のハイレベルの調気手技療法の治療ができる可能性がある。

調気手技療法による治療家を目指すには、学校教育に上乗せする形で、中医学の基礎理論に基づいた調気手技の実技訓練と、脈診、舌診、問診、経絡診等の診断学、経絡経穴学等の学習をする必要がある。

鍼治療による頭皮鍼をマスターするには、弁証能力を高めることと、鍼の操作の技術や補瀉手技の訓練をする必要がある。

調気手技療法の基礎的なことを理解し、初歩的な基礎訓練を終えた後、臨床指導のもとに、弁証論治による実践的治療を行う必要がある。実践的な治療を通じて基礎理論の深い理解や手技の体得ができるようになり、さらに、臨床能力も高くなる。

鍼治療を通じて弁証論治の治療の流れが分かっている人は、手技の訓練を中心に行ってゆけば、比較的短期間に調気手技療法を習得することができる。

弁証能力に自信がない人は、確かな診断ができない状態で治療することになり、良い治療効果を出すことは難しい。

中医学の基礎理論や診断学、経穴学等の基礎的学習とその臨床応用に関する指導を受ける必要がある。これは大変なことのように思われるかもしれないが、確実に調気手技療法をマスターしてゆく早道である。

この調気手技療法は、これまでの手技療法の様々な伝統的な手技に、いくつかの新しい手技を加えると、そのまま引き継いでゆくことができる。また、これまでの手技療法に弁証論治の治療法を上乗せすればよい。

現在の状況下では、あん摩、指圧、マッサージは、国家資格を有していながら、他の国家資格がない手技療法と競合して劣勢に立たされ、止めどもなく地盤沈下をしている。

この調気手技療法は、あん摩指圧マッサージやその他の手技療法の一部も含めて、慰安の域を脱し切れていないレベルから、医学レベルの治療体系に質的な飛躍を遂げ、患者の治療要求に具体的に答えられるようにすることを目指している。

患者から信頼される治療ができるようになれは、地盤沈下に歯止めがかかるようになる。

 

 

白川式手鍼治療

「白川式手鍼治療」

下後谿、上焦穴、三焦穴、下焦穴、下合谷の手鍼5穴で、ほぼ全身の運動器疾患の治療ができる。

下後谿

*下後谿の位置

・後谿の位置は、手を握ると、第5中手指節関節の尺側にできる横紋の先端であるという説は、厳密にいうと間違いである。横紋の直下は腱になっているので、痛くて刺鍼することはできない。

横紋の先端は目安であって、正確な位置は、横紋の先端の真横で、腱と第5中手指節関節との間にできる溝のなかにある穴である。

臨床上、刺鍼しやすくて臨床効果も後谿と同様である下後谿の位置は、横紋の先端よりも、手関節の方向に約2分くらい寄った位置にあり、第5中手指関節の尺側の骨がコーナーになっているところで、その骨のコーナーと腱の間にできる溝の中にある穴である。

*後谿と3つの経絡との関係

・後継は太陽小腸経であるので、太陽小腸経に対しては、もちろん、同名経の太陽膀胱経に対しても、また八脈交会穴の一つであることから督脈に対しても関係を有する。

・後谿は3つの経絡と関係しているので、同時に3つの経絡と関係する疾患を治療することができる。人体の後部の頭部、頚部、肩背部、腰部、臀部、上肢、下肢にわたる広範囲な治療ができる。

*後谿の効能と臨床応用

・後継は、小腸経の経気の宣通作用があり、小腸経の各種の邪気による詰まりを取り除いてくれる。

・小腸経の五兪穴の体重節痛を主る兪穴なので、小腸経のどの部位であっても、湿邪が停滞して重痛や重だるさがあるときは、この経絡上の去湿ができる。例えば、五十肩で肩貞や天宗付近に重痛や重だるさがあるときは、局所に刺鍼するよりも、去湿作用のある後谿に瀉法をして、運動鍼にすると著効が見られる。

なお、湿邪の程度が広範囲、あるいは重度の場合や慢性化している場合は、全身的な去湿作用がある陰陵泉の瀉法と組み合わせるとよい。

後谿は、小腸経、同名経である太陽膀胱経、督脈上の広範囲の疾患を治療することもできる。具体的には、後頚部の寝違え、ぎっくり腰、委中の付近の痛みや、パソコンのやり過ぎ等による後頚部や肩背部の小腸経、膀胱経、督脈と関係する広範囲の痛みや凝り、また、それが原因で引き起こされる指や上肢の痛みや痺れ等が治療範囲になる。

痛みがあるこれらの部位の局所に取穴するよりも、後谿の運動鍼の方は治療効果が高い。局所に顕著な圧痛点や硬結が残る場合は、後谿の取穴や得気の状態を手直しして再度運動鍼を行うとよい。さらに局所に著しい硬結や反応点があれば局所取穴を追加してもよい。

・また、膀胱経に頑固な湿邪が停滞していて重だるさが残る場合は、後谿と膀胱経の兪穴の束骨とを組み合わせて取穴するとより効果的である。

また、於血の痛みが残る場合は、井穴の至陰に15度角で1分刺入して得気を得た後、瀉法をして置鍼する。抜鍼時に出血するが、アルコール綿でよく拭くとよい。あるいは、活血化於のために郄穴の金門に瀉法をするとよい。

・風寒邪に侵襲されて起こる太陽膀胱経の頭項強痛に対しては、漢方薬では、葛根湯が使われるが、鍼治療では後谿の瀉法がよい。

*督脈の治療範囲と治療

後谿は、督脈が邪気に侵襲されて起こる脊柱の強ばりや痛み、そして、督脈上のすべての病変の治療ができる。

・後谿の治療範囲は、むち打ち、頸椎症、ストレートネック等による頚、肩部の疾患、また脊柱側弯症、猫背、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、すべり症、脊柱官狭窄症等の胸椎、腰椎等の背柱に関係するすべての疾患、それらが原因で上肢や下肢に及ぶ痛みや痺れ、運動制限等は、後谿の治療範囲になる。

・例えば、骨粗鬆症の治療では、後谿は表示法として刺鍼すると激痛を緩和できる。また、骨粗鬆症の弁証は腎虚証になるので、腎陰虚証であれば復溜、懸鐘、腎兪等への10分間くらいの補法が必要である。この配穴と手技で、急性期の激痛もほどほどの程度に治まる。骨粗鬆症の手技療法で、局所への圧力は危険なので控えるべきである。遠隔治療である程度の効果を出すことができる。

・脊柱官狭窄症は、後谿の運動鍼で痛みの症状が緩和される。さらに於血あり、下焦湿熱証もあるので、内関から間使への透刺、三陰交、陰陵泉、中極等を取穴する必要がある。局所取穴は、反応点に行ってもよい。於血や湿熱邪が去邪されても、腎虚が残る場合には、腎虚の治療をする必要がある。

*刺鍼方向、刺鍼の深さ

・刺鍼方向と深さ 刺鍼方向は、直刺にすると刺入後、2分くらいの深さで、骨に鍼尖がひっかかるので、刺入方向は、やや手掌の方向に向け、骨に引っ掛からないように刺入すべきである。

・刺入の深さは、8分くらい刺入したところで、ふんわりと止まる感じがする。その感じが得気の感覚である。気の防御作用によって、鍼の刺入の勢いが押し留められるのである。

・気体である気に触れても、ふんわり止まる感覚がするだけで手答えがないのが当然である。得気を得た瞬間に何か手ごたえがある筈だと思って、さらに深く刺入すると、経絡の気が流れている深さを突き抜けて、得気とは関係ない神経や、腱などをきっかけた得物の感覚になり、痛みを伴ったきつい響きになる。

・得気を得た後、数分間くらい置鍼すると、軽くて滑らかなだけの得気の感覚から、鍼尖に気血が集まってきて、魚でも喰らいついたようなきつくて粘る感じに変化する。そこで瀉法をすると、心地よい感覚を伴った効果的な瀉法の手技になる。

上焦穴

上焦穴は、手の第3指と第4指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、中手骨間に、1寸の深さで横刺する。

上焦穴は肩部の肩井、頚部の風池の附近の肩こりに即効性があり、また、10分間ほど、置鍼しておくと、上焦の背部全体あるいは僧帽筋全体の凝りが緩んでくる。

上焦穴は肩こり治療のキーポイントになる。

 三焦穴

三焦穴は、第2指と第3指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第2と第3中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて1寸5分から2寸ほど横刺する。

八風から1寸、横刺すると、頚部の天柱から大杼にかけての膀胱経と風池から下の頚部の胆経のラインの凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると背部の凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると、腰部と下肢の胃経、3陰経(腎経、肝経、脾経)の凝りや痛みが緩和する。

 下焦穴

下焦穴は、第4指と第5指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第4と第5中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて、1寸5分から2寸ほど横刺する。

下焦穴は、腰、臀部、下肢の膀胱経と胆経の広範囲な部位に対して治療効果がある。例えば、坐骨神経痛の治療では、坐骨神経に沿っての多数の刺鍼をするよりも、下焦穴、一穴に刺鍼した方が臨床効果が高い。

また、原因に関わりなく、股関節の痛みには効果的である。また、膀胱経、胆経のどの部位の痛みに対しても治療できる。

また、骨折や捻挫の後、気血の流れが悪くなり瘀血が形成され、局所的に正気不足に陥り、邪気に侵襲されやすくなり、膀胱経や胆経が痺症になることが多い。このような骨折、捻挫の後遺症と痺症の治療に、下焦穴は威力を発揮することが、しばしばある。

三焦穴と下焦穴の両穴に刺鍼すると、下肢の全経絡を治療することができる。

ぎっくり腰などの於血腰痛には、これまで一般的に使われてきた腰腿点を取穴してもよい。

 下合谷

下合谷は、第1指と第2指の中手骨が交わるところのすぐ前方にできる窪みで、合谷より3分ほど陽谿に寄った位置である。刺鍼方向は直刺、刺入の深さは約6~8分。

下合谷に刺入すると、胸鎖乳突筋の下方や肩井の前側から缺盆にかけての凝りや痛みが緩和する。

なお、別の治療法として、胸鎖乳突筋は人体の側面になるので、少陽経の治療範囲として捉えて、懸鐘で治療できる。また、肩井附近の凝りや痛みの治療は合谷でできる。また、缺盆や肺経のエリアの肩こりは尺沢が効果的である。

 

 

「解説と注意点」

手鍼は、全て運動鍼にするか、マッサージを併用した方が効果的である。

八邪の穴は手背の皮膚の表面から5ミリほど下方で、中手指節関節の前方の陥凹にある。指を自然に曲げた状態で、八邪穴の陥凹に正確に刺入することが第一のポイントになる。次は中手指節関節の骨に鍼尖を引っかけないように関節の溝を通し、さらに、中手骨間の溝にそって、上下左右に逸れないように横刺しなければいけない。

何かに引っかかっているような感じがしたら、無理に押し込むようなことはしないで、少し鍼を抜いて刺鍼転向した方がよい。するする抵抗なく刺入できるところに刺入すれば、ツボに無痛の状態で命中し効果もよい。

手鍼の刺鍼方向が正確であれば、目標とする治療効果が得られるが、方向が逸れると治療目標が外れることがある。しかし、目標以外の思わぬ治療効果がでることもある。

治療範囲や目標によって、5種類の手鍼穴の使い分けや組み合わせを工夫するとよい。例えば、三焦穴で頸部の治療をするのなら1寸の深さでよい。背部の治療は1寸5分の深さでよい。腰部や下肢の胃経、三陰経の治療をしたい場合は1寸5分から2寸の深さになる。

また、頚部や肩部の凝りや痛みに限定した治療をする場合は、三焦穴の1寸と上焦穴の2穴の組み合わせ、さらに、症状に応じて、下合谷、後谿を組み合わせて治療すると、効果的な肩こりの治療ができる。

手鍼は邪気で詰まった凝りや痛みを取る治療法なので、手技は瀉法になるが、手技には拘らず、適度な強さの平補平瀉法でもよい。また神経に触れて電撃様の強刺激になることがある。その場合は、不快な感じがしやすいが、即効性が出ることがある。

手鍼は簡単な治療法で広範囲で、しかも高い治療効果を出しやすい治療法であるが満点の治療法ではないので、他の治療法である耳針、頭皮鍼、体鍼の弁証取穴、局所取穴等を組み合わせて治療しても問題ない。さらに、運動鍼や手技療法を加えた方がよい。

手鍼は頚部、肩背部、腰部、臀部、下肢、上肢等のほぼ全身の運動器疾患を包括的に治療できる。

また、眼、鼻、耳等の感覚器や一部の臓腑にも副産物的に良好な治療効果が出ることがある。この領域での治療法は、まだ不確定なところが多く、これからの課題である。

 

名称未設定-2 名称未設定-1

 

白川式頭皮鍼(大脳、脳幹、小脳、脊柱の治療)

「白川式頭皮鍼」

(大脳、脳幹、小脳、脊柱の治療)

この頭皮治療法は頭皮への鍼治療あるいは調気手技療法により、脳の病変に起因する病気、さらに身体の広範な一般的病気に対しても治療できる。

 

「頭皮治療法の治療線の位置とその効能」

A脳幹線

*脳幹線Ⅰ                       

*脳幹線Ⅰの位置は、頭部の百会より前側を陰、後側を陽に分けて、頭部の陰の側である百会から神庭までの督脈上の治療線であり、下焦、中焦、上焦に3等分される。

*心は君主の官であり、精神の舍るところであり、心の生理作用は、精神活動や全身に対する司令塔としての脳が有する機能に重ね合わせて捉えることができる。

脳幹の生命維持の最高中枢としての機能は、上中下焦の各臓腑を統括、指揮する君主の地位にある心の生理作用に相当する。

臓腑の治療は、脳幹線Ⅰと脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦で行い、精神面の治療は、大脳線Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで、運動面の治療は大脳線Ⅳ(上肢線、下肢線)と小脳線で行うことができる。

これは、大まかな区分であって、実際の治療では、各治療線が入りくんでいたり、相互に影響し合っていることを考慮して治療線を選ぶ必要がある。

*脳幹線Ⅰ、Ⅱによる治療は、脳幹の自律神経の最高中枢としての機能、さらに内臓、血圧、呼吸、循環器等の制御作用や体温調節、ホルモン分泌、睡眠等に対する広範な治療効果が期待される。

 

*脳幹線Ⅱ

*前額部髪際の上方5分の眉衝(督脈と頭の臨泣のほぼ中間)から下方に1寸の線―上焦

*前額部髪際の上方5分の頭の臨泣(瞳の直上であるが、督脈から3㎝~3,5㎝外方)から下方に1寸の線―中焦

*前額部髪際の上方5分の頭維から数ミリ督脈よりの位置から、下方に向かって溝状になっている長さ1寸の線―下焦

*脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦は、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦と、ほぼ同様の治療効果がある。治療効果を高めるために脳幹線1と脳幹線Ⅱを同時に使用することもできる。

脳幹線1は、急性病、慢性病のいずれにも対応できる。脳幹線Ⅱは急性期の治療に効果を発揮しやすい。脳幹線Ⅰ、Ⅱは、急性で重篤な疾患の場合、その効果を目に見える形で発揮しやすい。

また、脳幹線Ⅱは、臓腑の治療にとどまらず、臓腑病が経絡上に、反応として手足に痛みが出てきたような場合は、優れた治療効果を発揮しやすい。

例えば、左足の外膝眼の痛みや足三里付近の突っ張りが常にあって、しかも、胃痛が慢性的にあるような場合、運動器疾患の膝関節痛として捉えるよりも、臓腑弁証を優先して、大脳線Ⅳの下肢線よりも、右側の脳幹線Ⅱ中焦で治療した方が良い治療効果を出せる。

 

B大脳線

*大脳線Ⅰ―督脈上の神庭から髪際の約1寸下方にある小さな窪みがあるところまでの長さ約1寸5分の督脈上の線。

*この額にある窪みの経穴名を「閃光」と命名する。この閃光穴に針尖が届いて得気が得られた瞬間に、光りが放射線状に放たれる感じがすることがあるので閃光と命名した。

督脈上の人中、印堂、神庭、百会等は脳の働きや精神状態に作用し、それぞれの特徴があるが、閃光穴は清脳開竅あるいは精神状態の改善において、最高級の効果を発揮するのではないかと思われる。

*大脳線Ⅰの治療を始めると、先ず目に変化が現れ、明るく感じられるようになり視力がアップする。脳の前頭葉付近の活動にまるでスイッチが入ったような感じがしてくる。さらに脳全体がリラックスしクリアーな状態になってくる。

顔の表情が穏やかになり、垂れ下がっていた瞼が開いて目が大きく見えるようになる。顔全体の弛みがなくなり、美白になる。

*大脳線Ⅰの治療効果は、脳の覚醒、精神安定、記憶力や思考能力の向上、意欲の向上、大脳の疲労回復、不眠症、鬱病、認知症等の精神面の治療と、視力の向上や、顔面と胸の中心付近の鼻、咽喉、胸部の身体上の症状の治療、さらに、それらの部位の美容効果がある。

 

*大脳線Ⅱ―百会から神庭までの督脈に平行する5分外方の溝状の線。

督脈上の脳幹線1と、その数ミリ外方付近にできる溝状で圧痛がある反応線は、臓腑の治療ができる。

大脳線1に平行する5分外方の大脳線Ⅱの上焦、中焦、下焦は、臓腑の治療もできるが、それよりも各臓腑と関連する精神面の治療に適している。

*督脈の1寸5分外方で臓腑の名称がついている背部兪穴は臓腑の治療ができ、3寸外方に精神と関係する名称がついている経穴が連なっているが、それらの経穴は各臓腑と関係する精神面の治療に適している。

脳幹線Ⅰと大脳線Ⅱの関係は、背部の督脈の外方1寸5分にある兪穴と3寸外方にある精神と関係する名称がついている経穴との関係に似ている。

 

*大脳線Ⅲ

*大脳線Ⅰより約5分外方で、髪際から上方に向かう長さ5分の線(脳幹線Ⅱの上焦の上半分に相当する)と、大脳線Ⅱの上焦の下半分を合わせた長さ約1寸の線。

*大脳線Ⅲは、大脳線Ⅱ上焦の下半分と脳幹線Ⅱの上焦の上半分(髪際より上方部分)が重なる部分からなりたっているので、大脳線Ⅲ固有の治療線というものはない。

また大脳線Ⅲは督脈の外方約5分であるが、臨床上は、5分外方付近にできる溝状の反応線ということになる。

*大脳線Ⅲは、大脳線Ⅱの上焦と脳幹線Ⅱの上焦の治療線の連続線上にある。このことからもわかるように大脳線Ⅲは上焦にある心の生理作用と関係する精神安定、心理的安定、不眠、記憶力の向上、大脳の疲労回復、創造性の向上、意欲の向上、鬱病、認知症、顔面の表情の好転等に対する治療に効果を発揮する。

大脳線Ⅲ(Ⅰ寸)と脳幹線Ⅱの上焦の髪際より下半分(5分)を合わせて、約1寸5分透刺する治療をすると、心の生理作用である精神面と身体面の両面にわたる疾患に効果的な治療ができる。

*さらに、大脳線Ⅲは膀胱経でもあるので、晴明や天柱にも繋がっているので視力の向上、膀胱経の頚部の凝りや痛み等に対しても効果がある。

*大脳線Ⅰと大脳線Ⅲに刺鍼すると、大脳そのものの存在が意識されるようになることがある。そのような感覚が出たときは大脳の活動に良好な作用が及び著効が期待される。

*精神科疾患の治療には、大脳線Ⅰと大脳線Ⅲを同時に治療すると、期待した治療結果が現れることが多い。

また、肝気欝結でイライラしている、あるいは、鬱々として落ち込んでいるような場合は、さらに、脳幹線Ⅰ中焦(肝)や大脳線Ⅱの中焦(肝)を追加するとよい。

 

*大脳線Ⅳ

大脳線Ⅳの下肢線の位置は、前頂から頭維までの溝状になっている線を3等分して、前頂より3分の1の線である。

顔面線は前頂から頭維までの線で、頭維より3分の1の線である。

上肢線は顖会から頭維までの溝状の線で、その中間部分の3分のⅠの線である。

*大脳線Ⅳは、下肢線、上肢線、顔面線で、下肢、上肢、顔面の運動麻痺、感覚麻痺、痛み痺れの治療をすることができる。とくに脳梗塞による半身麻痺には著効がみられる。

大脳線Ⅳは、脳血管障害の脳梗塞等による半身麻痺の治療に著効があるが、通常の運動器疾患でも、部位や範囲に関わりなく、上肢、下肢を丸ごと治療できる。

*上肢、下肢、顔面の治療に関しては、ここで紹介している大脳線Ⅳの位置と異なる「頭鍼療法の国際標準化方案」の大脳の運動野と感覚野に位置する運動区、感覚区の治療区を参照してもよい。また朱氏頭皮鍼の治療帯を参照して治療してもよい。

*病歴の短いものは著効が出やすいが、病歴の長いものは、治療効果が低下する傾向があるので、頭皮鍼と体鍼とのコンビネーションによる治療でカバーするとよい。

*脳血管障害による半身麻痺の治療で、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線を使って治療を始めると、脳血管障害に伴う認知症がある場合、手足の治療効果が出る前に、ぼんやりとしていた眼に輝きがみられるようになり、話す内容もしっかりしてきて、認知症が消え去ることがある。

*脳梗塞で倒れて、急性期が過ぎて、半身麻痺状態での寝たきりになっている患者の頭の健側の大脳線Ⅳの上肢線、下肢線、顔面線の位置付近を見ると、その付近が少し陥没し高範囲に凹んでいることがある。また手で撫でると、さらに、そのような状態がよくわかる。

その広範囲な凹んだ部位を指で適度な圧をかけて、10分間くらい、撫でていると、言語障害も、徐々に話が通じる程度に回復し、手を貸してあげれば自分の足でトイレまで歩いて行けるようになるくらい急速に回復することがある。

鍼治療にこだわる必要がなく、手技療法でも、十分対応が可能である。

脳梗塞の場合、治療の開始時期は、発作直後の様態が安定すれば、治療の開始時期が早ければ早いほど治療効果が良い。この時期は、リハビリを開始する以前の段階であり、寝たきりの状態でもあるので、治療方法としては手技療法の方が適当である。

脳出血の場合は、様態が十分に安定したことを確認した後、、慎重に治療を開始した方が良い。脳出血の場合も、同様の治療効果が期待できる。

 

C小脳線

*小脳線は、大脳線Ⅱの上焦の上半分の線と重なっている。

*小脳線の治療をすると、平衡感覚の改善等が治療直後にみられることがある。

*小脳の機能である姿勢の維持、協調動作、運動の学習能力、筋の緊張の調節、大脳で思考したことをコピーして記憶し保存する記憶能力等の治療効果が期待できる。

*協調動作は腎の作強の官に相当するが、老化で腎虚証が進行すると協調動作が上手くゆかなくなったり動作がスローモーションになるが、これは小脳の老化現象によると考えられる。

老化に伴う下肢の頼りなさや、運動の学習能力の低下や、記憶の保存能力の低下等は、老化による腎虚証の進行に伴って顕著になるが、これらも小脳の老化現象と関係していると考えられる。

老化現象に伴うこのような小脳の機能低下の症状には、小脳線(瀉法)と脳幹線Ⅰ下焦(腎の補法)を組み合わせて治療するとよい。

これまで、認知症といえば、主に大脳の老化の問題が取り上げられてきたが、今後は、小脳の老化の問題にも注目し、その治療法の開発に力を注ぐべきである。

*小脳の治療に関しては、この小脳線の治療位置とは異なり、後頭部に位置する解剖学的小脳の位置にある頭鍼療法の国際標準化方案の平衡区を参照にすることができる。

 

D脊柱線

*脊柱線は、頭部の陽の側である百会から外後頭隆起までの線である。

人体の陽の側の督脈、膀胱経の病変の治療ができる。

*脊柱線を5等分し、上から5分の1は頚椎、その下の5分の1は胸椎上焦、その下の5分の1は胸椎中焦、その下の5分の1は腰椎、その下の5分の1は仙骨部になり、腰椎と仙骨を合わせて下焦になる。

*督脈上の病変の治療は督脈上の脊柱線で行い、膀胱経のⅠ行線、2行線は、病変部位の反対側の1分~5分外方で、相応する部位の反応線で治療する。

なお、背部の膀胱経は臓腑の反応が出やすいので、そのような場合は、臓腑弁証に基づいて相応する臓腑の治療線と組み合わせて治療する必要がある。

*百会より前側の陰(大脳線Ⅰ、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦)と百会より後側の陽(脊柱線の頸椎、上焦、中焦、下焦)のそれぞれをセットにして治療すると治療効果が高まることがある。

例えば、背中の肝兪付近に痛みがあり、肝気鬱結証による眼の症状や季肋部痛がある場合の治療は、脳幹線Ⅰと脳幹線Ⅱの中焦と脊柱線の胸椎(中焦)の外方2~3ミリ付近の反応線を組み合わせて治療すると臨床効果がよい。

腎虚腰痛で、腎虚証に伴う症状と腰の虚痛や頼りなさやふらつきがあれば、脊柱線の腰椎に瀉法をするのではなく、脳幹線Ⅰの下焦とともに、それぞれに、腎虚の程度に応じて3分から10分間の補法をするとよい。また置鍼する必要はない。

 

E少陽線

*少陽前線頭維から和膠までの溝状になっている斜めの線で、その中心付近の約3分の1の長さに相当する頷厭から懸釐までの線が少陽前線である。

片頭痛、顔面麻痺、三叉神経痛、顎関節症、口腔内疾患や顔面部の広範囲の前面と側面の患側の治療と美容に使用する。顔面の半分に対する美容上の効果(美白とリフトアップ効果、浮腫、ほうれい線、眼瞼下垂)が大きい。

少陽線による治療は病位の同側で治療する。

*少陽後線天衝から角孫までの溝状になっている線―耳鳴り、耳閉感、難聴、偏頭痛、のぼせ。同側で治療する。

 

F肩凝り線

肩凝り線は、百会から約45度斜め後方の絡却までの約1寸の線―風池、完骨附近の頚部の痛みや凝り、三焦経、胆経の肩こり、肩関節痛、眼病

頚部や肩のこりが広範囲であれば、肩凝り線に平行して強い反応線が出ていることがあるので、そこも追加治療した方がよい。

 

G股関節線

股関節線は、百会から約45度斜め前方の通天までの溝状になっている治療線―股関節痛や臀部の側面の痛み、鼠蹊部の痛み、坐骨神経痛によい。

「解説と注意点」

 

頭を陰陽に区分して、百会より前側の陰(大脳線Ⅰ、脳幹線Ⅰ)と百会より後側の陽(脊柱線)のすべての治療線に刺鍼すると、経絡的には、陰経を統括する任脈と陽経を統括する督脈の治療をするのとほぼ同様なことになる。

このことは、任脈と督脈の経絡上の特徴から、12経絡に作用し、全臓腑(上焦、中焦、下焦)あるいは全身に治療効果もたらすことができる。

小周天と似た効果があり、体感的にも、ほぼ共通した感覚がある。

実際の臓腑弁証に基づいた治療では、脊柱線にも治療した方が効果的であるが、大脳線Ⅰと脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦の方が治療のポイントになるので、脊柱の側に症状がなければ、脊柱線を省略しても構わない。

脳幹線Ⅰの上焦には心が含まれているので上焦はとりわけ重要である。上焦に刺鍼すると、上焦が温かくなり、すっきりした感じになる。また、他のどの治療線にもみられない感覚として、一瞬ではあるが、全身に、何かを感じることがある。これは心の君主の官つまり全身の司令塔としての役割と関係があるのかもしれない。

さらに、上焦には、肺が含まれているので、肺と皮毛との関係があることから、一瞬ではあるが、鳥肌が立つことがある。

また中焦に刺鍼すると、脾胃や肝胆の中焦全体が温かくなってくるとか、お腹がすっきりしてくる等の何らかの感覚を覚えることがある。

下焦に刺鍼すると、膀胱の存在が自覚されるとか、下焦全体が温かくなるとかの何らかの感覚を覚えることがある。

頭皮治療法では、百会より前面の陰の治療線の刺鍼方向あるいは手技の順序は、すべて頭頂から額の方向に向ける。百会より後面の陽の治療線の刺鍼方向あるいは手技の順序は頭頂から頚部に向ける。

刺鍼位置あるいは手技をする位置は、身体の病変部位の対側で治療する。少陽前線、少陽後線は同側で治療する。

例えば、乳房は2つあるので、いずれかの1つだけが病気になることもある。その場合は、乳房は上焦に位置するので、脳幹線1の督脈上にある上焦の部位より数ミリ外方(患側の反対側)に、やや深くて、ぼこぼこしているような溝状の圧痛を伴った反応線が出現することがある。そこが治療線となる。また脳幹線Ⅱの上焦(患側の反対側)に反応があれば、併用して治療するとよい。

また手技療法の場合は、治療線中の反応点に対して重点的に手技をすることになる。

正規の治療線のすぐ近くに、治療線のような溝があっても、反応がはっきりしない、あるいは、刺鍼した時、何かを引っかけて痛くて入りにくいような場合は、紛らわしい溝であって、正規の治療線でも、反応線でもない。

例えば、胃痛の治療で、任脈上の痛みであれば、督脈上の脳幹線1中焦を選ぶ。任脈の2寸外方の胃経に沿って痛みがあれば、脳幹線Ⅰの督脈上の中焦の位置より外方数ミリの反応線(患側の反対側)を見つけて治療するとよい。反応線と同時に中焦も治療してもよい。

すべての治療線は1ミリ~2ミリの狭い溝状になっている。鍼治療はその溝の底部に位置する狭い線から逸れないように注意深く横刺すべきである。上手に刺入できたときは、滑らかで抵抗感はなく、痛みもなく、するすると刺入できる。

鍼の刺入が溝の底の線から逸れると、痛みや締め付けられるような嫌な感覚がする。そのような感覚が出た場合は、溝から針先が逸れて何かを引っかけていることになる。

鍼の刺入角度は15度から20度で、頭皮と頭骨の間にある薄い筋肉層に刺入する。刺入角度が適当でなければ、頭皮を突き抜けたり、骨をひっかけたりすることになる。

そのような感覚が出た場合は、無理に鍼を押し込むようなことをしないで、少し鍼を抜いて刺鍼転向を何度でも行いながら、スムースに抵抗なく刺入できるところを探りながら進鍼するとよい。針先に抵抗感が出てきて、スムースに刺入しずらくなっても、鍼を捻転して滑らかな感じがあれば、力強く刺入しても問題ない。

どうしても、痛くて刺入できないような場合は、数分間、置鍼しておくと、鍼が馴染んできて刺入しやすくなることがある。

それでも上手くゆかない時は、抜鍼して正確な位置を再度確認し、やり直した方が良い。

正確な位置に刺鍼できていない場合は、治療線から逸れると痛いだけでなく治療効果も著しく低下する。

鍼のサイズは、直径0.25mm、長さ30mmが使いやすいが、状態によって、直径0.30あるいは0.22あるいは0.20に変えてもよい。長さは40mmまたは25mmでもかまわない。

調気手技療法では、指の先端部分か爪を使うことになるが、適当な道具(玉石、水牛の角等を加工したもの)があれば、その道具を使って溝状の治療線や反応点を治療しても良い。

頭皮鍼の手技は雀啄補瀉法が効果的である。この手技は、得気を取って、気の感覚を逃さないように、小刻みに比較的速い提挿を行う。

瀉法は、提の方にアクセントがあり、速く力強く引き上げる。挿の方は元の位置に戻すという動作なので比較的ゆっくり力を抜いて行う。補法は、反対の要領で行う。

瀉法は、得気を取った後、数分間置鍼していると、鍼の周りに気血が集中してきて、重たいとか締め付けられるような感じに変化してくる。気血が集まってから瀉法をすると、気血に対して大きく作用しやすくなるので瀉法の効果が高まる。

手技の時間は、実(邪気)の程度に応じて、30秒から2分間くらい行い、置鍼時間中に手技を数回行ってもよい。

また、置鍼時間は、通常、30分程度であるが、置鍼の作用は緩やかな疎通経絡、止痛作用であるので、そのような必要性が高い場合は、さらに数時間置鍼してもかまわない。

鍼の補法は、気血が不足しているので、置鍼していても、気血は集まってこない。それで置鍼する必要がないので、刺鍼後、すぐに手技を開始するとよい。虚(気血津液の不足)の程度に応じて3~10分間連続して気血が満ちて来るまで補法の手技を行うとよい。その後は瀉法のように疎通経絡の必要がないので、置鍼することなく、すみやかに抜鍼すればよい。

調気手技療法で行う頭皮への補瀉手技は平補平瀉法で行う。具体的な動作は、溝状の治療線に沿って上下に、あるいは左右に均等に揺するように動かす。

このような手技によって虚実の過不足が平均化され、バランスを回復するようになる。

平補平瀉法の手技は、良性の双方向性の調節作用、つまり、自己治癒能力を効果的に引き出してくれる手技である。

しかし、虚実のバランスが大きく崩れているときは、平補平瀉法の効力には限界もあるので、身体の経絡経穴を使って補瀉手技を併用した方が良い。

調気手技療法も、鍼治療と同様に得気を取って補瀉手技を行う。手技における得気は、治療線に沿って走行している経絡の中を流れている気に対して、最も効果的に作用しやすいような適度な圧力を加えることである。

このような適度の圧力による得気の感じ方は、痛みが多少あっても気持ち良い感じがして、何か効きそうという感じがするものである。補瀉手技は、得気を得た状態で、気を逃さないように行うとよい。

頭皮による治療だけでも、十分な治療効果を出せる場合が多いが、身体の経絡経穴を使う治療や耳ツボ治療、手鍼治療等と組み合わせて治療すると、さらに良い効果を発揮する。

頭皮による治療は、元々、脳の解剖学を基礎にして開発された治療法という経緯がある。そういう事情から、治療線の選定には、一定程度、現代医学の知識にしたがって行うことができる。また、弁証に基づいて治療線の選定をすることもできる。両面から総合的判断をして治療するとよい。

現時点では白川式頭皮鍼は、治療法の骨格ができた段階であり、開発途上の治療法である。

白川式頭皮鍼は、病気に関する新しい治療法の確立を目指すと同時に、さらに、人間の潜在的知的能力や身体的能力を開発し、限界を超えることを目指すことにある。

また老化の予防法や老化に伴う病気の治療法の確立を行うとともに、さらに、若返りのための治療法を目指すことにある。

80歳の老人であっても、老化現象で薄くなった髪が、見た目にも、はっきり蘇ってきたと感じられる程度に変化することもある。

また老化に伴って、著しく忘れっぽくなっていたのが、若かった頃に戻ったとまではいかないまでも、自分自身で、納得できる程度に記憶力が回復する。

老化と関係なく、記憶力のよくない人でも、かなりの程度よくなる。

また脳の状態がクリアーになって、頭の回転がレベルアップしたように感じるようになる。

また感情の極端な起伏がなくなり精神安定する。

また、身体の柔軟性や運動能力の向上、さらに身体的運動の学習能力が向上し、運動の練習効果が高まる。

治療の過程で、このようなことが、しばしばみられるが、どの程度、安定的な効果が得られるかは、今後の研究課題である。

頭皮治療法による美容のための治療では、顔面や身体の局所に対する治療はほとんど必要がない。頭皮治療法で弁証論治に基づいた本治法を行うので、全身的な健康を回復させると同時に、全身的な美容効果を生じさせることができる。

顔のくすみや、クマをとるために、あるいは、ほうれい線を取るためやリフトアップのために、顔面に刺鍼するとか、またウエストの肥満解消のために腹部に刺鍼してパルスをかける必要性はない。そのような表示法による治療効果は、1日か2日であり、すぐに元に戻ってしまう。

臓腑弁証に基づいて、全身的な去湿、活血化於の治療(脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦、大脳線1、または体鍼による間使、三陰交、太衝、陰陵泉、豊隆、風池)をすれば、湿邪による全身の弛みや浮腫、気滞、於血による皮膚のクスミやカサツキが取れて全身な健康と美容に良好な結果が出る。

例えば、慢性的に脾胃に気滞や湿邪が停滞して腹部が膨満してウエストのサイズが大きくなっていたとすると、治療直後に、5㎝くらいウエストが細くなり、さらに、ふくろはぎのあたりも2㎝くらい細くなることも、しばしばみられる。

痰湿や於血が全身から取り除かれるということは、顔面の美容に限定されることなく、全身の美容効果をもたらす。

頭皮治療を中心にして、弁証論治による治療をすれば、局所取穴の必要性がほとんどなくなり、健康の回復と同時に、顔面を含めて全身的美容効果が現れる。

図

図2

「弁証取穴の基礎」気、火、血、津液、陰虚、陽虚の病の病因、症状、取穴3

「弁証取穴の基礎」

気、火、血、津液、陰虚、陽虚の病の病因、症状、取穴3

 

1 気病の病因、症状、取穴 

  1. 気虚
    病因 飲食不節による気の生化不足、過労、慢性病、先天の気の不足、老化、
    症状 顔色淡白、息切れ、自汗、倦怠感、眩暈、風邪を引きやすい、少食、運動すると症状が悪化しやすい、舌淡胖大、白厚苔、脈診 細、無力
    取穴 太淵、太白、足三里、気海、脾兪、胃兪、大谿、腎兪等
  2. 気陥(中気下陥)                 
    病因 気虚の原因にプラス極度の過労、慢性の下痢、多産、力み過ぎ
    症状 気虚証の症状に加え、昇挙無力の症状 腰腹部の墜脹感、頻繁な便意と慢性的下痢、胃下垂、脱肛、子宮下垂、腎下垂等の内臓下垂
    取穴 足三里、太白、中脘、百会、脾兪等
  3. 気滞、気欝(欝滞)
    共通する症状 脹痛、遊走性の痛み、噯気や矢気で症状が軽減する。
    ・肝欝気滞

    病因 情志失調
    取穴 太衝、内関あるいは間使、期門、支溝、陽陵泉等
    ・脾胃気滞 

    病因 飲食不節、痰湿、肝気横逆
    取穴 足三里、中脘、内関等
    ・大腸気滞

    病因 便秘、飲食不節
    取穴 天枢、気海、上巨虚等
  4. 気逆
    ・肺気上逆 

    病因 外邪、痰湿、
    症状 咳、喘
    取穴 尺沢、列欠、孔最、天突、風門、肺兪
    ・肝気上逆

    病因 情志失調
    症状 イライラし怒りっぽくなる、冷えのぼせ、頭痛、眩暈、昏厥
    取穴 太衝、丘墟、期門、内関、百会、風池
    ・胃気上逆

    病因 外邪、食滞、肝気犯胃
    症状 悪心、嘔吐、噯気、吃逆
    取穴 足三里、中脘、内関
  5. 気脱、気閉
    ・気脱

    病因 大量の発汗、出血、激しい下痢、慢性病、中風
    症状 浅呼吸、顔面蒼白、四肢厥冷、玉のような自汗、昏倒、中風の脱症
    取穴 関元、気海、神厥への灸、足三里、合谷
    ・気閉 

    病因 外邪(穢濁の気、熱邪)、強い情志失調、深刻な気欝、中風
    症状 閉厥(外邪による)、昏厥(情志失調)、呼吸急促、中風の閉症
    取穴 井穴、十宣(中風の閉証)、人中、百会、内関、合谷、豊隆、太衝

 

2 火邪(熱邪)による外感病の治療

  1. 火邪(熱邪)は、外淫の火熱邪と内火(内熱)に分類される。外淫の火熱邪には風熱、暑邪、湿熱等がある。
    また、外感温熱病は衛気営血弁証に従って治療できるが、臓腑弁証と衛気営血弁証は異なる弁証スタイルであるが、衛気営血弁証の4段階に、一定程度、相応する臓腑弁証があり、かなりの程度まで、共通した取穴ができる。
  2. 風熱表証あるいは衛分証
    共通する症状 発熱、発汗、軽度の悪風悪寒、面紅、頭痛、口渇、咽喉痛、咳、脈浮数
    取穴 井穴、栄穴、大椎、曲池、合谷、列欠
  3. 熱邪壅肺あるいは気分証
    共通する症状 高熱、悪熱、口渇、大汗、咳喘、黄色い粘い痰、便秘、尿赤、脈沈滑数、舌質紅苔黄燥
    取穴 魚際、尺沢、合谷、曲池、大椎、肺兪、豊隆、内庭
  4. 熱入心包あるいは営分証
    共通する症状 身熱、口乾するが口渇はない、心煩、心神不安、不眠、意識障害、譫語、脈細数、舌質紅こう
    取穴 栄穴、内関、人中、三陰交、復留
  5. 血熱動風(熱極生風)あるいは血分証
    共通する症状 吐血、衄血、血便、血尿、手足の痙攣、角弓反張、意識障害、燥動、五心煩熱、潮熱、脈細促、舌質紫こう
    取穴 栄穴、太衝、内関、人中、曲池、大椎、三陰交、復留
  6. 暑邪 
    症状 暑熱邪 高熱、大汗、面赤、煩渇、昏厥、四支痙攣、脈洪数
    (暑)湿邪 四支倦怠、胸悶、食欲減退、下痢、舌黄膩苔
    気、津液の損耗 口渇、気短、四肢無力、乏力、脈細無力
    取穴 暑熱邪 井穴、栄穴、曲池、大椎、内関、曲沢、人中
    (暑)湿邪 内関、陰陵泉、足三里あるいは豊隆、中脘
    (暑邪による気、津液の損耗には、足三里、復留あるいは三陰交の補法)

 

内火(内熱)の治療

内火(内熱)は、五志化火(気鬱化火)、飲食不節による湿熱、胃熱、邪欝化火(六淫邪気、痰湿、瘀血の長期の欝滞)、陰虚内熱、陰虚陽亢がある。

  1. 情志失調による五志化火
    ・肝火上炎

    症状 眩暈、頭痛脹痛、のぼせ、目赤、易怒、イライラ感、口苦、口乾、耳鳴り、季肋部痛脹痛、舌紅、苔黄、脈弦数
    取穴 行間あるいは太衝、期門、風池、百会
    ・心火上炎 

    症状 心煩、不眠、口渇、面紅、排尿時痛があり赤く濁る、舌に瘡ができ糜爛する、舌尖紅こう、脈数有力
    取穴 神門、内関、心兪
  2. 飲食不節(脂っこいもの、甘いもの、味の濃いもの、辛いもの、酒)による熱化
    ・胃熱 

    症状 胸焼け、胃の灼熱感、冷飲を好む、消穀善飢、歯周炎、口臭、便秘
    舌紅、苔黄、脈滑数
    取穴 内庭、中脘、足三里、内関
    ・脾胃湿熱 

    症状 胃脘腹部のつかえ、身体が重だるい、下痢、小便短赤、身熱、皮膚瘙痒、舌紅、苔黄膩、脈滑数
    取穴 陰陵泉、太都、内庭、足三里、中脘
  3. 邪鬱化火
    ・六淫の火熱邪が入裏したもの、あるいは六淫の風邪、寒邪、湿邪が入裏した後、欝して化火することがある。
    取穴 栄穴、曲池、大椎、(湿熱邪には陰陵泉を追加する。)
    ・痰湿、瘀血が長く欝滞すると化火し、湿熱、血熱になることがある。
    取穴 湿熱 陰陵泉、豊隆、中脘、中極、栄穴
    血熱 三陰交、血海、膈兪、栄穴
  4. 陰虚内熱あるいは陰虚陽亢
    ・房事過多により精、陰液を損傷し、陰虚内熱になる。
    ・邪熱により陰液を損傷し、陰虚内熱になる。
    ・気鬱化火により陰液を損傷し、陰虚内熱になる。
    ・五志化火により陰液を損傷し、陰虚内熱になる。
    ・老化や慢性病により陰虚内熱が進行する。
    取穴 復留、(照海、三陰交、大谿、腎兪、栄穴、太衝を追加取穴してもよい)

 

4 血病の病因、症状、取穴

  1. 血虚証
    病因 脾胃虚弱による気血生化不足、大量の失血、七情過度、過労による血の損耗
    症状 顔面蒼白あるいは萎黄、舌また唇色淡白、頭暈、目のかすみ視力減退、心悸、不眠、手足の痺れ、筋肉の痙攣、経血減少、色淡、経期の遅れ、あるいは閉経、脈細無力
    取穴 三陰交、(血海、膈兪、脾兪、胃兪、足三里を追加取穴してもよい)
  2. 血瘀証
    病因 情志による内傷(肝欝気滞瘀血)、外傷、気虚、気滞、寒邪、熱邪、津液の損耗
    症状 刺痛、固定痛、腫塊、拒按、シビレ、麻痺、経血の紫暗色の血塊、生理前、初期の生理痛、心悸、舌紫暗瘀点瘀斑、脈渋弦結
    取穴 三陰交、血海、膈兪、合谷、太衝、(合谷、足三里の補法と三陰交の瀉法 気虚瘀血)
  3. 血熱証
    病因 外感火熱邪、五志化火等による臓腑の火熱、飲食不節による火熱邪が血分に影響
    症状 衄血、喀血、吐血、血便、血尿、崩漏、斑疹等の出血、舌紅こう、脈数有力
    取穴 三陰交、(血海、栄穴、大椎、曲池、行間あるいは太衝を取穴してもよい)
  4. 血寒証
    病因 寒邪による寒凝気滞
    症状 手足、少腹部の冷痛、皮膚は紫暗色、生理は遅れ、経血は紫暗色で血塊がある、舌暗淡、脈沈遅渋
    取穴 三陰交、血海、太衝、関元や局所に針の瀉法と灸

 

5 津液不足、痰湿の病の病因、症状、取穴

  1. 津液不足
    病因 飲食不節による生化不足、労倦、火熱邪、燥邪による津液の損傷、大汗、尿崩、嘔吐、下痢
    症状 口渇、鼻、口唇、咽喉の乾燥、嗄声、皮膚の乾燥、煩燥、小便短少、便秘、舌紅燥、脈細数
    取穴 復溜、大谿、三陰交、肺兪
  2. 脾虚生湿(痰)、痰湿困脾、腎虚水ぼう、湿邪による痺証(着痺)、風寒邪による肺失宣降  
    ・脾虚生湿(痰)

    病因 飲食不節、過労等による脾陽不足
    症状 食欲不振、下痢、浮腫、小便不利、倦怠感、身体が重い、舌白苔、淡胖大、歯痕取穴 足三里、太白、陰陵泉(先瀉後補)、脾兪
    ・痰湿困脾

    病因 湿邪、飲食不節(甘いもの、冷たいもの、生もの、脂っこいものの取り過ぎ、酒の飲み過ぎ)
    症状 胃脘部のつかえ、食欲減退、下痢、頭重、四支の倦怠と重だるさ、舌白膩、脈  滑
    取穴 陰陵泉、足三里、中脘、内関
    ・腎虚水ぼう

    病因 先天不足、老化、房事過多、慢性病による腎陽虚
    症状 浮腫(下肢に現れやすい)、小便の回数、量の減少、腰の重痛、動悸、息切れ
    取穴 水分、関元(針灸)、中極、腎兪(針灸)、三焦兪、三陰交、太谿
    ・痺証(着痺)

    病因 湿邪
    症状 四支の関節の重痛、麻木、固定痛、雨天に増悪
    取穴 陰陵泉、足三里、五兪穴の兪穴、局所に針と灸(病位が骨にあるリュウマチには灸は必須)
    (陽気不足で寒湿不化を伴う場合は関元に灸、大谿に針の補法を追加)
    ・風寒邪による肺失宣降

    病因 風寒邪
    症状 悪風悪寒、眼瞼浮腫、主に上焦の浮腫、倦怠感と重だるさ、小便不利、咳、無汗、取穴 列欠、合谷、風門、大椎(針、灸)、陰陵泉

 

6 陰虚、陽虚の病の病因、症状、取穴

  1. 陰虚
    病因 先天不足、老化、房事過多、邪熱、五志化火、慢性病
    症状 腰の虚痛、足腰の無力、遺精、耳鳴り、五心煩熱、頬部紅潮、盗汗、咽乾、舌紅、少苔、痩薄、裂紋、脈細数
    取穴 復溜、腎兪、(照海、大谿、三陰交、気海を追加取穴してもよい)
  2. 陽虚    
    病因 先天不足、老化、房事過多、慢性病
    症状 足腰の重痛無力、畏寒、冷え症、精神萎縮、陽痿、不妊症、小便不利、尿失禁、浮腫、水様性の下痢、舌淡胖大、白苔、脈沈無力
    取穴 大谿、関元(針灸)、気海、命門(灸)腎兪

「弁証取穴の基礎」弁証取穴に使われる常用穴を補瀉に分類2

「弁証取穴の基礎」

弁証取穴に使われる常用穴を補瀉に分類2

 

1 気血陰陽の虚証に対する弁証取穴の常用穴

  1. 気虚証の常用穴
    脾経と胃経の経穴には補気作用がある。気の製造工場に相当する脾胃を補うことで補気することができる。
    常用穴としては足三里(胃経の合穴)、太白(脾経の原穴)である。さらに、公孫(脾経の絡穴)、兪穴の脾兪、胃兪、章門(脾経の募穴)、気会の膻中(上焦の気会)、胃経の募穴の中脘(中焦の気会)、先天の元気の海である気海(下焦の気会)、三陰交、関元も使用できる。
    太淵(肺経の原穴で兪土穴)、肺兪(兪穴)への補法で、脾胃で作られた気を全身に配送するセンター的機能(肺は一身の気を主る)を有する肺を補うことができ、肺気、あるいは、宗気を補うことができる。また肺の表裏関係である大腸経の合谷(原穴)は汗証の気虚証による自汗等に使われる。
    全身的な気虚証には、任脉の代表的な経穴である膻中(上気海)、中脘(中気海)、気海(下気海)、太淵(一身の気を主る)、太白(後天の気を生じる)、足三里(強壮の穴、気血の生化の源)、脾兪と胃兪(後天の気の源)、大谿と腎兪(先天の気の源)等によって補気できる。
    以上の経穴は、すべて補気作用があるが、臨床上の必要に応じて適切な選穴をするとよい。
  2. 血虚証の常用穴 
    三陰交、足三里、脾兪、胃兪(血の製造工場である脾を補い、全身的血虚に対応できる)膈兪(心肝血虚、上半身の血証に使われる)
    血海(調経、下半身の血証、血虚による皮膚瘙痒に使われる)
  3. 陰虚証の常用穴
    腎は、全身の陰陽の根本であるので、陰を補うためには、腎経あるいは、腎と関係する経絡から選穴する必要がある。例えば、復溜(経金穴で腎の母穴)、照海、太谿(原穴)、陰谷(合穴)、腎兪、志室、大腸兪、三陰交(足の三陰経の交会穴)等である。
  4. 陽虚証の常用穴
    腎は、精を蔵し、水火の宅であるので、陽を補うためには、腎経あるいは、腎と関係する経絡から選穴する必要がある。例えば、太谿、関元、命門、大椎(諸陽の会)、腎兪、志室、三焦兪、大腸兪、気海兪等
    腎陰虚、腎陽虚、腎気虚、腎精不足に対して、腎経中の大半の常用穴は共通して使えるが、各証型による経穴の使い分けもある。

以上の全ての常用穴を取穴するというわけではなく、臨床上の必要に応じて適切な選穴をすればよい。

 

2 臓腑の虚証に対する弁証取穴の常用穴

  1. 臓腑の虚証に対する常用穴
    気血陰陽を補う常用穴、該当する経絡の原穴(太谿、太白、太淵、神門、合谷)、母子関係の母穴、下合穴、背兪穴、募穴、任脉、督脈の常用穴から選穴する。
    肺気虚、衛気不固 太淵、合谷、肺兪、足三里、太白、公孫、風門、膻中(例えば、合谷と足三里、太淵と太白というように組穴にして使うことができる)
    肺陰虚 復溜、照海、肺兪、太淵(太淵、肺兪だけでは不十分であり、肺の陰液を補うには、腎経の復溜あるいは照海は不可欠である)
    心気虚 足三里、神門、心兪、膻中(心経を補うだけでは心気は補えないので、気の生産工場に相当する脾胃を足三里で補う必要がある)
    心血虚 三陰交、神門、心兪、(膈兪を追加してもよい。血の生産工場に相当する脾胃を三陰交で補う必要がある)
    心陽虚 神門、心兪、厥陰兪、関元(針の補法に焼山火あるいは灸)、膻中、大谿(関元、太谿で、陰陽の根本である腎陽を補う必要がある)
    心陰虚 復溜、神門、心兪、太谿(腎陰を補う必要がある)
    脾気虚 足三里、太白、脾兪、公孫、三陰交
    脾虚生湿 陰陵泉(一穴で治療する場合は先瀉後補あるいは平補平瀉、脾兪、足三里等を補う場合は瀉法)足三里、水分、脾兪
    中気下陥 足三里、合谷、百会、気海、中脘
    胃陰虚 復溜、胃兪(復溜で腎陰を補うことで胃陰を補うことができる)
    肝血虚 三陰交、肝兪、血海、曲泉、陰谷
    肝陰虚 復溜、三陰交、曲泉、肝兪、太谿、陰谷、
    腎気虚、腎精不足、腎陽虚、腎陰虚の弁証取穴は上記した腎虚証の各証型の取穴と同じである。腎不納気、腎気不固の取穴は、腎気虚の取穴に準じる。

 

3 臓腑間の虚証に対する弁証取穴の常用穴

  1. 各臓腑の弁証取穴を適当に組み合わせる。
    肺脾気虚 太淵、太白、足三里、肺兪、脾兪
    肺腎気虚 太淵、太谿、肺兪、腎兪
    心脾両虚 神門、三陰交、心兪、脾兪、足三里
    心腎陽虚 神門、太谿、関元(針の補法に焼山火あるいは灸)、心兪、腎兪
    心腎不交 復溜、三陰交、太谿、神門(瀉法)心兪、腎兪
    心胆気虚 神門、心兪、肝兪、三陰交、丘墟、太衝、膻中
    脾胃虚弱 足三里、太白、脾兪、胃兪
    脾腎陽虚 足三里あるいは太白、太谿、関元(針の補法に焼山火あるいは灸)、脾兪、腎兪
    肝腎不足 太谿、三陰交、肝兪、腎兪、気海
    肝腎陰虚 復溜あるいは三陰交、腎兪、肝兪
    肝陽上亢、肝陽化風 復溜あるいは三陰交、太衝(瀉法)、風池(瀉法)百会(瀉法)、湧泉(瀉法)

 

4 外邪に対する弁証取穴の瀉法の常用穴

  1. 風邪 
    曲池(一身の風邪、風熱表証、肌膚の風邪、)、列欠(風寒と風熱の表証)、大椎(風寒と風熱の表証―風寒には針の瀉法と灸)、風門、外関、風池、合谷
  2. 寒邪
    列欠、大椎(風寒表証―針の瀉法と灸)、寒熱喘咳を主る各経絡の五兪穴の経穴(痺症―陽輔、崑崙、解谿等)、中脘(寒邪直中―針の瀉法と灸) 
  3. 湿邪
    陰陵泉 各経絡の五兪穴の体重節痛を主る兪穴(痺症―足臨泣、束骨、後谿等)
  4. 火熱邪
    曲池(風熱表証、衛分、気分、陽明の熱)、大椎(風熱)、各経絡の井穴、身熱を主る各経絡の五兪穴の栄穴(魚際、液門、労宮あるいは内関で代用する、行間あるいは太衝で代用する、内庭、侠谿等)
  5. 燥邪
    列欠あるいは尺沢(瀉法)、肺兪(先瀉後補)と復溜(補法)

 

5 内生の病邪に対する弁証取穴の瀉法の常用穴

  1. 気滞
    内関あるいは間使(胸脘脇腹部の気滯、肝鬱気滞)、太衝(肝の気機失調による気滞)、合谷(肺の気機失調による気滯)、 膻中、中脘、気海(上、中、下焦の気滞)、天枢(大腸気滞)、足三里(脾胃気滞)
  2. 血瘀
    三陰交(全身性)、膈兪(上半身、心肝)、血海(下半身、生理痛、生理不順)、合谷(多気多血の経脈の原穴)、太衝(肝鬱による気滞瘀血)、各経絡の郄穴(各臓腑経絡の瘀血)
    効果的な活血をするには、血に作用する経穴を単独で使うよりも、「気は血の帥」であるので、気に作用する経穴を組み合わせて使う方が効果的である。
    例えば、気虚瘀血には足三里の補法と三陰交の瀉法、気滯瘀血には、合谷、内関、間使と太衝、血海、三陰交等を組み合わせる。(たとえば、合谷と太衝、間使と三陰交の組穴)
  3. 内生の湿邪、湿熱、寒湿、痰湿痰熱
    湿邪、湿熱には陰陵泉(全身性、中焦)、中脘(中焦)、中極、次髎(下焦)列欠(上焦)寒湿には針に灸
    痰湿には豊隆(全身性、中焦の去痰)、
    痰熱には豊隆、内庭(全身性、中焦)、 足三里(中焦)、中脘(中焦の去痰)、天突(気道の降痰)、水分(利水)
    気虚生湿には、陰陵泉に瀉法あるいは先瀉後補あるいは平補平瀉、太白、足三里に補法、また陰陵泉の瀉法と脾兪の補法の組み合わせることもできる
  4. 内生の火熱邪 
    五兪穴の身熱を主る各経絡の栄穴(内庭、魚際、行間、液門等)、曲池、大椎、三陰交(血熱)
    陰虚内熱には復溜あるいは照海、大谿の補法
  5. 内風 
    太衝、百会、風池、風府
    血虚生風 三陰交、足三里、血海に補法
    陰虚陽亢による肝風内動には、太衝、風池、百会の瀉法、復溜あるいは三陰交の補法

 

6 逆気に対する常用穴、各経絡の疎通経絡の常用穴

  1. 逆気に対する常用穴
    五兪穴の逆気を主る合穴、あるいは原穴、募穴を使う
    肺気上逆 尺沢、列欠、孔最、天突、肺兪、風門、肝気上逆 太衝、期門、日月、百会、風池
    胃気上逆 内関、足三里、上脘、中脘、胃兪、膈兪
    肝胃不和による胃気上逆 内関、太衝、足三里、中脘
    すべての経穴を取穴する必要はなく、程度に応じて追加取穴するとよい
  2. 各経絡の疎通経絡の常用穴 
    各経絡の郄穴、井穴(井穴は開竅醒志だけでなく、経気の通暢ができる、至陰、商陽、少商、少沢、関衝等)、局所穴の瀉法あるいは吸角

 

 臓腑の実証に対する弁証取穴の常用穴

肺熱 魚際あるいは尺沢
痰湿阻肺 尺沢、豊隆
心火 神門、内関(栄穴の少府、労宮は理論と一致するが、臨床上は使われることは少ない。神門と内関の方が臨床的価値は高い)
痰火擾心 神門、内関、豊隆、中脘、内庭、鳩尾
痰迷心竅 神門、内関、豊隆、陰陵泉、中脘、鳩尾、心兪
心血瘀阻 神門、内関、三陰交、心兪、厥陰兪、膈兪、郄門
胃熱 内庭、中脘、(天枢、足三里を追加してもよい)
胃寒 中脘、足三里、胃兪(灸)
食滞 中脘、足三里、内関、天枢
湿困脾 陰陵泉、足三里、中脘
肝気鬱結 太衝、期門、内関、陽陵泉
肝火上炎 太衝あるいは行間(理論上は行間になるが、太衝で代用できる)百会、風池
寒凝肝脈 太衝、大敦(針の瀉法と灸)

 

8 臓腑間の実証に対する弁証取穴の常用穴

心肝火旺 神門、内関、太衝あるいは行間
脾胃湿熱 陰陵泉、足三里、中脘、天枢、内庭
肝胆湿熱 太衝、陽陵泉、陰陵泉、侠溪、行間
肝胆火旺 太衝、風池、丘墟、侠溪、行間、陽輔(肝胆火旺による片頭痛に対して有効である。陽輔は経火穴であり、母子関係で木の子穴になる)
肝火犯肺 尺沢あるいは魚際、太衝あるいは行間
肝気犯脾 太衝(瀉法)、太白あるいは足三里の補法
肝気犯胃 太衝、足三里、中脘
下焦湿熱 陰陵泉、中極、次髎、水分
上記した常用穴は、弁証取穴において、原則に適合しているが、弁証取穴で使われる常用穴は、臨床経験に依存するところが大きいので、固定的に考える必要はない。
上記した常用穴は、臨床で頻繁に使用されている常用穴をほぼ網羅している。実際の弁証取穴では、上記した常用穴の中から、臨床上の必要に応じて適当な常用穴を選べばよい。

「弁証取穴の基礎」 弁証取穴で使われる常用穴を補瀉に分類1

「弁証取穴の基礎」

弁証取穴で使われる常用穴を補瀉に分類1  

要穴は全て覚えた方がよいが、臨床上は、そこまでの必要性はない。

要穴には、五兪穴(60穴)、原穴(12穴)、絡穴(15穴)、郄穴(16穴)、八会穴(8穴)、八脈交会穴(8穴)、下合穴(6穴)、背兪穴(12穴)、募穴(12穴)、交会穴(96)がある。

これらの要穴は、理論上、大切であるが、臨床上あまり使われないものもある。

これらの要穴の中から、弁証取穴で常用される臨床的価値の高い90穴位を使いこなせるようになる必要がある。

経穴学の教科書は、肺経の経穴から始まって、順序よく、全経穴を取り上げてゆくのが一般的であるが、ここでは、弁証取穴に使われる常用穴を、補法、瀉法、補瀉双方に使われる経穴に、3分類して取り上げることにする。

 

1 弁証取穴で補法に使われる常用穴

 大部分の経穴の作用は基本的に補瀉の双方向性がある。弁証取穴においても、瀉法、補法、補瀉双方に使う経穴に三分類できる。

各経絡上の経穴は、その経絡に属する臓腑の生理、病理との関係、あるいは各経穴の固有の性格によって、瀉法、補法、補瀉双方に使えるかどうかを考えるべきである。

  1. 補法に使われる脾経、胃経、腎経の常用穴
  • 脾経、胃経は、脾胃は気血生化の源なので、補気、補血、後天の気を補う経絡である。脾経、胃経の井穴と栄穴や顔面部の経穴は、一般的に補法としては使われないが、その他の経穴は、基本的には補瀉法のいずれにも使われる。
    例えば、足三里、太白、三陰交等は気血を補う常用穴であり、また、腹部の乳根から気衝までの経穴も補法として使われる。
  • 腎は陰陽の根本である。陰陽の根本を補い、先天の気を補うことができるのは腎経であり、太谿、復溜、照海等は陰陽の根本を補う常用穴である。
  • 脾経、胃経、腎経は気血陰陽を直接的に補える経絡である。この三経以外の経絡は直接的に気血生化の源、陰陽の根本を補うことはできない。

 

補法に使われる背兪穴、原穴、任脈、督脈の常用穴

  1. 背兪穴は臓腑の経気が輸注しているので、臓腑に対する補法に、また瀉法にも使える。
  2. 十二原穴は臓腑の原気が通過し留まる経穴なので、理論上は、原穴は臓腑の治療ができ、また、臓腑の虚を補うことができる。
    しかし、臨床上、臓腑の補法として使うことができる原穴は太谿、太白、太淵、神門、合谷等であり、その他の原穴は、臨床上、補法で使うことはあまりない。太谿以外の原穴は瀉法としても使うことができる。腎の原穴である太谿は腎には実証はないので瀉法で使うことはしない。
  3. 任脉の関元は壮陽の穴であり、気海は元気あるいは下焦の気を補うことができる。また、中脘は中焦の気を、膻中は上焦の気を補うことができる。
  4. 督脈の命門と大椎は腎陽を補うことができる。

 

3弁証取穴で瀉法に使われる常用穴

 腑病には、実証が多く、また腑が詰まると大変なことになるので、補法が使われることは少ない。気血生化の源を補う足三里等がある胃経は、瀉法だけでなく、補法としても使われるが、胃経以外の手足の陽経の経穴は瀉法としてよく使われる。

  1. 大腸経で瀉法に使われる常用穴は曲池、合谷(例外的に、合谷は肺経の表裏関係の原穴であるので、汗証の虚証の自汗等の治療に対して補法として使われるが、他の経穴は瀉法としてよく使われる)
  2. 小腸経の常用穴は後谿(臓腑としての小腸の治療は、下合穴の下巨虚を使って治療する、あるいは脾の病証として治療するので、小腸経の経穴は臓腑弁証取穴で使うことは少なく、瀉法としてよく使われる。)
  3. 膀胱経の常用穴は秩辺、次髎、委中、崑崙、束骨(膀胱経の背兪穴は補瀉双方に使えるが、それ以外の経穴は瀉法に多く使われる。)
  4. 胆経の常用穴は丘墟、足臨泣、陽輔、環跳(胆経は瀉法に使われることが多いが、髄会の懸鍾、筋会の陽陵泉、補益脳髄、明目の作用がある風池等は補法にも使われる。)
  5. 三焦経の常用穴は中渚、外関、支溝(三焦は臓腑の外腑であり、三焦の上焦、中焦、下焦の各臓腑の治療は各臓腑の経絡の経穴、兪募穴等で治療する。三焦経の経穴は、外腑としての三焦病、経絡病、少陽病の治療に使われ、瀉法に使われることが多い。)
  6. 肺経の常用穴は尺沢、列欠、魚際(尺沢は合水穴であるので、尺沢は補法にも使えるが、臨床上は、母子関係で、金の子穴になるので、肺の実証に対する瀉法に使われる。列欠は絡穴で、理論上は補法にも使えるが、臨床上は瀉法として使われることが多い。)
  7. 心包経の常用穴は間使、内関(心包は邪気から心を防衛する作用があることにより、去邪するのに適している経穴であり、補法に使用することはない。)
  8. 肝経の常用穴は太衝、行間、期門(太衝は原穴なので、理論上、補瀉双方に使えるが、肝血虚には三陰交への補法が使われるので、臨床上は、太衝は補法に使われず瀉法に使われる。また、肝陰虚には、曲泉は合水穴なので補法に使われるが、通常は、復溜や三陰交が使われることが多い。)
  9. 井穴は心下滿を主る、あるいは、開竅醒神やその経の疎通経絡の効能だあることから瀉法あるいは瀉血法に使われる。
  10. 栄穴は身熱を主るので、清熱のために瀉法として使われる。(例外として、腎経の然谷は、腎は水火の宅であるので、腎陽虚に対して補法で使うと温補腎陽の効能がある。)

 

4 弁証取穴で補瀉双方に使われる常用穴

 経絡が属する臓腑に虚実があることから、経穴は、理論上、補瀉双方に使うことができるが、臨床上は様々な制約がある。

  1. 補瀉双方に頻繁に使われる常用穴は、胃経(足三里、脾経(血海、陰陵泉、三陰交、公孫)、心経(神門)、大腸経(合谷)、胆経(風池、陽陵泉、懸鍾)等である。
  2. 任脉(膻中、中脘、気海、中極)、督脈(百会、大椎)等である。
  3. 背兪穴(腎兪以外)は補瀉双方に使われる。
  4. 八会穴の章門、中脘、膻中、膈兪、陽陵泉、大杼、絶骨は補瀉双方に使える。
  5. 絡穴の豊隆は補瀉双方に使えるが、臨床上は去痰のために瀉法で使われることが多い。
  6. 任脉の気会の膻中は補気することもできるが、臨床上は、気滞に対する瀉法として使用されることの方が多い。
  7. 関元は補瀉双方に使えるが、通常は元陽を補う経穴として灸がよく使用される。
  8. 中極は膀胱の募穴であり、下焦湿熱証で瀉法として多用されるが、気化行水や膀胱の約束を助けるために補法として使われることもある。
  9. 気海は下焦の気滯に、あるいは元気を補う要穴として補瀉双方に多用される。
  10. 命門は、督脈の経気を通暢するために瀉法に使用することもできるが、通常は、命門火衰に対して灸を使う。

 

原穴の補法、母子関係での補法に使われる弁証取穴の常用穴

  1. 原穴の補法の常用穴
    原穴は理論上、臓腑の治療ができることになっているが、臨床上、臓腑弁証取穴で補法として使用できる原穴は、太谿、太白、太淵、神門、合谷である。その他の原穴は、補法として使うことは少ない。
    例えば、心包経の大陵は、臓腑理論上、臓腑の治療で瀉法に使えるが、補法に使うことはない。なお、神門は補瀉法のいずれにも使える。
    例えば、膀胱経の京骨は原穴であるが、経絡理論上は、臓腑弁証取穴で使うことができないとは言えないが、臨床上は、疏通経絡のために瀉法として使う。
    なお、腎経の太谿以外の原穴は全て瀉法に使うことができる。
    原穴が臓腑弁証取穴として使えるかどうかは、臓腑理論と整合性がある場合にのみ使える。
  2. 母子関係での補法の常用穴
    五兪穴を使って、母子関係での母穴を取穴することで補うことができる。しかし、臨床上、この取穴法の常用穴として使用されるのは、腎経の経金穴の復溜を使って腎陰虚を、肝経の合水穴の曲泉を使って肝陰虚を、肺経の兪土穴の太淵を使って肺気虚を、さらに脾経の兪土穴の太白を使って脾気虚や肺気虚を補う等である。太白は脾気虚だけでなく、肺気虚も補うのに有効である。
    脾経の太白で肺気虚を補える根拠は、脾経は肺経の母経であり、さらに脾経上では、太白は肺の母穴である土穴だからである。さらに、脾と肺の関係は、臓腑理論上からも、脾は気血生化の源であり、脾を補うことで、肺気も補うことができる。つまり、培土生金の関係にあるので、臓腑理論上も、臨床上も太白で肺気を補うことができる。
    しかし、母子関係の補瀉法の理論を一般化して臨床で使うことには無理があり、臨床上の効果にも疑問がある。この理論の有効性の範囲は臓腑理論と整合性がある場合のみである。
    例えば、腎虚に対して、腎経の経金穴の復溜の補法は有効であるが、腎の母経の肺経の経金穴である経渠で腎虚を補うということは臓腑理論上、無理がある。
    臓腑理論からして、肺経には、腎経や脾経のように補う力はないし、肺と腎の関係では、腎は陰陽の根本なので、腎が肺を補えるが、肺が腎を補うことはできない。したがって、経渠で、腎虚を補うということは、臓腑理論上、無理があり、臨床上の有効性も疑わしい。
    例えば、心気虚に対して、心経上の心の母穴である井木穴の少衝では、井穴の性格からしても、補うことはできない。臨床上は、原穴の神門や背兪穴の心兪には補う力があるが、井穴の少衝には、そのような効能はない。さらに、心の母経である肝経の井木穴の太敦にも補う力はない。
    心気に限らず、どの臓腑の気を補うにしても、気血生化の源である脾胃の経絡から、たとえば、足三里、太白を取穴し補法をすればよい。
    なお、理論上は、母子関係の補瀉法で、子穴を使って瀉すことができるが、臓腑理論上ありえない取穴になることがある。臨床上、有効性があるものは限定される。
    例えば、胆経の実証の治療に胆経の木の子穴である経火穴の陽輔、肺の実証には肺経の合水穴で金の子穴である尺沢は臨床においても有効である。しかし、肺実に対して、子経である腎経の合水穴の陰谷を瀉すことは臓腑理論上ありえないし、臨床効果もない。

美顔、痩身、体型、姿勢、皮膚、髪、発声等の包括的 同時治療法

*頭皮針の特徴と治療区の選定

美容の針治療の基本は、各美容の要素と関連する臓腑の生理作用を活用して治療することである。
頭皮針には、複数の臓腑の治療と、それらの臓腑と関連する精神、経絡、組織、器官の病気や美容上の問題を同時に包括的に効果的な治療ができるという特徴がある。

「額頂帯の前1/4(神庭)」 

  • 美容:顔面の中心線上の美容 眉間や額の皴、鼻の先端部の毛穴、顎から首の前面の弛みや皴、美白効果
  • 精神、身体の治療:精神安定、安眠、記憶力の向上、脳の疲労回復、鼻づまり、喉の痛み

「胸腔区(眉衝)上焦(心肺)の治療区」

  • 美容:皮膚全体の美白効果
  • 精神、身体の治療:皮膚病、気管支炎、喘息、多汗症、狭心症、心筋梗塞、精神安定、安眠

「額傍1帯(頭の臨泣) 中焦(肝胆脾胃)の治療帯」

  • 美容:皮膚のくすみ、美白効果、目の周りのクマ、しわ、シミ、吹き出物、リフトアップ、ほうれい線、細目が大きく丸く開く、浮腫みが取れて小顔になる。アトピー性皮膚炎の後遺症としてのくすみ、皮膚のあれ、バストアップ、膨らむ等の美乳、顔面、下肢、ウエスト、ヒップ等の全身の浮腫みや弛みが取れて体型が整う。
  • イライラした怒りっぽい表情あるいは精神的に落ち込みうつうつとした表情の改善、異常食欲、肥満、金切り声でせっかちな話し方、眠気眼で無気力な表情の改善、重たい口調の話し方、(外反母趾、O脚)の改善、(爪の変形、変色)の改善
  • 精神、身体の治療:視力の向上、嗜眠、頭重、身体が重い、全身的倦怠感や疲労感、膝の痛み、顎関節症、多汗証、(アトピー性皮膚炎、花粉症、喘息、慢性鼻淵)等のアレルギー体質の改善、生理痛、生理不順、季肋部痛、少腹部痛、冷えのぼせ、片頭痛、突発性難聴、肩こり、眼精疲労、ドライアイ、便秘、下理、便秘と下痢の繰り返し、胃、ゲップ、全身的筋肉痛

「前聶(しょう)帯(頷厭から懸釐への透刺)少陽経の経気の疎通」

  • 美容:顔面半分の美容に関する全要素に対する最強の表示法
  • 精神、身体の治療:片頭痛、顔面麻痺、三叉神経痛、口腔疾患、顎関節症

 

「頭皮針とのコンビネーションで使う体針の美顔治療の要穴:風池:少陽経の経気の疎通、 天柱:膀胱経の経気の疎通」  

  • 美容:顔面の美容全般、眼を中心とする表情の好転、禿

「美顔、痩身、体型、姿勢、皮膚、髪、発声等の一括同時治療法」

 「頭皮針の治療区の組み合わせによる新しい包括的美容法」

美容法の根本は、各美容の要素と関連する臓腑の生理作用を活用することである。頭皮針によって、美容や臓腑病、さらに、各臓腑と関連する精神、経絡、組織、器官の病気の治療が同時にできる。
以下の頭皮針の治療区を組み合わせて治療すると、精神、身体の健康法と同時に、美容全般に関して、包括的で同時に高い治療効果を出すことができる。

1)「額頂帯の前1/4(神庭) 顔面の中心線に作用、精神安定、記憶力向上」 

美容:顔面の中心線上の美容 眉間や額の皴、鼻の先端部の毛穴、顎から首の前面の弛みや皴、美白効果
精神、身体の治療:精神安定、安眠、記憶力の向上、脳の疲労回復、鼻づまり、喉の痛み

2)「胸腔区(眉衝) 上焦(心肺)の治療区」(頭針療法) 

美容:皮膚の美白効果
精神、身体の治療:皮膚病、気管支炎、喘息、多汗症、狭心症、心筋梗塞、精神安定、安眠

3)「額傍1帯(頭の臨泣) 中焦(肝胆脾胃)の治療帯」

美容:皮膚のくすみ、美白効果、目の周りのクマ、しわ、シミ、吹き出物、リフトアップ、ほうれい線、細目がパッチリ開く、浮腫みが取れて小顔になる、アトピー性皮膚炎の後遺症としてのくすみ、バストアップ等の美乳、顔面、足、ウエスト等の全身の浮腫みが取れて体型が整う。ヒップアップ、イライラした怒りっぽい表情あるいは精神的に落ち込みうつうつとした表情の改善、異常食欲、肥満、金切り声でせっかちな話し方、眠気眼で無気力な表情の改善、重たい口調の話し方、(外反母趾、O脚)の改善、(爪の変形、変色)の改善
精神、身体の治療:視力の向上、嗜眠、頭重、身体が重い、全身的倦怠感や疲労感、膝の痛み、顎関節症、多汗証、(アトピー性皮膚炎、花粉症、喘息、慢性鼻淵)等のアレルギー体質の改善、生理痛、生理不順、季肋部痛、少腹部痛、冷えのぼせ、片頭痛、突発性難聴、肩こり、眼精疲労、ドライアイ、便秘、下痢、便秘と下痢の繰り返し、胃痛

4)「額傍Ⅱ帯(頭維) 下焦(腎、膀胱)の治療帯」

美容:下半身の浮腫み弛み
精神、身体の治療:腎、膀胱、生殖器に関係する病気

5)「前聶(しょう)帯(頷厭から懸釐への透刺)頭顔面部の少陽経、顔面の半分の疎通」

美容:顔面半分の美容の全要素に対する表示法としての最大の治療効果
精神、身体の治療:片頭痛、顔面麻痺、三叉神経痛、顎関節症、口腔内疾患

 「頭皮針の手技のポイント」

  • 額頂帯1/4の神庭、胸腔区の眉衝、額傍1帯の頭の臨泣、額傍Ⅱ帯の頭維の取穴位置は髪際の上方5分であるが、針の刺入位置は各経穴の位置より2~3分上方から下方に向けて刺入し、経穴の位置を針が通過するようにする。針先が髪際から額部に2~3分突き抜けるようにする。刺入の深さは約1寸になる。
  • 頭皮針の治療区は、5分くらいの幅の帯状になっている。その帯状の範囲内に適当に刺針しても治療効果が出ない。その帯状の範囲内で、経穴や治療区の反応が溝状あるいは窪み状になって現れている。そのような反応点、反応線に、1~2ミリ程度の誤差の範囲内で、正確に刺入することが大切である。
  • 反応線の溝に正確に刺入すれば、何かをひっかけているとか、何かに当たっているというような感じがなく、するするとスムースに無痛で刺入できる。そのような時にのみ高い治療効果が期待できる。
  • 刺針後、数分間、置針すると、針尖の周りに気血が集まってくるので、針尖の感覚が虚から実の感覚に変化して重くてきつい感覚に変化してくる。
    気血が針尖に満ちてきた状態で、雀啄法の瀉法を30秒~1分間施す。30分間程度の置針時間中に数回手技をする。虚証の場合は、置針することなく補法にする。虚実夾雑の場合は、先瀉後補にする。あるいは瀉法にして、その後、体針で補法をする。
  • 置鍼時間中に、運動針にしたり、局所のマッサージをしたり、深呼吸をすると、より高い効果が得られる。
    置針時間中か抜針後に、顔面やウエストや下肢のマッサージや運動をすると、気滞や湿邪の停滞が取れて全身的に細身になる。
  • 美容のための治療帯の選定は、中焦の額傍1帯は必須であるが、その他は必要に応じて追加して行く。
  • 頭皮針単独の治療でも、十分な治療効果が出るが、体針の弁証取穴や局所取穴と組み合わせても良い。

    たとえば、肝胃不和の場合、額傍1帯(中焦)と太衝、足三里の取穴を組み合わせてもよい。また、目尻の小皺に対して、前聶(しょう)帯と目尻の小皺の始まりから太陽までの透刺を組み合わせてもよい。

 

「姿勢、体型の治療」

1)O脚の治療

O脚の人は、胆経が実証で引きつり、肝経が胆経との相対的関係において虚証で弛緩している。
とりわけ股関節、膝関節において、肝胆の虚実のギャップを解消することで治療ができる。
頭皮針で、額傍1帯(中焦の肝胆脾胃)に刺針して肝胆の虚実を調整する。
体針で、陽陵泉に瀉法、曲泉に補法を施し、膝の肝胆経の虚実の調整を行う。
また、頭皮針で、百会から45度斜め前方の通天に透刺する「頂結前帯」と、手針の第4指と第5指の間に刺針する坐骨神経点を使って、股関節の緊張を緩める治療をする。
さらに、頂聶(しょう)帯(前頂から頭維にかけての溝状の反応線)の下肢に相当する前頂寄りの1/3の部分に刺針する。
このような治療をすると、それまで歩行中に、足の裏の外側に重心が片寄って加わっていたのが、内側と外側に均等に重心が加わるようになり、O脚の程度に変化が見られるようになる。

2)外反母趾の治療

女性によく見かけられる外反母趾は、見かけ上、骨の異常のように見えるが、実祭には、第1指側の肝経の太衝が実証で引きつれて第2指の側に重なり合うようになる。また、第1指の脾経側の太白が相対的に虚証で弛緩している。臓腑弁証では、肝実脾虚証であり、臓腑の虚実が、それぞれの経絡上の原穴に、虚実の反応として現れたと推測される。
治療は、頭皮針の額傍1帯(中焦の肝胆脾胃)と頂聶(しょう)帯(前頂から頭維の線上)で、前頂寄りの1/3の部分に刺針する。体針では、太衝の瀉法、太白の補法にする。

3)爪の変形、変色、ひび割れの治療

巻き爪になる原因は深爪にすることであるといわれているが、爪の変形、変色、ひび割れ等の多くは、肝と爪との関係で、肝気鬱結で気血の流れが詰まって、爪を養うことができなくなって変化したものと考えられる。理論的には、肝血虚で養うことができず変形することも考えられるが、臨床上は肝気欝結証が圧倒的に多い。爪の治療は肝気欝結による詰まりを解いて肝血で爪が養われるようにすることである。また、深爪をしないことである。
治療は頭皮針の額傍1帯(中焦の肝胆脾胃)と体針の井穴の大敦、原穴の太衝と募穴の期門。耳ツボの肝、神門、問題のある爪の指の局所に相当するツボ。

4)猫背、腰の異常な前屈や後屈、脊柱側弯症、頸椎の変形の治療

治療は、頭皮針の百会から外後頭隆起間の「頂枕帯」上で、問題がある部位に相当する位置に刺針する。
体針では後谿を取穴する。後谿は督脈の8脈交会穴であり、太陽膀胱経と同名経である太陽小腸経であるので、脊柱上にある督脈や膀胱経に顕著な効果が出る。さらに委中の取穴を追加するとよい。頭皮針と後谿に置針した状態で運動針にすると、より高い効果が見られる。
脊柱側弯症では、骨の変形が目立つが、実際上の問題は筋肉の側にある。筋肉が攣れている側に脊柱が引き寄せられる。その反対側の筋肉は弛緩しているので、反対側に引っ張られることになる。これは、左右の筋肉の虚実の違いによる変形として捉えて、左右の兪穴あるいは華佗挾脊に補瀉手技を施して左右の均衡を回復させることで治療する。

 

 

「耳ツボによる痩身、美顔」

1)耳ツボ治療の特徴

  • 耳ツボによる治療は減肥治療として広く知られているが、実際には全身のあらゆる治療ができる。
  • 耳ツボの治療原理は現代医学と中医学の双方にあるので、複雑な面もあるが、適用範囲が広く便利である。中医学を基礎にして治療する場合は弁証論治を行うが、現代医学を基礎として治療する場合は、現代医学にそって取穴することもできるので、弁証論治が曖昧な人であっても、耳ツボ治療ができる。
    また、両原理を適当に組み合わせて取穴しても臨床上は問題がない。
  • 体針による経穴を使った治療は、虚実の弁証と補瀉手技が必要になるが、耳ツボ治療では、理論上は補瀉手技が必要と言えるが、臨床上は、植物の種を耳ツボにバンソコーで貼るだけなので補瀉手技は事実上できない。それでも、虚実に関係なく臨床効果が出る。その原理は、ツボが本来的に有する良性の双方向性の調節作用によるものである。言い換えれば、耳ツボ治療は、人体の自己治癒能力を最大限に引き出す能力があると言える。
    例えば、老人性のかなりの程度の難聴に対して、腎虚証と診断して、中医学的発想による「腎」と現代医学的発想による「内耳」の2穴の反応点に種を貼って、補瀉手技と関係なく、顔をしかめる程度の強さの圧刺激を加えたところ、数分も経ないうちに耳が聞こえるようになった。
    別の眩暈の事例では、脾の昇清作用の低下による眩暈と診断して、「脾」と「昇圧点」の2穴に種を貼ったところ、たちどころに眩暈が止まった。
  • 耳ツボによる治療は、厳密に取穴をする必要があるが、身体に針を刺す技術の習得に比べれば簡単である。
    弁証能力はそれほど厳密で十分でなくてもできる。場合によっては、現代医学を基礎にして治療することも可能である。患者に怖がられることがなく、痛みもそれほどでもなく、しかも簡便な治療で、即効性と持続性があり、体針の治療効果よりも、はるかに高い効果を出せる場合もある。耳ツボのエキスパートになって、耳ツボ専門店でもやっていける。

2)食欲のコントロールの取穴

飢点、渇点、胃、肝、神門
「飢点」、「渇点」は、本来的には、糖尿病などによる異常食欲や異常な口渇を抑制するために使われていたが、美容への関心が高まってくるようになって、美容に転用されるようになった。
「胃」は異常食欲の原因になっている胃熱を取るために取穴したものである。
「胃」の取穴は、胃に蓋をして、食物を入りにくくするという作用もあるので、喉が詰まって不快な感じがすることがあるが、それでも問題はない。
「肝」は肝胃不和などに対応した取穴である。また、やけ食いや精神的不安やイラつきをまぎらすために食べるのを防ぐための取穴でもある。
「神門」は食べるのを我慢していることによる精神的負担を軽減し、また、精神的安定を保ちやすいようにするための取穴である。この他にも、現代医学的取穴法もあるので、それを採用してもよい。

3)気滞や痰湿による浮腫み

肥満には、実質的な固太りの場合もあるが、ガスや水膨れによる浮腫みで、見かけ上、太っている場合が多い。それが、顕著に表れる部位としてはウエストである。本来的には、60cm程度であっても、ガスや水膨れがあれば、65cm以上になることもある。これは、その日の体調で増減するが、そのような余分な物がたまらない健康な状態にすれば、常に、60cm以下をキープすることができるようになる。
たとえば、ストレスが原因で、肝の疏泄作用の働きが悪くなると、その影響を受けて、脾胃の気機が乱れて気滞が発生し、腹部がガスで膨満してくる。また肝気犯脾になると、脾の水湿の運化作用が低下して、腹部はもちろんのこと、全身的に浮腫みやすくなる。肝気犯胃になると、胃熱が強くなり、異常食欲や便秘による膨満感や胃熱が胃経に沿って顔面に上ってきて吹き出物や顎関節症が発生しやすくなる。
このような場合は、肝、脾、胃、神門、消化器系統皮質下を取穴するとよい。また便秘をしている場合は、便秘点、大腸を追加取穴するとよい。
このような取穴で、腹部の膨満が取れて、顔面部や下肢の浮腫みや吹き出物も解消される。1~2回の治療では、その時の効果が良くても、そのうち、元の状態に逆戻りする可能性が大きい。肝気犯胃、肝気犯脾に歯止めをかけるような治療を継続すると、臓腑の働きが正常な状態に回復して、腹部の膨満感や全身的な浮腫みも根本的に解消されることがある。

4)脂肪の燃焼と特定部分の痩せ

筋肉運動によってのみ脂肪が燃焼するのであって、どのようなマッサージをしようとも、脂肪が著しく燃焼するようなことはない。また、痩せさせたい局所に針を刺して、電気的刺激を加えても、似かよった効果になる。
また長時間の局所のマッサージや刺鍼をしても、その部位の水の代謝が促進されたり、血行が良くなったりして、見かけ上、細くなる。
しかし、臓腑の働きが正常な状態に回復しない限り、時間が経てば、また浮腫みが出て元の状態に逆戻りするので、根本的には何も変わらない。
耳ツボ治療では、筋肉運動をした際に、脂肪の燃焼効率を上げるために、「丘脳」、「興奮点」を取穴するとよい。脂肪太りを痩せさせるための運動療法を効果的なものにすることができる。
部分痩せのためには、食欲、気滞、痰湿、脂肪等について上記した取穴による全身的減肥効果を、どの部位に誘導したいかによって局所取穴をすればよい。
たとえば、ウエストであれば、「腹」、ヒップであれば、「臀」、足には、「腓腹筋点」といった具合である。あまり局所取穴を増やし過ぎると、目標がぼやけて効果が低下する。

 

5)美顔の取穴

美顔の一般的取穴は、肝、脾、胃、肺、脳下垂体(脳垂体)、内分泌等である。
アレルギー体質の人には、腎上腺、過敏区を追加取穴する。さらに、体針の曲池、陰陵泉、三陰交を追加取穴するとよい。
老人班やシミ、色素沈着には、腎、丘脳、交感、促性腺激素点を追加取穴、 なお、紫外線による皮膚炎やシミには、体針の曲池、三陰交を追加取穴するとよい。
クマ、くすみには、心血管系統皮質下、耳尖を追加取穴
顔面の局所の相当する部位としては、面頬区のエリア内の反応点、上顎、下顎、額、眼等から反応点をチェックして取穴する。

 「耳ツボの裏ワザ」

耳は人体の縮図のようなものなので、取穴位置が1ミリ逸れても、身体では10センチ逸れたことになるかもしれない。耳針図に臓腑や手足の絵が描かれているが、その絵の部分に、適当に取穴すればよいと思われるかもしれないが、それは勘違いである。確かに、その絵の範囲内に、反応点が現れるということであるが、その範囲の中から、具体的な反応点を1ミリ以内の誤差で、正確に圧痛点や反応点を見つけ出して、そこに取穴すべきである。種を貼る際に、多少ツボからずれることがあるので、強い圧痛があるかを確かめる必要がある。圧痛が弱ければ、外れていることになるので、既に貼っている種の位置を爪を使って圧痛が強く出る位置に微調整することが、裏ワザになる。ツボの位置の正確さは10分の1ミリである。

 

美容鍼灸の弁証論治

*美顔の針治療 

内面的精神状態や健康状態は、顔面の表情や雰囲気に大きく影響して、その人の印象を決定的に左右することがあり、このことが美容上の最大のポイントになることもある。これまでの美顔の針治療では、個々の美容上の部分的な問題を治療することに関心が払われてきたが、全体的印象としての表情や雰囲気に関しては、治療対象としては、どうにもならない問題であるとして置き去りにされてきた。
美顔治療のポイントは、個々人の精神状態や全身的な健康上の問題からアプローチして、その人の体質に見合った治療をすることで、個性的な表情や雰囲気をもたらすようにすることが大切である。しかも、その表情や雰囲気を醸し出している美容上の個々の部分的な問題も同時に解決されてゆくようにすべきである。

 

*健康になることと美しくなることは同じこと

心身の健康のための治療と美容のための治療は本質的には同じことである。ただ、健康と美容のいずれの観点から治療するかの違いがあるだけである。
誰しも経験的に分かっていることであるが、精神状態や健康状態が悪い時は、表情や雰囲気もさえない状態になり、全身的にも浮腫んだり、皮膚の色が悪くなったり、美容上も、気になることが続出してくるものである。


*気虚証タイプの針治療

このタイプの人は、全身的観点からみると、エネルギー不足で、しかも、水湿の代謝も悪いタイプなので、何ごとにも、無気力で、消極的態度になり、まるで怠け者のようにみられる。このような精神状態は、生まれつきの性格であると思われているかもしれないが、そのように考えることは間違いである。また、顔面の美容上の問題として、上瞼が重くて垂れ下がり細目になる。顔面全体が浮腫んで、張りがなくなり、たるんでいるので、ぶよぶよした感じで顔が大きくなっている。また、ほうれい線も目立つようになる。いつも眠そうで、多汗で、めまいを起こしそうなくらい疲れた表情になる。
また、容姿とは別の問題もある。小声で頼りなさそうな話し方になるので、会話の内容はともかく、話が相手に伝っていないとか、会話での好印象が感じられないこともある。
上記したような表情や症状は、美容上の観点からすると、たとえ、本来の顔かたちが、いくらきれい人であっても、魅力にかけることになる。
この様なタイプの人も、針治療で、これらの症状を伴った気虚証の治療をすることで、全身にエネルギーが充填され元気そうな雰囲気になり、全身の水湿の運化が良くなって浮腫みがなくなり、全身の下垂傾向も改善されて、治療後には、イメージが一新されて、若々しい活発な雰囲気に変わる。
気虚証という証がなくなるまで治療を継続して気虚証体質が改善されると、一過性の変化ではなく、美容上の問題に留まらず、身体の方も根本的に元気になり、気力も充実してくる。身体と精神状態が健康的になり、その結果として、美容上も、魅力的な表情と雰囲気に変化し、個々の美容上の気がかりな点も具体的に改善されるようになる。

「虚証の弁証取穴」 合谷、足三里、内関あるいは太淵、太白、内関、 下垂症状が強い人には百会を追加取穴して補法を施す。内関を先に取穴して、軽い瀉法をして気の巡りをよくしておいてから足三里、合谷を補った方が、補法による詰まりを防ぐことができるので治療効果がよくなる。

「局所取穴による表示法」 美顔治療においては、顔面の局所に刺鍼しても構わないが、その治療効果は、限定的で一時的な場合が多い。実証タイプの局所治療は、ある程度、効果が期待できるが、虚証タイプの効果は薄いか、場合によっては、マイナス効果になることもある。弁証取穴と正確な取穴位置、適切な補瀉手技が治療効果の決定的要素である。

 

*実証タイプの針治療

アルコール飲料や甘いもの、生もの、油っこいものを過剰摂取し、しかも運動不足の人は実証タイプの痰湿証、湿熱証になる可能性が大である。この様なタイプの人も、虚実の違いがあるが、気虚証タイプの人と似通った水湿の停滞による症状が現れる。
痰湿証、湿熱証の弁証取穴 陰陵泉、豊隆、中脘、中極、頭維に瀉法を施す。

「治療効果」
 痰湿や湿熱邪が去邪されて、脾の水湿の運化作用が回復するので、全身の浮腫みや、たるみがなくなり、このことによる美容上の全ての問題点も消失する。
表情は、瞼が大きくあいて細眼が丸くパッチリ開いて、明るくて元気そうな表情に変わる。頬の浮腫みや弛みがなくなりリフトアップされる。また、ほうれい線も消えて引き締まった感じで小顔になる。さらに、くすみが取れて美白で色艶もよくなる。
顔面の美容効果に限定されることなく、足の浮腫みも取れて引き締まった感じがして、足が細くなり軽やかになる。中焦に停滞していた水湿やガスが消失するので、ウエストまわりの浮腫みや張りも取れる。
脾の昇清作用が正常に働き始めると、全身の下垂傾向が改善される。あるいは、痰湿の停滞による重みで、垂れ下っていた乳房がバストアップされ、また、垂れ下がっていたヒップもアップされることになる。全体的な体型や姿勢が整ってくる。

「美乳効果」
気血不足で、乳房が本来的な大きさよりも、小さくなっている場合は、乳房は胃経上にあり、また、脾胃と関係するので、足三里と三陰交を取穴して気血不足を補えば、病的に気血不足で小さくなっていた分は本来的な大きさになる。
気虚生湿による水湿の停滞での弛みや中気下陥による下垂した乳房は、足三里、陰陵泉への補法、中気下陥には、百会、合谷の補法を追加取穴することでバストアップされる。

「美乳のための補瀉手技のポイント」
上記したような経穴に補法をすると、胃脘部が詰まってくる感じがする場合がある。虚が原因で気滞や瘀血、痰湿が停滞している状態で補法をすると、それらの邪気が勢いを得て詰まって苦しくなることがある。臨床上は、虚証には補法をすべきだと考えるのは短絡的である。
内関あるいは間使に軽く瀉法をして、さらに置鍼して行気しながら、他の補法を必要とする経穴には、虚の程度に応じて、鍼尖の感覚が虚から実に変化するまで、3~10分間の補法をするとよい。あるいは、局所の乳房の周りへの刺鍼を省略しても、効果にはあまり影響しない。
痰湿や湿熱による実証タイプの弛みは陰陵泉、足三里あるいは豊隆、中脘の瀉法をする。
また、巨乳で垂れ下がっているタイプは、痰湿や湿熱が停滞していて重だるく疲れた感じがしやすい。このようなタイプは痰湿証や湿熱証として、全身的な治療をすると、去湿されて軽い感じになってバストアップされる。
なお、乳首に問題がある場合は、乳首は肝と関係があるので、太衝、期門を追加取穴するとよい。
生理前に、乳房が気滞で膨らんで痛みが出ることがあるが、やがて瘀血で固まりぺちゃんこになるような場合は、循経取穴による足三里と、内関あるいは間使、三陰交の瀉法で行気活血することで瘀血が緩み、その分だけ、柔らかくなり、ふっくらと膨らんでくる。なお、肝気欝結による瘀血が強いタイプには太衝、期門の瀉法を追加するとよい。美乳のための弁証取穴による治療は、乳癌の予防効果も期待できる。

 

*肝気鬱結証タイプの針治療 
このタイプの人は、ストレスが主な原因で、肝鬱気滞瘀血を起こして心身ともに詰まった感じになって広範囲にさまざまな症状を引き起こす。
その影響は、当然のことながら、美容上の問題にも直結してくる。
たとえば、精神状態は鬱々としてくるときには、気持ちが塞ぎ込んだり、また、イラついたりする。それが目つきや表情にも表れて、近寄りたくない雰囲気になることもある。
全身症状としては、肝気欝結で気血の流れが詰まっているときは、気血が巡らなくなるので冷え症になる。また、顔面は青白くなり艶がなくなり、ときに、眼の周りにクマができやすくなり、全体がくすんでくる。
また、気鬱化火、肝気上逆になると、気につれて血も上るので、足が冷え、頭顔面部がのぼせてくる。足が異常に冷えるが、顔面は赤ら顔になり、眼も血で白目が赤くなる。
このようなタイプの人は、生理痛がひどく、生理にともなって、イライラ感が強くなり、偏頭痛、顔面には吹きでもの、異常食欲、便秘、浮腫み等の症状が出やすくなる。
このような肝気鬱血を基本にした諸症状は、女性の大半の人が経験していることであり、身体や精神状態の問題であると同時に、美容上も厄介な問題が次々に起こってくる。
これは、美容上の問題というよりも、むしろ、生理不順や生理痛と関連した婦人科疾患である。また、ストレスが病因になっている精神科や内科的疾患でもあり、美容の問題は、これらの疾患の一部分であり、結果でもある。
したがって、美容上の治療は、美容上の観点を考慮しながら、これらの疾患の治療をすることで解決できる。これらの疾患の元になっているものは肝気鬱結証であることが多いので、この証の治療をすることで、これらの疾患の治療をすることができると同時に、美容上の広範囲な問題点も解決できる。
肝鬱気滞瘀血で、気血の流れが詰まって瘀血が形成されたり、詰まることで局所に栄養が届かなくなって、眼の周りのクマや顔全体のくすみが出現したり、皮膚があれたり、小じわができたりする。これに対して、眼の周りや顔面のあちらこちらに刺鍼してもかまわないが、ほとんど無意味である。肝心なことは、その原因である肝気欝結を解く治療をすることである。
そうすることで、美容上の問題も解決される。
「肝気欝結証に対する基本的な取穴」 太衝、期門、内関から間使への透刺、全て瀉法
肝気欝結による生理不順、生理痛、少腹部痛、仙骨部痛、また、くま、くすみ、しわ等には、三陰交を追加取穴するとよい。
「気鬱化火や肝気上逆」による、のぼせ、顔面紅潮、異常なイライラ感には、百会、風池を追加取穴
「肝胆火旺」による偏頭痛、耳鳴り、耳閉感、風池周辺の頚部の痛みや肩こり、こめかみの痛み、目尻の小じわ等には、風池、太陽、丘墟を追加取穴するとよい。
「肝火上炎」による眼の諸症状 眼の奥の痛みや眼精疲労、眼の乾燥と眩しさ、目赤、きつい目つきには、百会、風池、光明を追加取穴するとよい。
「肝気犯胃」による顔面の吹き出もの、異常食欲、胃痛、便秘、顎関節症には、内庭または足三里、中脘を追加取穴するとよい。
「肝気犯脾」による全身的な浮腫み、顔面の浮腫みやたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂による細目には中脘、陰陵泉、豊隆、中極を追加取穴するとよい。

 

*腎虚証タイプの針治療 
更年期以降の女性、老人、慢性病の後期の人に腎虚証がみられる。また、少数ではあるが例外的に若い人であっても、腎虚証の人もいる。
美容上の問題においても、二十歳代後半頃から、腎虚によるもの、つまり、年だから仕方がないと考えられがちであるが、これは思い違いである。20代では、通常は、老化、つまり腎虚による美容上の問題は、ほとんどない。
人は皆、たとえば、30代、40代になっても、それぞれの年代に見合った年相応の顔に変化してゆくが、それ自体は自然なことであり腎虚によるものとは言えない。
これらの年代の美容上の大半の問題は、腎虚つまり、老化にともなう病的な変化は、きわめて限定的なものであり、むしろ、ストレス、飲食不節、睡眠不足、運動不足等の生活習慣病を引き起こしているような問題が原因であることが多い。
長生きをするようになった現代では、更年期から60歳代後半くらいまでの女性の美容上の問題は、腎虚、つまり老化の問題は根底にあるけれど、それ以上に、個人差があるが、若い人と同じように、生活習慣上の問題がより大きな原因になっていることが多い。
一般的に言って、60歳代後半から、美容上の問題は、日常の生活習慣上の問題が主な原因であることもあるが、それまで、潜在化していた腎虚、つまり老化が原因の美容の問題が表面化してくる。この場合には、腎虚証の治療にポイントを移す必要がある。「腎虚証の弁証取穴」
腎精不足、腎気虚には太谿、気海、腎兪
腎陽虚には太谿、関元(鍼灸)、腎兪
腎陰虚には復溜、腎兪
皺、くすみ、くま、シミ、白髪、禿等が、老化現象として徐々に進行してきた場合は、腎虚証として治療することになる。それで、老化の進行を食い止め、ある程度の若返りも可能になる。当然のことながら長期的には老化予防の治療には限界がある。
老化現象と思われているこれらの美容上の問題点も、実は別の原因であることも多い。
たとえば、高齢者では、老人斑として、徐々にシミができて増えてゆくことがあるが、若い人であっても、急にシミができることがある。これは、紫外線や各種の炎症の後遺症によることがある。同じシミであっても原因が異なるので、老人のシミは、腎虚証として治療するが、老化とは関係ない若い人のシミは、曲池や三陰交に瀉法を施して治療する。シミの治療は、日焼け等でシミ化することが予測される段階での予防的治療、老人性のシミの初期段階では良い効果が出ることもあるが、古くなったシミは、色を多少、薄くさせて目立たないようにすることができるが、シミそのものを完全に消失させることは難しい。
肝鬱気滞瘀血によるくすみ、くま、小じわは治療効果がよいが、老人性のくすみや皺、あるいは激やせに伴ってできた大きな皺は、治療効果は芳しくないが、長期間の治療を継続した場合、振り返って比較してみると、はっきりとした治療効果を見てとることができる。

 

「禿の治療」
高齢者の老化現象による禿は、腎虚証として根気よく治療してゆくと、髪の本数が著しく増えるというようなことはないが、髪の質が良くなり太くてしっかりしてくるので、抜け毛も少なくなり、外見上、目立たなくなってくる。
若い人の禿は、ストレスが原因で、肝鬱気滞瘀血による円形脱毛症や、アルコールの飲み過ぎや甘いものの食べ過ぎ、ストレス等による肝胆湿熱証によるものが多い。これらの治療は本人の原因に対する養生が必要であるが、治療効果は比較的に良い。
円形脱毛症の肝鬱気滞瘀血の取穴は、太衝、内関から間使への透刺、丘墟、百会、風池、局所への梅花鍼か散鍼 数回の治療で完治することが多い。
熱い汗で頭の毛根が蒸されて脱毛するイメージの肝胆湿熱証の取穴は、陰陵泉、太衝、丘墟、中脘、内庭、頭維、百会、風池。 肝胆湿熱証の改善の程度に応じて、また目安としては頭部の汗が少なくなってきたら禿の程度も改善されてゆく。

 

「手技のポイント」 
一般的に、補法の手技は、一穴につき5~10分間の捻転の補法を施す。あるいは針下の感覚が、虚から実の感覚に変化するまで手技を継続する。置針の必要性はない。このような補法をした時だけ、目に見える補法の効果が現れる。
数秒間の補法の手技をして、長く置鍼しても、気持ちは補法でも、客観的な補の効果はほとんど期待できない。
また、取穴の位置が大雑把で、経絡の走行や経穴の位置から逸れていると、治療効果はゼロか半分以下になってしまう。取穴の誤差は、経穴の入り口である皮膚面においては、1~2ミリの誤差の範囲内で正確に取穴しなければいけない。
神経を集中して、指で皮膚面をチェックしてゆくと、経絡は溝状に、経穴の位置は窪みになっているのを感じ取ることができる。数ミリの大きさの経穴の窪みの中に、1ミリくらいの経穴の穴を見つけて、その穴に正確に刺針するようにする。
経穴は気が出入りする穴であるので、経穴の穴に針を刺入すると、気の防御作用が働いて、一種の邪気である針尖に気が向かってくる。その時の気と針尖の衝突が得気である。
得気の感覚は、気が一種の気体であるので、液体のような粘さや重たさはなく、固体に当たった硬さでもなく、エアーブレーキを踏んだ時のふんわりとした感覚で止まる様(さま)に似ている。
得気の瞬間の感覚は、気が気体であるが故に、何かに当たったという感覚がないので分かりにくいので、細心の注意力が必要である。針を捻転すると、何かに絡まっているという感じが一切なくて、きわめて滑らかな感じがする。大きく針を捻転すると、軽くパルスをかけられているような感覚がするだけで、痛みや響きはしない。
得気の後、数分間を経ると、気が活発に動き始めるので、気に先導されて血も動き始める。
得血の感覚は、血は液体であるので、重い、粘る、しびれる等の感覚がし始める。
やがて、得血の感覚が現れると、経絡に沿って現れる経絡現象を体感できるようになる。
得気が得られるかどうかの誤差は0.1ミリ以下のこともある。得気を上手に得るには、ある種の哲学と集中力、繊細さが必要である。
針灸の手技は、経絡に流れている気に働きかけて陰陽五行を整えることである。つまり、針灸の手技の核心は調気である。
針灸は、大雑把な技術ではなく、繊細な職人的な技術が必要である。得血や得物ではなく、得気が得られると、刺針に伴う痛みや、いやな響きがなく、むしろ、気持ちの良い感覚がする。そのような時、治療効果も格段に良くなる。

痩身(減肥)

1痩身の目標

ファッションモデルのようなスリムな体型にあこがれている人が多いかもしれないが、それは、現代社会の固有の文化的背景の中で形作られた体型のイメージにしかすぎない。時代や国によって、その理想的体型は大きく異なる。
中医美容では、現代社会の中で規格化された体型を標準にして治療することはしない。
各個人の体質や健康状態を考慮して、その人の個性に見合った痩身の目安を設定すべきである。
あえて減肥治療をする必要がないと思われる健康的な体型の人が、ファッションモデルのような体型を希望される場合には、それが技術的に可能であっても、無理に痩せさせるような治療になることもあり、健康上、薦められない場合もある。

 

2減肥治療の現状

具体的な治療法としては、痩せたい部分に刺鍼して、電気的刺激(エステの場合はもみほぐす)によって局所の水はけを良くして局所の部分痩せをさせる。このような方法が一般的ですが、この方法により脂肪が分解して本格的に痩せるということは、あまり期待できない。
運動をして筋肉を使うことで脂肪が消費されるのであって、刺鍼してパルスをかけたり、(エステで揉んだりしても)、脂肪を分解させて、本格的に痩せさせるということはむつかしいようである。
この方法で、見かけ上、一時的に水はけがよくなって痩せるが、治療をやめると、元の体型に戻ってしまうことが多い。

 

3肥満の原因に対する治療 

肥満の主な原因は、食べ過ぎ、飲み過ぎと運動不足とストレスにあると言える。
過食は、単純に習慣的な場合と、食べたり、飲んだりすることで、欲求不満やストレスをまぎらすためという場合がある。後者は、やけ食い、やけ酒の範疇になる。これに対しては本人の努力でストレスを克服することが第一であるが、そう簡単にできるものではない。
また、食事制限やアルコールの摂取を制限する必要があることは、本人も、よく自覚している筈であるが、それを実行することは、なかなかむつかしい。
鍼治療で、精神安定をはかり、生理的にも我慢しやすくすることで、本人が食べ過ぎ、飲み過ぎに対して自己抑制しやすいように援助することがカギである。

  1.  ストレスが原因で、肝気犯胃になると、やけ食い、やけ酒タイプになりやすい。肝火が発生して、それが胃に飛び火すると、胃火が起こり、胃火により消化力がアップするので、食べ出すと止まらなくなる。
    必要以上に食べ過ぎた分は、痰湿となって皮下に貯まって肥満になる。
    肝気犯胃による異常食欲の治療は、太衝、中脘、内庭を取穴し、瀉法を施す。
    さらに頭鍼療法の胃区(実質上は中焦の肝胆脾胃の治療ができる)に刺鍼して雀啄の瀉法を施す。このような治療で、精神が安定し、異常食欲も落ち着き、食養生がしやすくなる。
    頭皮鍼による治療を単独で行ってもよい。
  2. 痰湿による肥満の治療は、内関、豊隆、陰陵泉、水分、天枢、足三里、中極を取穴し瀉法を施す。この治療で、脾の水湿の運化作用がよくなり、皮下に貯まっている痰湿  が除かれて、治療直後に、全身的に引き締まった細身になる。
    肝気犯胃証と痰湿証の取穴を結合させた治療を継続すれば、肥満症の根本的治療も可能である。
  3.  さらに、減肥治療には、耳ツボ治療の、飢点、胃、肝、神門、興奮点を取穴する。
    興奮点は、筋肉運度による脂肪の消費量をアップさせる効果が期待できるので、減肥の運度療法の効率が良くなる。
    特に痩せたい部分(たとえば、お腹、ふくろはぎ)があれば、耳ツボの腹、腓腹筋点を追加取穴する。
    飲酒を制限したい人には、耳ツボの酔点を追加取穴する。
    耳ツボによる治療は、即効性があり、また、治療を毎日、継続しているのと同じことになるので治療効果が良い。
    耳ツボ治療を単独で行っても良い。
  4. 胃熱が大腸に作用すると、便が乾燥して便秘しやすくなる。また、顔面部は胃経が走行しているので、胃熱の作用で顔面に吹き出物ができり、歯茎の出血や口内炎、さらに、顎関節症を起こすこともある。
    これらの病気や症状の治療は、異常食欲の治療である肝気犯胃の取穴と同になる。