白川式手鍼治療

「白川式手鍼治療」

下後谿、上焦穴、三焦穴、下焦穴、下合谷の手鍼5穴で、ほぼ全身の運動器疾患の治療ができる。

下後谿

*下後谿の位置

・後谿の位置は、手を握ると、第5中手指節関節の尺側にできる横紋の先端であるという説は、厳密にいうと間違いである。横紋の直下は腱になっているので、痛くて刺鍼することはできない。

横紋の先端は目安であって、正確な位置は、横紋の先端の真横で、腱と第5中手指節関節との間にできる溝のなかにある穴である。

臨床上、刺鍼しやすくて臨床効果も後谿と同様である下後谿の位置は、横紋の先端よりも、手関節の方向に約2分くらい寄った位置にあり、第5中手指関節の尺側の骨がコーナーになっているところで、その骨のコーナーと腱の間にできる溝の中にある穴である。

*後谿と3つの経絡との関係

・後継は太陽小腸経であるので、太陽小腸経に対しては、もちろん、同名経の太陽膀胱経に対しても、また八脈交会穴の一つであることから督脈に対しても関係を有する。

・後谿は3つの経絡と関係しているので、同時に3つの経絡と関係する疾患を治療することができる。人体の後部の頭部、頚部、肩背部、腰部、臀部、上肢、下肢にわたる広範囲な治療ができる。

*後谿の効能と臨床応用

・後継は、小腸経の経気の宣通作用があり、小腸経の各種の邪気による詰まりを取り除いてくれる。

・小腸経の五兪穴の体重節痛を主る兪穴なので、小腸経のどの部位であっても、湿邪が停滞して重痛や重だるさがあるときは、この経絡上の去湿ができる。例えば、五十肩で肩貞や天宗付近に重痛や重だるさがあるときは、局所に刺鍼するよりも、去湿作用のある後谿に瀉法をして、運動鍼にすると著効が見られる。

なお、湿邪の程度が広範囲、あるいは重度の場合や慢性化している場合は、全身的な去湿作用がある陰陵泉の瀉法と組み合わせるとよい。

後谿は、小腸経、同名経である太陽膀胱経、督脈上の広範囲の疾患を治療することもできる。具体的には、後頚部の寝違え、ぎっくり腰、委中の付近の痛みや、パソコンのやり過ぎ等による後頚部や肩背部の小腸経、膀胱経、督脈と関係する広範囲の痛みや凝り、また、それが原因で引き起こされる指や上肢の痛みや痺れ等が治療範囲になる。

痛みがあるこれらの部位の局所に取穴するよりも、後谿の運動鍼の方は治療効果が高い。局所に顕著な圧痛点や硬結が残る場合は、後谿の取穴や得気の状態を手直しして再度運動鍼を行うとよい。さらに局所に著しい硬結や反応点があれば局所取穴を追加してもよい。

・また、膀胱経に頑固な湿邪が停滞していて重だるさが残る場合は、後谿と膀胱経の兪穴の束骨とを組み合わせて取穴するとより効果的である。

また、於血の痛みが残る場合は、井穴の至陰に15度角で1分刺入して得気を得た後、瀉法をして置鍼する。抜鍼時に出血するが、アルコール綿でよく拭くとよい。あるいは、活血化於のために郄穴の金門に瀉法をするとよい。

・風寒邪に侵襲されて起こる太陽膀胱経の頭項強痛に対しては、漢方薬では、葛根湯が使われるが、鍼治療では後谿の瀉法がよい。

*督脈の治療範囲と治療

後谿は、督脈が邪気に侵襲されて起こる脊柱の強ばりや痛み、そして、督脈上のすべての病変の治療ができる。

・後谿の治療範囲は、むち打ち、頸椎症、ストレートネック等による頚、肩部の疾患、また脊柱側弯症、猫背、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、すべり症、脊柱官狭窄症等の胸椎、腰椎等の背柱に関係するすべての疾患、それらが原因で上肢や下肢に及ぶ痛みや痺れ、運動制限等は、後谿の治療範囲になる。

・例えば、骨粗鬆症の治療では、後谿は表示法として刺鍼すると激痛を緩和できる。また、骨粗鬆症の弁証は腎虚証になるので、腎陰虚証であれば復溜、懸鐘、腎兪等への10分間くらいの補法が必要である。この配穴と手技で、急性期の激痛もほどほどの程度に治まる。骨粗鬆症の手技療法で、局所への圧力は危険なので控えるべきである。遠隔治療である程度の効果を出すことができる。

・脊柱官狭窄症は、後谿の運動鍼で痛みの症状が緩和される。さらに於血あり、下焦湿熱証もあるので、内関から間使への透刺、三陰交、陰陵泉、中極等を取穴する必要がある。局所取穴は、反応点に行ってもよい。於血や湿熱邪が去邪されても、腎虚が残る場合には、腎虚の治療をする必要がある。

*刺鍼方向、刺鍼の深さ

・刺鍼方向と深さ 刺鍼方向は、直刺にすると刺入後、2分くらいの深さで、骨に鍼尖がひっかかるので、刺入方向は、やや手掌の方向に向け、骨に引っ掛からないように刺入すべきである。

・刺入の深さは、8分くらい刺入したところで、ふんわりと止まる感じがする。その感じが得気の感覚である。気の防御作用によって、鍼の刺入の勢いが押し留められるのである。

・気体である気に触れても、ふんわり止まる感覚がするだけで手答えがないのが当然である。得気を得た瞬間に何か手ごたえがある筈だと思って、さらに深く刺入すると、経絡の気が流れている深さを突き抜けて、得気とは関係ない神経や、腱などをきっかけた得物の感覚になり、痛みを伴ったきつい響きになる。

・得気を得た後、数分間くらい置鍼すると、軽くて滑らかなだけの得気の感覚から、鍼尖に気血が集まってきて、魚でも喰らいついたようなきつくて粘る感じに変化する。そこで瀉法をすると、心地よい感覚を伴った効果的な瀉法の手技になる。

上焦穴

上焦穴は、手の第3指と第4指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、中手骨間に、1寸の深さで横刺する。

上焦穴は肩部の肩井、頚部の風池の附近の肩こりに即効性があり、また、10分間ほど、置鍼しておくと、上焦の背部全体あるいは僧帽筋全体の凝りが緩んでくる。

上焦穴は肩こり治療のキーポイントになる。

 三焦穴

三焦穴は、第2指と第3指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第2と第3中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて1寸5分から2寸ほど横刺する。

八風から1寸、横刺すると、頚部の天柱から大杼にかけての膀胱経と風池から下の頚部の胆経のラインの凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると背部の凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると、腰部と下肢の胃経、3陰経(腎経、肝経、脾経)の凝りや痛みが緩和する。

 下焦穴

下焦穴は、第4指と第5指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第4と第5中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて、1寸5分から2寸ほど横刺する。

下焦穴は、腰、臀部、下肢の膀胱経と胆経の広範囲な部位に対して治療効果がある。例えば、坐骨神経痛の治療では、坐骨神経に沿っての多数の刺鍼をするよりも、下焦穴、一穴に刺鍼した方が臨床効果が高い。

また、原因に関わりなく、股関節の痛みには効果的である。また、膀胱経、胆経のどの部位の痛みに対しても治療できる。

また、骨折や捻挫の後、気血の流れが悪くなり瘀血が形成され、局所的に正気不足に陥り、邪気に侵襲されやすくなり、膀胱経や胆経が痺症になることが多い。このような骨折、捻挫の後遺症と痺症の治療に、下焦穴は威力を発揮することが、しばしばある。

三焦穴と下焦穴の両穴に刺鍼すると、下肢の全経絡を治療することができる。

ぎっくり腰などの於血腰痛には、これまで一般的に使われてきた腰腿点を取穴してもよい。

 下合谷

下合谷は、第1指と第2指の中手骨が交わるところのすぐ前方にできる窪みで、合谷より3分ほど陽谿に寄った位置である。刺鍼方向は直刺、刺入の深さは約6~8分。

下合谷に刺入すると、胸鎖乳突筋の下方や肩井の前側から缺盆にかけての凝りや痛みが緩和する。

なお、別の治療法として、胸鎖乳突筋は人体の側面になるので、少陽経の治療範囲として捉えて、懸鐘で治療できる。また、肩井附近の凝りや痛みの治療は合谷でできる。また、缺盆や肺経のエリアの肩こりは尺沢が効果的である。

 

 

「解説と注意点」

手鍼は、全て運動鍼にするか、マッサージを併用した方が効果的である。

八邪の穴は手背の皮膚の表面から5ミリほど下方で、中手指節関節の前方の陥凹にある。指を自然に曲げた状態で、八邪穴の陥凹に正確に刺入することが第一のポイントになる。次は中手指節関節の骨に鍼尖を引っかけないように関節の溝を通し、さらに、中手骨間の溝にそって、上下左右に逸れないように横刺しなければいけない。

何かに引っかかっているような感じがしたら、無理に押し込むようなことはしないで、少し鍼を抜いて刺鍼転向した方がよい。するする抵抗なく刺入できるところに刺入すれば、ツボに無痛の状態で命中し効果もよい。

手鍼の刺鍼方向が正確であれば、目標とする治療効果が得られるが、方向が逸れると治療目標が外れることがある。しかし、目標以外の思わぬ治療効果がでることもある。

治療範囲や目標によって、5種類の手鍼穴の使い分けや組み合わせを工夫するとよい。例えば、三焦穴で頸部の治療をするのなら1寸の深さでよい。背部の治療は1寸5分の深さでよい。腰部や下肢の胃経、三陰経の治療をしたい場合は1寸5分から2寸の深さになる。

また、頚部や肩部の凝りや痛みに限定した治療をする場合は、三焦穴の1寸と上焦穴の2穴の組み合わせ、さらに、症状に応じて、下合谷、後谿を組み合わせて治療すると、効果的な肩こりの治療ができる。

手鍼は邪気で詰まった凝りや痛みを取る治療法なので、手技は瀉法になるが、手技には拘らず、適度な強さの平補平瀉法でもよい。また神経に触れて電撃様の強刺激になることがある。その場合は、不快な感じがしやすいが、即効性が出ることがある。

手鍼は簡単な治療法で広範囲で、しかも高い治療効果を出しやすい治療法であるが満点の治療法ではないので、他の治療法である耳針、頭皮鍼、体鍼の弁証取穴、局所取穴等を組み合わせて治療しても問題ない。さらに、運動鍼や手技療法を加えた方がよい。

手鍼は頚部、肩背部、腰部、臀部、下肢、上肢等のほぼ全身の運動器疾患を包括的に治療できる。

また、眼、鼻、耳等の感覚器や一部の臓腑にも副産物的に良好な治療効果が出ることがある。この領域での治療法は、まだ不確定なところが多く、これからの課題である。

 

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白川式頭皮鍼(大脳、脳幹、小脳、脊柱の治療)

「白川式頭皮鍼」

(大脳、脳幹、小脳、脊柱の治療)

この頭皮治療法は頭皮への鍼治療あるいは調気手技療法により、脳の病変に起因する病気、さらに身体の広範な一般的病気に対しても治療できる。

 

「頭皮治療法の治療線の位置とその効能」

A脳幹線

*脳幹線Ⅰ                       

*脳幹線Ⅰの位置は、頭部の百会より前側を陰、後側を陽に分けて、頭部の陰の側である百会から神庭までの督脈上の治療線であり、下焦、中焦、上焦に3等分される。

*心は君主の官であり、精神の舍るところであり、心の生理作用は、精神活動や全身に対する司令塔としての脳が有する機能に重ね合わせて捉えることができる。

脳幹の生命維持の最高中枢としての機能は、上中下焦の各臓腑を統括、指揮する君主の地位にある心の生理作用に相当する。

臓腑の治療は、脳幹線Ⅰと脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦で行い、精神面の治療は、大脳線Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで、運動面の治療は大脳線Ⅳ(上肢線、下肢線)と小脳線で行うことができる。

これは、大まかな区分であって、実際の治療では、各治療線が入りくんでいたり、相互に影響し合っていることを考慮して治療線を選ぶ必要がある。

*脳幹線Ⅰ、Ⅱによる治療は、脳幹の自律神経の最高中枢としての機能、さらに内臓、血圧、呼吸、循環器等の制御作用や体温調節、ホルモン分泌、睡眠等に対する広範な治療効果が期待される。

 

*脳幹線Ⅱ

*前額部髪際の上方5分の眉衝(督脈と頭の臨泣のほぼ中間)から下方に1寸の線―上焦

*前額部髪際の上方5分の頭の臨泣(瞳の直上であるが、督脈から3㎝~3,5㎝外方)から下方に1寸の線―中焦

*前額部髪際の上方5分の頭維から数ミリ督脈よりの位置から、下方に向かって溝状になっている長さ1寸の線―下焦

*脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦は、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦と、ほぼ同様の治療効果がある。治療効果を高めるために脳幹線1と脳幹線Ⅱを同時に使用することもできる。

脳幹線1は、急性病、慢性病のいずれにも対応できる。脳幹線Ⅱは急性期の治療に効果を発揮しやすい。脳幹線Ⅰ、Ⅱは、急性で重篤な疾患の場合、その効果を目に見える形で発揮しやすい。

また、脳幹線Ⅱは、臓腑の治療にとどまらず、臓腑病が経絡上に、反応として手足に痛みが出てきたような場合は、優れた治療効果を発揮しやすい。

例えば、左足の外膝眼の痛みや足三里付近の突っ張りが常にあって、しかも、胃痛が慢性的にあるような場合、運動器疾患の膝関節痛として捉えるよりも、臓腑弁証を優先して、大脳線Ⅳの下肢線よりも、右側の脳幹線Ⅱ中焦で治療した方が良い治療効果を出せる。

 

B大脳線

*大脳線Ⅰ―督脈上の神庭から髪際の約1寸下方にある小さな窪みがあるところまでの長さ約1寸5分の督脈上の線。

*この額にある窪みの経穴名を「閃光」と命名する。この閃光穴に針尖が届いて得気が得られた瞬間に、光りが放射線状に放たれる感じがすることがあるので閃光と命名した。

督脈上の人中、印堂、神庭、百会等は脳の働きや精神状態に作用し、それぞれの特徴があるが、閃光穴は清脳開竅あるいは精神状態の改善において、最高級の効果を発揮するのではないかと思われる。

*大脳線Ⅰの治療を始めると、先ず目に変化が現れ、明るく感じられるようになり視力がアップする。脳の前頭葉付近の活動にまるでスイッチが入ったような感じがしてくる。さらに脳全体がリラックスしクリアーな状態になってくる。

顔の表情が穏やかになり、垂れ下がっていた瞼が開いて目が大きく見えるようになる。顔全体の弛みがなくなり、美白になる。

*大脳線Ⅰの治療効果は、脳の覚醒、精神安定、記憶力や思考能力の向上、意欲の向上、大脳の疲労回復、不眠症、鬱病、認知症等の精神面の治療と、視力の向上や、顔面と胸の中心付近の鼻、咽喉、胸部の身体上の症状の治療、さらに、それらの部位の美容効果がある。

 

*大脳線Ⅱ―百会から神庭までの督脈に平行する5分外方の溝状の線。

督脈上の脳幹線1と、その数ミリ外方付近にできる溝状で圧痛がある反応線は、臓腑の治療ができる。

大脳線1に平行する5分外方の大脳線Ⅱの上焦、中焦、下焦は、臓腑の治療もできるが、それよりも各臓腑と関連する精神面の治療に適している。

*督脈の1寸5分外方で臓腑の名称がついている背部兪穴は臓腑の治療ができ、3寸外方に精神と関係する名称がついている経穴が連なっているが、それらの経穴は各臓腑と関係する精神面の治療に適している。

脳幹線Ⅰと大脳線Ⅱの関係は、背部の督脈の外方1寸5分にある兪穴と3寸外方にある精神と関係する名称がついている経穴との関係に似ている。

 

*大脳線Ⅲ

*大脳線Ⅰより約5分外方で、髪際から上方に向かう長さ5分の線(脳幹線Ⅱの上焦の上半分に相当する)と、大脳線Ⅱの上焦の下半分を合わせた長さ約1寸の線。

*大脳線Ⅲは、大脳線Ⅱ上焦の下半分と脳幹線Ⅱの上焦の上半分(髪際より上方部分)が重なる部分からなりたっているので、大脳線Ⅲ固有の治療線というものはない。

また大脳線Ⅲは督脈の外方約5分であるが、臨床上は、5分外方付近にできる溝状の反応線ということになる。

*大脳線Ⅲは、大脳線Ⅱの上焦と脳幹線Ⅱの上焦の治療線の連続線上にある。このことからもわかるように大脳線Ⅲは上焦にある心の生理作用と関係する精神安定、心理的安定、不眠、記憶力の向上、大脳の疲労回復、創造性の向上、意欲の向上、鬱病、認知症、顔面の表情の好転等に対する治療に効果を発揮する。

大脳線Ⅲ(Ⅰ寸)と脳幹線Ⅱの上焦の髪際より下半分(5分)を合わせて、約1寸5分透刺する治療をすると、心の生理作用である精神面と身体面の両面にわたる疾患に効果的な治療ができる。

*さらに、大脳線Ⅲは膀胱経でもあるので、晴明や天柱にも繋がっているので視力の向上、膀胱経の頚部の凝りや痛み等に対しても効果がある。

*大脳線Ⅰと大脳線Ⅲに刺鍼すると、大脳そのものの存在が意識されるようになることがある。そのような感覚が出たときは大脳の活動に良好な作用が及び著効が期待される。

*精神科疾患の治療には、大脳線Ⅰと大脳線Ⅲを同時に治療すると、期待した治療結果が現れることが多い。

また、肝気欝結でイライラしている、あるいは、鬱々として落ち込んでいるような場合は、さらに、脳幹線Ⅰ中焦(肝)や大脳線Ⅱの中焦(肝)を追加するとよい。

 

*大脳線Ⅳ

大脳線Ⅳの下肢線の位置は、前頂から頭維までの溝状になっている線を3等分して、前頂より3分の1の線である。

顔面線は前頂から頭維までの線で、頭維より3分の1の線である。

上肢線は顖会から頭維までの溝状の線で、その中間部分の3分のⅠの線である。

*大脳線Ⅳは、下肢線、上肢線、顔面線で、下肢、上肢、顔面の運動麻痺、感覚麻痺、痛み痺れの治療をすることができる。とくに脳梗塞による半身麻痺には著効がみられる。

大脳線Ⅳは、脳血管障害の脳梗塞等による半身麻痺の治療に著効があるが、通常の運動器疾患でも、部位や範囲に関わりなく、上肢、下肢を丸ごと治療できる。

*上肢、下肢、顔面の治療に関しては、ここで紹介している大脳線Ⅳの位置と異なる「頭鍼療法の国際標準化方案」の大脳の運動野と感覚野に位置する運動区、感覚区の治療区を参照してもよい。また朱氏頭皮鍼の治療帯を参照して治療してもよい。

*病歴の短いものは著効が出やすいが、病歴の長いものは、治療効果が低下する傾向があるので、頭皮鍼と体鍼とのコンビネーションによる治療でカバーするとよい。

*脳血管障害による半身麻痺の治療で、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線を使って治療を始めると、脳血管障害に伴う認知症がある場合、手足の治療効果が出る前に、ぼんやりとしていた眼に輝きがみられるようになり、話す内容もしっかりしてきて、認知症が消え去ることがある。

*脳梗塞で倒れて、急性期が過ぎて、半身麻痺状態での寝たきりになっている患者の頭の健側の大脳線Ⅳの上肢線、下肢線、顔面線の位置付近を見ると、その付近が少し陥没し高範囲に凹んでいることがある。また手で撫でると、さらに、そのような状態がよくわかる。

その広範囲な凹んだ部位を指で適度な圧をかけて、10分間くらい、撫でていると、言語障害も、徐々に話が通じる程度に回復し、手を貸してあげれば自分の足でトイレまで歩いて行けるようになるくらい急速に回復することがある。

鍼治療にこだわる必要がなく、手技療法でも、十分対応が可能である。

脳梗塞の場合、治療の開始時期は、発作直後の様態が安定すれば、治療の開始時期が早ければ早いほど治療効果が良い。この時期は、リハビリを開始する以前の段階であり、寝たきりの状態でもあるので、治療方法としては手技療法の方が適当である。

脳出血の場合は、様態が十分に安定したことを確認した後、、慎重に治療を開始した方が良い。脳出血の場合も、同様の治療効果が期待できる。

 

C小脳線

*小脳線は、大脳線Ⅱの上焦の上半分の線と重なっている。

*小脳線の治療をすると、平衡感覚の改善等が治療直後にみられることがある。

*小脳の機能である姿勢の維持、協調動作、運動の学習能力、筋の緊張の調節、大脳で思考したことをコピーして記憶し保存する記憶能力等の治療効果が期待できる。

*協調動作は腎の作強の官に相当するが、老化で腎虚証が進行すると協調動作が上手くゆかなくなったり動作がスローモーションになるが、これは小脳の老化現象によると考えられる。

老化に伴う下肢の頼りなさや、運動の学習能力の低下や、記憶の保存能力の低下等は、老化による腎虚証の進行に伴って顕著になるが、これらも小脳の老化現象と関係していると考えられる。

老化現象に伴うこのような小脳の機能低下の症状には、小脳線(瀉法)と脳幹線Ⅰ下焦(腎の補法)を組み合わせて治療するとよい。

これまで、認知症といえば、主に大脳の老化の問題が取り上げられてきたが、今後は、小脳の老化の問題にも注目し、その治療法の開発に力を注ぐべきである。

*小脳の治療に関しては、この小脳線の治療位置とは異なり、後頭部に位置する解剖学的小脳の位置にある頭鍼療法の国際標準化方案の平衡区を参照にすることができる。

 

D脊柱線

*脊柱線は、頭部の陽の側である百会から外後頭隆起までの線である。

人体の陽の側の督脈、膀胱経の病変の治療ができる。

*脊柱線を5等分し、上から5分の1は頚椎、その下の5分の1は胸椎上焦、その下の5分の1は胸椎中焦、その下の5分の1は腰椎、その下の5分の1は仙骨部になり、腰椎と仙骨を合わせて下焦になる。

*督脈上の病変の治療は督脈上の脊柱線で行い、膀胱経のⅠ行線、2行線は、病変部位の反対側の1分~5分外方で、相応する部位の反応線で治療する。

なお、背部の膀胱経は臓腑の反応が出やすいので、そのような場合は、臓腑弁証に基づいて相応する臓腑の治療線と組み合わせて治療する必要がある。

*百会より前側の陰(大脳線Ⅰ、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦)と百会より後側の陽(脊柱線の頸椎、上焦、中焦、下焦)のそれぞれをセットにして治療すると治療効果が高まることがある。

例えば、背中の肝兪付近に痛みがあり、肝気鬱結証による眼の症状や季肋部痛がある場合の治療は、脳幹線Ⅰと脳幹線Ⅱの中焦と脊柱線の胸椎(中焦)の外方2~3ミリ付近の反応線を組み合わせて治療すると臨床効果がよい。

腎虚腰痛で、腎虚証に伴う症状と腰の虚痛や頼りなさやふらつきがあれば、脊柱線の腰椎に瀉法をするのではなく、脳幹線Ⅰの下焦とともに、それぞれに、腎虚の程度に応じて3分から10分間の補法をするとよい。また置鍼する必要はない。

 

E少陽線

*少陽前線頭維から和膠までの溝状になっている斜めの線で、その中心付近の約3分の1の長さに相当する頷厭から懸釐までの線が少陽前線である。

片頭痛、顔面麻痺、三叉神経痛、顎関節症、口腔内疾患や顔面部の広範囲の前面と側面の患側の治療と美容に使用する。顔面の半分に対する美容上の効果(美白とリフトアップ効果、浮腫、ほうれい線、眼瞼下垂)が大きい。

少陽線による治療は病位の同側で治療する。

*少陽後線天衝から角孫までの溝状になっている線―耳鳴り、耳閉感、難聴、偏頭痛、のぼせ。同側で治療する。

 

F肩凝り線

肩凝り線は、百会から約45度斜め後方の絡却までの約1寸の線―風池、完骨附近の頚部の痛みや凝り、三焦経、胆経の肩こり、肩関節痛、眼病

頚部や肩のこりが広範囲であれば、肩凝り線に平行して強い反応線が出ていることがあるので、そこも追加治療した方がよい。

 

G股関節線

股関節線は、百会から約45度斜め前方の通天までの溝状になっている治療線―股関節痛や臀部の側面の痛み、鼠蹊部の痛み、坐骨神経痛によい。

「解説と注意点」

 

頭を陰陽に区分して、百会より前側の陰(大脳線Ⅰ、脳幹線Ⅰ)と百会より後側の陽(脊柱線)のすべての治療線に刺鍼すると、経絡的には、陰経を統括する任脈と陽経を統括する督脈の治療をするのとほぼ同様なことになる。

このことは、任脈と督脈の経絡上の特徴から、12経絡に作用し、全臓腑(上焦、中焦、下焦)あるいは全身に治療効果もたらすことができる。

小周天と似た効果があり、体感的にも、ほぼ共通した感覚がある。

実際の臓腑弁証に基づいた治療では、脊柱線にも治療した方が効果的であるが、大脳線Ⅰと脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦の方が治療のポイントになるので、脊柱の側に症状がなければ、脊柱線を省略しても構わない。

脳幹線Ⅰの上焦には心が含まれているので上焦はとりわけ重要である。上焦に刺鍼すると、上焦が温かくなり、すっきりした感じになる。また、他のどの治療線にもみられない感覚として、一瞬ではあるが、全身に、何かを感じることがある。これは心の君主の官つまり全身の司令塔としての役割と関係があるのかもしれない。

さらに、上焦には、肺が含まれているので、肺と皮毛との関係があることから、一瞬ではあるが、鳥肌が立つことがある。

また中焦に刺鍼すると、脾胃や肝胆の中焦全体が温かくなってくるとか、お腹がすっきりしてくる等の何らかの感覚を覚えることがある。

下焦に刺鍼すると、膀胱の存在が自覚されるとか、下焦全体が温かくなるとかの何らかの感覚を覚えることがある。

頭皮治療法では、百会より前面の陰の治療線の刺鍼方向あるいは手技の順序は、すべて頭頂から額の方向に向ける。百会より後面の陽の治療線の刺鍼方向あるいは手技の順序は頭頂から頚部に向ける。

刺鍼位置あるいは手技をする位置は、身体の病変部位の対側で治療する。少陽前線、少陽後線は同側で治療する。

例えば、乳房は2つあるので、いずれかの1つだけが病気になることもある。その場合は、乳房は上焦に位置するので、脳幹線1の督脈上にある上焦の部位より数ミリ外方(患側の反対側)に、やや深くて、ぼこぼこしているような溝状の圧痛を伴った反応線が出現することがある。そこが治療線となる。また脳幹線Ⅱの上焦(患側の反対側)に反応があれば、併用して治療するとよい。

また手技療法の場合は、治療線中の反応点に対して重点的に手技をすることになる。

正規の治療線のすぐ近くに、治療線のような溝があっても、反応がはっきりしない、あるいは、刺鍼した時、何かを引っかけて痛くて入りにくいような場合は、紛らわしい溝であって、正規の治療線でも、反応線でもない。

例えば、胃痛の治療で、任脈上の痛みであれば、督脈上の脳幹線1中焦を選ぶ。任脈の2寸外方の胃経に沿って痛みがあれば、脳幹線Ⅰの督脈上の中焦の位置より外方数ミリの反応線(患側の反対側)を見つけて治療するとよい。反応線と同時に中焦も治療してもよい。

すべての治療線は1ミリ~2ミリの狭い溝状になっている。鍼治療はその溝の底部に位置する狭い線から逸れないように注意深く横刺すべきである。上手に刺入できたときは、滑らかで抵抗感はなく、痛みもなく、するすると刺入できる。

鍼の刺入が溝の底の線から逸れると、痛みや締め付けられるような嫌な感覚がする。そのような感覚が出た場合は、溝から針先が逸れて何かを引っかけていることになる。

鍼の刺入角度は15度から20度で、頭皮と頭骨の間にある薄い筋肉層に刺入する。刺入角度が適当でなければ、頭皮を突き抜けたり、骨をひっかけたりすることになる。

そのような感覚が出た場合は、無理に鍼を押し込むようなことをしないで、少し鍼を抜いて刺鍼転向を何度でも行いながら、スムースに抵抗なく刺入できるところを探りながら進鍼するとよい。針先に抵抗感が出てきて、スムースに刺入しずらくなっても、鍼を捻転して滑らかな感じがあれば、力強く刺入しても問題ない。

どうしても、痛くて刺入できないような場合は、数分間、置鍼しておくと、鍼が馴染んできて刺入しやすくなることがある。

それでも上手くゆかない時は、抜鍼して正確な位置を再度確認し、やり直した方が良い。

正確な位置に刺鍼できていない場合は、治療線から逸れると痛いだけでなく治療効果も著しく低下する。

鍼のサイズは、直径0.25mm、長さ30mmが使いやすいが、状態によって、直径0.30あるいは0.22あるいは0.20に変えてもよい。長さは40mmまたは25mmでもかまわない。

調気手技療法では、指の先端部分か爪を使うことになるが、適当な道具(玉石、水牛の角等を加工したもの)があれば、その道具を使って溝状の治療線や反応点を治療しても良い。

頭皮鍼の手技は雀啄補瀉法が効果的である。この手技は、得気を取って、気の感覚を逃さないように、小刻みに比較的速い提挿を行う。

瀉法は、提の方にアクセントがあり、速く力強く引き上げる。挿の方は元の位置に戻すという動作なので比較的ゆっくり力を抜いて行う。補法は、反対の要領で行う。

瀉法は、得気を取った後、数分間置鍼していると、鍼の周りに気血が集中してきて、重たいとか締め付けられるような感じに変化してくる。気血が集まってから瀉法をすると、気血に対して大きく作用しやすくなるので瀉法の効果が高まる。

手技の時間は、実(邪気)の程度に応じて、30秒から2分間くらい行い、置鍼時間中に手技を数回行ってもよい。

また、置鍼時間は、通常、30分程度であるが、置鍼の作用は緩やかな疎通経絡、止痛作用であるので、そのような必要性が高い場合は、さらに数時間置鍼してもかまわない。

鍼の補法は、気血が不足しているので、置鍼していても、気血は集まってこない。それで置鍼する必要がないので、刺鍼後、すぐに手技を開始するとよい。虚(気血津液の不足)の程度に応じて3~10分間連続して気血が満ちて来るまで補法の手技を行うとよい。その後は瀉法のように疎通経絡の必要がないので、置鍼することなく、すみやかに抜鍼すればよい。

調気手技療法で行う頭皮への補瀉手技は平補平瀉法で行う。具体的な動作は、溝状の治療線に沿って上下に、あるいは左右に均等に揺するように動かす。

このような手技によって虚実の過不足が平均化され、バランスを回復するようになる。

平補平瀉法の手技は、良性の双方向性の調節作用、つまり、自己治癒能力を効果的に引き出してくれる手技である。

しかし、虚実のバランスが大きく崩れているときは、平補平瀉法の効力には限界もあるので、身体の経絡経穴を使って補瀉手技を併用した方が良い。

調気手技療法も、鍼治療と同様に得気を取って補瀉手技を行う。手技における得気は、治療線に沿って走行している経絡の中を流れている気に対して、最も効果的に作用しやすいような適度な圧力を加えることである。

このような適度の圧力による得気の感じ方は、痛みが多少あっても気持ち良い感じがして、何か効きそうという感じがするものである。補瀉手技は、得気を得た状態で、気を逃さないように行うとよい。

頭皮による治療だけでも、十分な治療効果を出せる場合が多いが、身体の経絡経穴を使う治療や耳ツボ治療、手鍼治療等と組み合わせて治療すると、さらに良い効果を発揮する。

頭皮による治療は、元々、脳の解剖学を基礎にして開発された治療法という経緯がある。そういう事情から、治療線の選定には、一定程度、現代医学の知識にしたがって行うことができる。また、弁証に基づいて治療線の選定をすることもできる。両面から総合的判断をして治療するとよい。

現時点では白川式頭皮鍼は、治療法の骨格ができた段階であり、開発途上の治療法である。

白川式頭皮鍼は、病気に関する新しい治療法の確立を目指すと同時に、さらに、人間の潜在的知的能力や身体的能力を開発し、限界を超えることを目指すことにある。

また老化の予防法や老化に伴う病気の治療法の確立を行うとともに、さらに、若返りのための治療法を目指すことにある。

80歳の老人であっても、老化現象で薄くなった髪が、見た目にも、はっきり蘇ってきたと感じられる程度に変化することもある。

また老化に伴って、著しく忘れっぽくなっていたのが、若かった頃に戻ったとまではいかないまでも、自分自身で、納得できる程度に記憶力が回復する。

老化と関係なく、記憶力のよくない人でも、かなりの程度よくなる。

また脳の状態がクリアーになって、頭の回転がレベルアップしたように感じるようになる。

また感情の極端な起伏がなくなり精神安定する。

また、身体の柔軟性や運動能力の向上、さらに身体的運動の学習能力が向上し、運動の練習効果が高まる。

治療の過程で、このようなことが、しばしばみられるが、どの程度、安定的な効果が得られるかは、今後の研究課題である。

頭皮治療法による美容のための治療では、顔面や身体の局所に対する治療はほとんど必要がない。頭皮治療法で弁証論治に基づいた本治法を行うので、全身的な健康を回復させると同時に、全身的な美容効果を生じさせることができる。

顔のくすみや、クマをとるために、あるいは、ほうれい線を取るためやリフトアップのために、顔面に刺鍼するとか、またウエストの肥満解消のために腹部に刺鍼してパルスをかける必要性はない。そのような表示法による治療効果は、1日か2日であり、すぐに元に戻ってしまう。

臓腑弁証に基づいて、全身的な去湿、活血化於の治療(脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦、大脳線1、または体鍼による間使、三陰交、太衝、陰陵泉、豊隆、風池)をすれば、湿邪による全身の弛みや浮腫、気滞、於血による皮膚のクスミやカサツキが取れて全身な健康と美容に良好な結果が出る。

例えば、慢性的に脾胃に気滞や湿邪が停滞して腹部が膨満してウエストのサイズが大きくなっていたとすると、治療直後に、5㎝くらいウエストが細くなり、さらに、ふくろはぎのあたりも2㎝くらい細くなることも、しばしばみられる。

痰湿や於血が全身から取り除かれるということは、顔面の美容に限定されることなく、全身の美容効果をもたらす。

頭皮治療を中心にして、弁証論治による治療をすれば、局所取穴の必要性がほとんどなくなり、健康の回復と同時に、顔面を含めて全身的美容効果が現れる。

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図2