白川式頭皮治療法の臨床応用

白川式頭皮治療法の臨床応用

                               

白川式頭皮治療法は、鍼治療あるいは手指による調気手技療法のいずれでも行うことができる。

頭皮治療法は、大脳、脳幹、小脳に作用させることができるので、脳の老化や脳に起因する病気を、また内臓、運動器、五感器等の一般的な病気に対しても、身体の司令塔である脳に作用させることで効果的な治療ができる。

頭皮治療法は、脳の機能をレベルアップさせることも期待できるので、病気の治療に限定されることなく、精神活動、内臓の活動、運動能力、感覚器等のさらなるレベルアップや若返り、また美容に対しても効果が期待できる。

「疾患別の治療法」

1,認知症 

2,大脳の疲労回復、記憶力、精神安定、集中力、創造性の向上

3,脳梗塞、脳出血等による後遺症の半身麻痺、老化による運動能力、感覚の低下、さらに頚部、肩、肩関節、肘、手関節、指、腰部、仙骨部、臀部、股関節、膝関節、足関節の治療

4,小脳の老化に伴う平衡感覚の低下、足腰のふらつきや頼りなさ、協調動作のスローモーション化、記憶装置の機能低下による記憶力の低下、運動の学習能力低下等の治療,また運動における平衡感覚の向上、スポーツや運動の練習での学習能力の向上

5,老人病の治療

6,老化に伴う頚部、背部の痛み、とりわけ腰腿部の虚痛や無力感

7,不眠症

8,鬱病、精神安定、意欲の向上

9,嗜眠、無気力、精神的落ち込み、眩暈、頭重、浮腫

10,冷えのぼせ、片頭痛

11,全身的冷え性、寒がり

12,生理痛

13,眼病(黄斑変性、中心性網膜症、飛蚊症、網膜剥離、サルコイドーシス、アトピー性白内障、緑内障、網膜色素変性)

14,狭心症、心筋梗塞

15,顔面麻痺

16,アレルギー性の疾患(花粉症、慢性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、化学物質過敏症等)

17,美容(表情の問題、顔面のクマ、くすみ、しみ、しわ、吹きでもの、頬の浮腫とたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂、足の浮腫み、腹部膨満、乳房の下垂、臀部の弛み、食欲のコントロール、減肥)

18,パソコン病、頚部の痛みや肩こり

19,頻尿、前立腺肥大、インポテンツ、腰部仙骨部の重痛

20,慢性腎不全

21,禿

22,甲状腺(バセドー氏病、橋本病)

23,腰痛(ぎっくり腰、腎虚腰痛、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、湿熱下注による重痛、脊柱管狭窄症、痺証、癌の骨への転移による腰痛)

24,五十肩、肩関節痛、肩凝り

25,手術の癒着による後遺症(乳癌、子宮癌等)

26,骨折や外傷の手術後のリハビリ段階での治療

27,酸欠等による脳障害

28,痰切、咳

29,全身的レベルの筋肉痛、運動麻痺、筋萎縮

30,慢性疲労症候群

31,ヘルペス

32,シェーグレン症候群

33,不妊症

34,爪の変形、乾燥肌

35,突発性難聴

36,多汗症

37,認知症の証型別治療

38,鬱病の病因病機と治療線と取穴

 

「頭皮治療法の手技」

鍼治療と調気手技療法では、治療手段が鍼によるか手指によるかの違いがあるが、基礎理論や四診合算による診断法や、頭皮の治療線と身体の経絡経穴に関しては共通している。

鍼治療、調気手技療法のいずれにおいても、経絡や頭皮の治療線に流れている気に対して得気を得て、その気に対する補瀉手技を通して調気する治療法ということでも共通している。

調気手技療法における得気は、経絡や治療線の中に流れている気に対して、程よく作用しやすいように、手指による適度の圧力を加えることである。その圧力が強過ぎて経絡に流れている気の深さを突き抜けるような圧力、また、弱過ぎて気に届かないような圧力でも効果が得られない。

補瀉手技は気に対して行うので、気を逃さないように行わなければならない。

鍼治療、調気手技療法の双方に使用される補瀉手技には、補瀉迎随法、捻転法、提挿法、呼吸補瀉法、平補平瀉法等があり、原理的には共通している。

具体的な手技では、鍼治療と手指による手技療法のそれぞれの特徴を生かすように工夫して行われる。

頭皮治療法における鍼治療では、頭皮の治療線に対しても、経絡経穴に対する手技と同様に、得気を得た後、虚実によって補瀉法を使い分けて治療する。

頭皮治療法における調気手技療法の手技は、平補平瀉法を基本にして行う。

耳ツボ治療も、補瀉法が難しいので、補瀉法は行われないが、よい治療効果が出る。

頭皮治療法も補瀉法をしなくても、平補平瀉法で治療効果が出る。

鍼や指の圧よる適当な刺激をすることで、身体の方から、双方向性の良性の調節作用が発揮されて治療効果が出るようになる。言い換えれば、鍼治療や手技療法には、自己治癒能力を上手く引き出すことができるということがある。

このような効果を引き出す適当な手技は平補平瀉法である。

調気手技療法は、経絡経穴に対しては効果的な補瀉法ができるが、頭皮の治療線に対する補瀉手技の難しさがあるので、平補平瀉法を基本にするとよい。

鍼治療も平補平瀉法でもよいが、弁証に基づいた補瀉法は、より高い治療効果が期待できるので補瀉法を採用するとよい。

なお頭皮治療法での鍼治療には、雀啄の補瀉法が適合している。

 

1,認知症

*大脳線1、大脳線Ⅲの治療線は、脳の精神活動に良好な作用をしやすく、認知症や鬱病に対しても良い治療効果を発揮することができるので、基本処方となる。

*陰虚タイプの認知症―基本処方の大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、太衝の瀉法、復溜、懸鐘の補法を追加するとよい。

*気虚証、腎陽虚証、腎精不足タイプの認知症―基本処方の大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、、天柱、太谿、懸鐘、足三里の補法を追加するとよい。

*現代の認知症は、例え、高齢者であっても、全て腎虚証というわけではなく、ストレスによる肝気鬱結で引き起こされる瘀血証や、食べ過ぎ、飲み過ぎ等による痰湿証等の実証タイプもある。腎虚証と於血や痰湿との虚実夾雑証が多い。

また若年性のアルツハイマーは、老化による腎虚証とは関係なく、主にストレスからくる肝気鬱結による実証タイプである。

*実証タイプの認知症―基本処方の大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線上焦、脳幹線中焦―瀉法、

内関から間使へ透刺、三陰交、豊隆、陰陵泉、風池―瀉法

*虚実夾雑タイプの認知症は、実証タイプに腎虚証タイプの処方を加えたものになる。

*脳梗塞等の脳血管障害に伴う認知症で、半身麻痺がみられる場合は、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線、顔面線―瀉法、大脳線Ⅰ、脳幹線中焦―瀉法による治療で、手足の半身麻痺の回復するのと同時に、認知症も治癒することが多い。下肢線、上肢線だけで認知症の治療ができることもある。

 

2,大脳の疲労回復、記憶力、精神安定、集中力、創造性の向上

*大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線1の上焦と中焦、 肩凝り、目の症状、頭痛等がある場合は、脊柱線の頚椎、肩凝線―瀉法を追加するとよい。

弁証取穴は、

・肝気上逆―百会、風池、内関から間使へ透刺、太衝から湧泉へ透刺―瀉法

・肝陽上亢―太衝、百会、風池―瀉法、復溜、懸鐘―補法、

・痰湿上蒙―豊隆、陰陵泉、頭維―瀉法、

・中気下陥―足三里、合谷、百会―補法

・腎性不足、腎気虚、腎陽墟―太谿、懸鐘、風池、百会―補法

*試験直前で長時間勉強をするときは、頭に置鍼したままで勉強をすると、精神安定し、記憶力もアップした状態で、脳の疲労感も出ないので、いくらでも詰め込みができる。試験前に治療すると、試験本番では、脳がクリアーな状態で、緊張してあがることがないので実力を発揮できる。

*頭皮針の治療を継続すると、精神安定し、集中力が高まり、記憶力、理解力、創造力、ひらめきがよくなる。さらに、肩こりと目の疲れが解消されるので、頭を使う仕事や精神的ストレスを受けやすい仕事をしている人には最適の治療法である。

 

3,脳梗塞、脳出血等による後遺症の半身麻痺、老化による運動能力、感覚の低下、さらに頚部、肩、肩関節、肘、手関節、指、腰部、仙骨部、臀部、股関節、膝関節、足関節の治療

*脳梗塞等の脳血管障害による後遺症の半身麻痺の治療は、病位が手足であっても、病気の原因は脳の病変にあるので、手足の局所に直接、刺鍼して治療するよりも、脳の病変に効果的に効かせる治療法の方が良い治療効果をもたらすことができる。

そのような効果的治療法は、いくつかあるが、この頭皮治療法が、日本の実情に即した治療法であり、また最も効果的な治療法の一つである。

*下肢の治療―前頂から頭維にかけて溝状になっている治療線で、前頂より約3分の1の下肢線、 顔面部の治療は前頂と頭維の間の治療線で、頭維より3分の1の顔面線、 上肢の治療―顋会から頭維の溝状になっている治療線で、その治療線の満中の3分の1の上肢線―瀉法、

*実証タイプの脳梗塞による半身麻痺の上肢、下肢の治療には、大脳線1、脳幹線1中焦―瀉法、さらに実証タイプの脳梗塞による半身麻痺、高血圧タイプの人の治療には脳幹線1下焦―瀉法。老化等による腎虚証がある場合には、脳幹線Ⅰ下焦の補法。

*さらに脳梗塞の後遺症による半身麻痺には、内関から間使へ透刺、風池、天柱、三陰交、豊隆を追加取穴するとよい。

*気虚於血タイプの脳梗塞には合谷、足三里―補法、三陰交―瀉法を追加するとよい。

*頚部、肩、また頚部の病変が原因で起こる指をはじめとする上肢の痛みやシビレの治療には、脊柱線の頚部、肩凝り線、大脳線Ⅳの上肢で治療する。

天柱や頚部の膀胱経のラインの治療は、患側の反対側の督脈上の脊柱線の外方2、3ミリの間にみられる縦に走っている反応線を追加して治療するとよい。

また、頚部の風池や少陽経のエリア、肩、肩関節の治療は、肩凝り線の数ミリ横に並行して出ている溝状の反応線を追加して治療する。

頚部や肩の凝りには、白川式手鍼の三焦、上焦、あるいは下後谿がよい。

また、経絡弁証で症状のある経絡を特定し、手指、手関節、肩関節であるか、部位にかかわりなく、すべての邪気による痛みやしびれや運動制限には、その経絡の井穴に刺鍼して瀉法を施して運動鍼にするとよい。抜鍼の後、井穴からは出血しやすいので血が止まるまで、アルコールにしたした綿花で、よく消毒をした方がよい。井穴はその経絡上のどの部位であるかにかかわらず、疎通経絡の効果は抜群に高い。

また胸鎖乳突筋の治療は、頭皮鍼や手鍼でも効果が出にくいことがある。その時は、懸鐘に刺鍼して運動鍼にすると確実に効果が出る。

*腰、仙骨部の於血による腰痛の治療は、脊柱線下焦―瀉法で治療する。

膀胱経の痛みの場合は、脊柱線下焦と、さらに患側の反対側で督脈より数ミリ外方で患部に相応する高さに出ている反応線に追加して治療するとよい。

*下焦湿熱による重だるい腰痛には、脊柱線の下焦に、さらに脳幹線Ⅰの中焦、下焦を追加するとよい。

*於血、湿熱のいずれのタイプの腰痛にも、後谿、委中の効果は高い。

また、慢性化している腰痛で、於血タイプには、間使、三陰交がよい。下焦湿熱タイプには、陰陵泉、中極を追加するとよい。

慢性的腰痛の根本的治療のためには、全身的レベルの於血症、あるいは湿熱証を治療する必要がある。

*志室より外方の腰痛は、腎膀胱経の腰痛ではなく、肝気鬱結に伴う肝経のルート上の少腹部の於血による反射痛であることが多い。少腹部痛の部位は中極の外方3寸の子宮穴から2寸5分上方の間で圧痛点が出るところである。そこに刺鍼すると、志室の外方の腰痛は即座に取れる。また生理痛にもよい。

*老化による腎虚証の足腰の無力感やふらつきを伴った腰痛には、脳幹線Ⅰ下焦、脊柱線下焦は補法にする。また弁証に基づいて、太谿あるいは復溜、懸鐘、腎兪を取穴し、補法を施すとよい。

*股関節の治療は、百会から45度角前方の通天までの溝状の反応が出ている股関節線で治療する。

支溝、陽陵泉、環跳を追加取穴するとよい。あるいは、白川式手鍼の下焦がよい。

*ここで紹介した上肢線や下肢線の位置とは異なるが、頭皮鍼の国際標準化方案で、解剖学上の大脳の運動野、感覚野の位置に照応する運動区、感覚区で治療してもよい効果が出るので参考にするとよい。

*頚部、背部、腰仙部の督脈と膀胱経、小腸経の痛みやしびれ、運動制限に対しては、白川式手鍼の下後谿に刺鍼して運動鍼がよい。運動しているうちに、脊柱や背部の筋肉が驚くほど柔軟になる。

*上肢、下肢の痛みや、シビレは、通常、経絡病として、あるいは運動器疾患として治療されることが多いが、しばしば、臓腑の反応として、経絡上に痛みやシビレとして現れることもあるので、その場合は、臓腑弁証による取穴が必要である。

たとえば、膝の内側の痛みは肝気欝結で、外膝眼の痛みは胃の病で出現することがしばしばある。その場合は、下肢線の治療ではなく、患側の反対側の脳幹線Ⅱ中焦をで治療すると著効が出ることがある。

肝経のエリア―である膝の内側の痛みには、膝痛Ⅱ号穴(肘頭より約1寸外下方にある骨が集まってできたような窪み)が特効穴である。

 

4,小脳の老化に伴う平衡感覚の低下、足腰のふらつきや頼りなさ、協調動作のスローモーション化、記憶装置の機能低下による記憶力の低下、運動の学習能力低下等の治療、また運動における平衡感覚の向上、スポーツや運動の練習での学習能力の向上

*老化による認知症の治療に際しては、大脳と小脳の老化現象を鑑別した方がよい。小脳の老化による諸症状の大半は、腎の生理作用である作強の官の低下に相当する。

*小脳の老化の治療は、小脳線―補法、脳幹線下焦―補法

国際標準化方案の小脳に位置する平衡区で治療してもよい。

老人の治療では/風池、天柱と太谿あるいは復溜、懸鐘の補法を追加するとよい。

小脳の老化の治療ではなく、小脳の運動能力やその学習能力の向上には、小脳線、脊柱線の相当部位―瀉法、手鍼の下後谿―瀉法を追加してもよい。

 

5,老人病の治療

*脳幹の機能は、中医学の臓腑の生理作用に、ほぼ相応している。

脳幹を治療する脳幹線を上焦、中焦、下焦に3区分して、臓腑弁証に基づいて、上中下焦を選んで補瀉法を施すと、すべての臓腑病の治療に対応できる。

*老化が原因の病であっても、年だから仕方がないと思われがちであるが、老化の進行を食い止め若返らせることも一定程度可能である。

包括的な老化や若返りの治療は、脳幹線Ⅰ、Ⅱの下焦、、小脳線―補法、大脳線Ⅰ―瀉法を基本にして、さらに弁証に基づいて必要な治療線を追加してゆけばよい。

*老化に伴う耳鳴り難聴には、天衝から角孫の少陽後線―瀉法、脳幹線Ⅰの下焦―補法、

翳風、聴宮、外関、丘墟―瀉法、復溜―補法を追加取穴するとよい。

*老化が原因とされる眼病は、陰虚湿熱証が大半を占める。

脊柱線の中焦の数ミリ外方の両側で肝兪穴に相当する部位の反応線、大脳線Ⅰ、Ⅲ、脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦―瀉法、脳幹線Ⅰの下焦―補法

攅竹から睛明、紫竹空から太陽へ透刺―手技はしない、風池、天柱、光明、太衝―瀉法、三陰交あるいは復溜―補法

*耳、眼の治療線は、頭皮鍼の国際基準の位置を参考にしてもよい。

*老化に伴う頻尿、夜間の回数の増加、小便の失禁、また大便の失禁は、腎陽虚あるいは脾腎陽虚証―脳幹線1、Ⅱ下焦、脳幹線Ⅰ中焦―補法

太谿、関元、腎兪、脾兪―補法、陰陵泉―平補平瀉、関元に灸を加える。

*高齢者でも、飲酒の量が多い人、あるいは、甘いものを食べ過ぎる人は、腎虚証は理論上はあることは間違いないが、病気の直接的な病因、病機は飲酒が原因で生じた湿熱邪が下焦に下注して尿道が詰まったことで、頻尿になったと考えられる。そのような場合は、脳幹線Ⅰ、Ⅱの下焦、脳幹線1中焦―瀉法

陰陵泉、中極―瀉法

 

6,老化に伴う頚部、背部の痛み、とりわけ腰腿部の虚痛や無力感

*相応する脊柱線の治療線―先瀉後補法、脳幹線1下焦―補法

白川式手鍼の下後谿―平補平瀉、太谿(陽虚)あるいは復溜(陰虚)、懸鐘(髄会、老化に伴う骨の変形がある場合)、飛陽(絡穴)―補法

さらに、陽虚証には、関元や命門に補法と灸を追加するとよい。

*老化にともなって、足腰が無力な感じがして頼りなく、ふらつきを伴う腎虚腰痛には、老化による腎の作強の官の作用の低下によるものとしてと捉える。小脳線―補法、脳幹線Ⅰ下焦―補法、両治療線をセットにして治療するとよい。

 

7,不眠症

*不眠症の共通の治療線―大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法

*心肝火旺―脳幹線Ⅰ上焦(心火)、脳幹線Ⅰ中焦(肝火)―瀉法

風池、内関、神門、太衝―瀉法を追加するとよい。

*心腎不交―脳幹線Ⅰ上焦(心火)―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦(腎陰)―補法

風池、神門―瀉法、復溜―補法を追加するとよい。

*心脾両虚―脳幹線Ⅰ上焦(心血)、脳幹線Ⅰ中焦(脾気)―補法

風池、神門、三陰交―補法を追加するとよい。

*頑固な不眠症は、通常の弁証取穴による治療だけでも治療効果はあるが、根治させることが難しい場合がある。

弁証に関わりなく、大脳線1、大脳線Ⅲを追加すると、いずれの証型に対しても、治療効果の即効性、持続性ともによく、根治するケースが多い。

 

8,鬱病、精神安定、意欲の向上

*肝気欝結(気鬱化火)、痰迷心竅(痰火擾心)―大脳線1、大脳線Ⅲ、 脳幹線Ⅰ上焦(心)、脳幹線Ⅰ中焦(肝、脾胃)、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

風池、内関、神門、豊隆、太衝、鳩尾から中脘へ透刺―瀉法を追加するとよい。

*体鍼の弁証取穴による鬱病の治療は、即効性もあり、治癒に向かっているように思える時もある。しかし、鍼治療の無力さを思い知らされるほど逆戻りすることもある。信頼性において不安定性があり、根治させる力に欠けているように思える。

*頭皮鍼による治療と体鍼のコンビネイションの治療は、10数年来の鬱病患者であっても、鬱病の核心部分である鬱的精神症状が、数回の治療で、ほぼ消失し、精神的安定を保てるようになることが、しばしばある。

*しかし問題も残る。鍼治療で不眠症がなくなるが、睡眠薬の服用を継続することが多いので、逆に、嗜眠傾向になって困ることになる。現在は、病院と連携して治療できる状態ではないので、薬の扱いについての問題が残ることが多いので、患者に、この点をしっかり理解しておいてもらうことが必要である。

 

9,嗜眠、無気力、精神的落ち込み、眩暈、頭重、浮腫

*痰湿中阻、痰湿上蒙、痰迷心竅、肝気犯脾―大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ上焦(心、肺)、脳幹線Ⅰ中焦(肝胆脾胃)、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

風池、陰陵泉、豊隆、内関から間使の透刺、太衝―瀉法を追加取穴するとよい。

*脾虚生湿、中気下陥―大脳線Ⅰ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―補法

百会、足三里、合谷の補法を追加するとよい。

*痰湿が関係している病気は、鍼治療をすると即効性もあり治療結果もよいが、根本的に治療することは、食事内容や食習慣の問題もあって難しい。

現代は痰湿を生み出す食べ物(甘いもの、魚、野菜、果物等の生もの、油っこいものの取り過ぎ、過度の飲酒)に偏っている食事をしている人が多い。また、夜食の習慣、食事時間の不規則、早飯食い等も、痰湿を生み出す。

痰湿による病気は、数限りがなく、しかも完治するのは難しい。根本的には、食習慣を改める以外に方法がない。食事指導を丁寧にすること自体が、最大の治療効果をもたらす。

 

10,冷えのぼせ、片頭痛

*肝気上逆になると、肝気の上昇速度が平常より速くなるので、気に連れられて血も速く上昇するようになって、足手が冷えて頭顔面部がのぼせてくる。

*脈状では、左の脈は、心(血脈)、肝(蔵血)、腎(腎陰)であるので、血や陰の状態を反映するので、肝気鬱結症では、陰血の流れが詰まって、脈なし状態になりやすい。右の脈は、肺(一身の気)、脾(気の生産)、腎(腎陽)であるので、気や陽の状態を反映する。肝火、胃火、心火等の陽が盛んになると、脈状が浮、滑、有力になる。

治療をして冷えのぼせがなくなると、左右の極端なアンバランスの脈状も、徐々にバランスを回復してくる。

*冷えのぼせは、老人によく見られる腎陽虚証による冷え性、寒がりとは、根本的に異なる。

腎陽虚証には、灸をする必要があり、その効果も高い。しかし冷えのぼせに、灸をすると、手足が温まることはなく、さらに、のぼせの症状が悪化し、深刻な医療被害(顔面麻痺、じんましん、アトピー性皮膚炎等)が出ることもある。

肝病には、灸は禁忌である。肝気鬱結で、温煦作用のある気が鬱結している状態に、お灸をすることは、爆薬の導火線に火をつけるに等しい。

*このタイプの冷えのぼせの治療は、百会、太衝に鍼の瀉法をして降気すると、上逆していた気血が引き下ろされて頭が涼しくなり足が温かくなってくる。

*肝気上逆―脳幹線1中焦(肝)、脳幹線Ⅱ中焦(肝)―瀉法

百会、風池、太衝から湧泉に透刺(透刺する時の太衝の位置は行間から約2寸上の小さな窪み、湧泉の瀉法には引火帰源の作用があり、頭部の熱を足の方に引き下ろす作用がある)―瀉法

*片頭痛には、脳幹線Ⅰ、Ⅱ中焦、少陽前線、肩凝り線―瀉法

さらに丘墟(原穴)あるいは陽輔(経火穴で木の子穴)の瀉法をするとよい。

 

11,全身的冷え性、寒がり

*若くて体力のある人であっても、突発的に精神的な強いストレスが加わると、ショック状態に陥り、肝気鬱結で気血の流れが全面的に止まって意識不明に陥り、顔面蒼白で全身的寒がりになることもある。

また持続的な強いストレスがあり、きつい肝気鬱結になると、陰盛タイプで気鬱化火になりにくい人は、慢性的に全身の気血の流れが詰まり、気血が流れにくくなって、全身的冷え性、寒がりになりやすい。

このような全身的冷え性は、肝気鬱結という実証の極みであり、腎陽虚証の全身的冷え性とは、虚実の違いがあり、根本的に異なるタイプの冷え性である。

*脈診では、肝気鬱結で熱化しないで、全身の気血の流れが詰まっているので、脈の方も沈み、詰まって渋る。肝気鬱結の程度が強いと、左右の脈状は、脈なし状態になる。陽虚証でも、陽気が弱くなるので、脈は沈みやすくなるが、脈なしになるほど沈むくことはあまりない。

肝気欝結の治療をすると、気血が流れ始め全身が徐々に温かくなってくる。また、脈も、緩んできて、脈状が多少感じられるくらいに変化してくる。

*老人の全身的冷え性、寒がりは老化による腎陽虚証の可能性が高い。しかし若い世代の人(たとえば、7×4の28歳の女性は、腎気が最も旺盛な女盛りであるので、数%の例外を除けば、一般的には腎虚証はない)の冷え性、寒がりは、ストレスによる実証タイプの肝気鬱結による。

*肝気欝結タイプの全身的冷え性寒がり―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

内関から間使への透刺、期門、太衝、三陰交―瀉法を追加するとよい。

*灸は陰陽理論に従って行われるべきである。灸には、冷えや寒さには熱、水には火ということで、温熱散寒、温通経絡、温補腎陽、湿邪には灸の火で去湿、引火帰源等の作用がある。

熱邪による実熱証、陰虚内熱による虚熱のいずれの熱証にも、お灸は止めた方が良い。お灸の適応症かどうかの判断をする際は、必ず、寒熱の弁証が必要である。

また、温煦作用のある気が鬱結している肝気鬱結がベースになっている肝病には、お灸は、深刻な医療被害に直結することがあるので禁忌である。

*腎陽虚証タイプの全身的冷え性、寒がり―脳幹線Ⅰ下焦―補法

太谿、関元、腎兪―補法、さらに関元、命門に灸を追加するとよい。

 

12,生理痛

*実証タイプの生理痛は、生理前や生理の前半に、気滞瘀血で血の流れが詰まって実痛になる。血の色は暗く、血の塊り等の於血の症状がある。また冷えのぼせ、片頭痛、イライラ感、肩こり、季肋部痛や少腹部痛を伴うことがある。

*肝気鬱結の実証タイプ―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

内関から間使への透刺、三陰交、太衝、少腹部の肝経上の圧痛点―瀉法

*寒凝肝脈の実証タイプ―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法、

三陰交、太衝、中極―瀉法と灸

冬場あるいは冷房の強いところで、ミニスカートで素足の状態でいると、寒邪に侵襲されて生理痛になることがある。

*生理痛には三陰交を取穴するとよいと覚えている人が多いが、三陰交は血に関係する経穴である。血は単独で動くことはできないので、三陰交にだけ刺鍼しても、瘀血を効果的に処理して生理痛をなくする効果は弱い。

血を動かすには、気が血を先導して動いているのだから、行気できる経穴を取穴する必要がある。肝の疏泄作用を活発にして行気できる経穴がよい。肝経と同名経で、肝経の子経である心包経(心)の内関あるいは間使を取穴するのが最適である。実際に、内関あるいは間使を取穴して瀉法をすると、一穴だけでも、劇症タイプの生理痛であっても痛みは取れる。なお内関と三陰交の組み合わせにすると最適の治療になる。

*虚証タイプの生理痛は、血虚証タイプの人が、生理に伴って、さらに気血が失われ、血虚証がさらに進行するので、生理の後半から生理後に、しくしくと痛む虚痛になる。同時に、全身的消耗感や倦怠感を伴う。

*虚証タイプ-脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―補法

三陰交、足三里―補法

 

13,眼病(黄斑変性、中心性網膜症、飛蚊症、網膜剥離、サルコイドーシス、アトピー性白内障、緑内障、網膜色素変性)

食糧難による栄養不足、重労働による気血の損傷等による虚証が多かった時代には、眼病でも、肝血虚証や肝腎陰虚証等の虚証タイプが多かった。

食べ過ぎ、飲み過ぎ、過剰なストレス、運動不足等による生活習慣病が一般化している現代においては、眼病の病名が異なっていても、ほとんどの眼病は、肝気鬱結がベースにある。肝胆湿熱証などの実証タイプが大半である。

しかし、実証タイプの眼病も、長期化したり、加齢による老化が加わってくると、虚実夾雑、さらには、肝腎陰虚に変化することがある。

*肝胆湿熱証―脳幹線Ⅰの中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲ、脊髄線中焦の数ミリ外側で溝状で圧痛のある線(肝兪の位置に相当する部位)―瀉法、 頭皮鍼の国際基準の視区の取穴位置を参照してもよい。

*風池、天柱(あるいは圧痛点)、攅竹から上睛明へ透刺、絲竹空から太陽へ透刺、内関から間使へ透刺、陰陵泉、光明、太衝―瀉法をするとよい。

晴明、球后に深く刺鍼してもよいが、内出血の可能性があるので要注意である。

難病あるいは、効果的な治療法がないといわれる眼病であっても、それは現代医学の話であって、医学の原理が異なる中医学の立場からは、それほど困難とは思えないこともあり、治療成績もよいので諦めずに試してみるとよい。

 

14,狭心症、心筋梗塞

*心血瘀阻―脳幹線Ⅱ上焦、脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

発作時は、脳幹線Ⅱ上焦に刺鍼し手技をして、5分くらい置鍼していると、発作が沈静化し始めるが、さらに脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅰ中焦を追加するとよい。

*内関から郄門への透刺、神門、膻中、三陰交、豊隆―瀉法

発作時は、頭皮鍼は、第4と第5胸椎棘突起間、第5と第6胸椎棘突起間の督脈の外方7分から、やや内方に向けて約1寸5分の深さまで刺入し強刺激する。

一時、発作が治まっても、再発する可能性があるので、病院へ行くように勧めた方が良い。

 

 

15,顔面麻痺

*現代の日本における顔面麻痺は、風邪によるものよりストレスが原因で起こる肝胆火旺証が多い。

*肝胆火旺―脳幹線Ⅰ中焦、大脳線1、脳幹線Ⅱ中焦、頷厭から懸釐の溝状の線がある少陽前線―瀉法

太衝、丘墟、風池、合谷、顔面の局所穴―瀉法を追加するとよい。

*風邪による顔面麻痺―脳幹線Ⅱ上焦、少陽前線―瀉法

合谷、顔面の局所取穴(初期の表証の時期は、刺鍼の深さは浅い方が良い。深く刺すと、邪気を深く追い込むことになる)

 

16,アレルギー性の疾患(花粉症、慢性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、化学物質過敏症等)

*アレルギー性の疾患は、湿熱証、肝気欝結証の実証と、肺気虚証の虚実夾雑証であることが共通している。

飲酒や甘いものを取り過ぎて脾胃湿熱証になると、脾胃の昇降の気機が失調して、脾の昇清作用と胃の降濁作用が低下する。

肺に栄養物質が昇って来なくなるので、結果的に、肺気虚になる。また胃の降濁作用が低下すると湿熱邪が肺に貯まるようになる。

ストレスで肝の疏泄作用が低下すると、脾胃の気機が一層悪化して、結果として、肺気虚証も進行する。

肺気虚で衛気不固になると、邪気からの防御作用が低下して、様々な邪気(アレルゲン)に侵襲されやすくなる。

邪気に侵襲されると、脾胃で造られて、肺、肝、皮下等に貯まっていた湿熱邪が体表に溢れ出てくる。花粉症は肝から眼へ、肺から鼻へ、アトピ―は皮下から皮膚へという具合に、湿熱邪が溢れ出てくる。

*湿熱証タイプの人は、潜在的にアレルギー体質ということになるので、アレルギー疾患をすでに発病している人は、もちろん、予防的な意味で、飲酒、過食、ストレス、運動不足、不眠の「養生5点セット」を心がける必要がある。

*アレルギー性の疾患の共通穴―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1―瀉法、脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補

曲池、内関、陰陵泉、三陰交、豊隆、太衝―瀉法、肺兪あるいは合谷に先瀉後補をするとよい。

疾患別に経穴の加減をするとよい。アレルギー性の喘息には天突を加える。

 

17,美容(表情の問題、顔面のクマ、くすみ、しみ、しわ、吹きでもの、頬の浮腫とたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂、足の浮腫み、腹部膨満、乳房の下垂、臀部の弛み、食欲のコントロール、減肥)

*美容全般(顔面から全身まで)の共通の治療線―脳幹線1中焦、脳幹線1上焦、大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅱ中焦、頷厭から懸釐の少陽前線―瀉法

風池、天柱、内関から間使の透刺、太衝、三陰交、陰陵泉、豊隆、足三里、内庭―瀉法を追加するとよい。、

*この治療で、精神状態を好転させることができるので、美容の第一のポイントである表情をよくすることができる。

*眼瞼下垂等の様々な下垂症状は、これまで、中気下陥と弁証されてきた。しかし食欲が旺盛でパワフルな実証タイプの人でも、様々な下垂症状がみられる。

中気下陥でなくとも、過食、飲酒による痰湿中阻、湿困脾、さらにストレスによる肝気鬱結で、脾胃の昇降の気機が正常に働らかなくなり、脾の昇清作用が低下して、結果的に、中気下陥と似たような下垂傾向が現れる。さらに、胃の降濁作用も低下するので、痰湿が降りてこなくなり、痰湿が停滞して重く垂れ下がった感じにもなりやすい。

*痰湿中阻による下垂症状全般―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

陰陵泉、足三里、豊隆、中脘、中極、太衝、内関―瀉法

痰湿中阻や肝気欝結が改善されると、脾の昇清作用が回復して、眠気眼で、ぼんやりした表情がきりりとしてくる、、瞼が軽くなって大きく開き細目から大きな目に変わる、頬の弛みや浮腫が取れ顔面が引き締まってリフトアップされるので、ほうれい線も消える。

同時に、全身の下垂傾向と浮腫(乳房や臀部の弛み、腹部の肥満、下肢の浮腫)、さらに、低血圧による立ちくらみや寝起きの悪さ、頭重、嗜眠傾向、脱肛、子宮下垂等も改善される。

*顔面のクマや、皮膚のくすみは、ストレスが主な原因である肝気鬱結証による気滞瘀血で、於血の暗い色が皮膚に反映してできる。また血の循環が悪くなって、皮膚に栄養が届かないので皮膚がカサカサして潤いや艶がなくなる。いずれも、肝気欝結の治療がポイントになる。

大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、少陽前線―瀉法

内関から間使への透刺、三陰交、太衝、風池、天柱、合谷の瀉法を追加するとよい。

*吹きでものは生理前に出やすいが、生理前になると、血が下がるので、陰陽のバランスが崩れて頭顔面部が熱化しやすくなる。また、肝火が胃に移る、あるいは、熱化しやすい食物を過食て胃熱が発生し、それらの熱が顔面部の胃経に上ってくると、吹き出物が出やすくなる。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅰ、少陽前線―瀉法

中脘、内庭、内関、太衝―瀉法

*顔面の美容に対して、局所取穴をしてもかまわないが、顔面の美容の問題は、ほとんど全身性の問題と関連しているので、局所取穴の効果は極めて限定的である。

本治法の頭皮鍼や弁証取穴で、顔面や身体の美容の問題は、ほぼ改善されるが、シミ、しわの治療では、局所取穴を併用してもよい。

食欲のコントロールや減肥治療では、頭皮鍼と弁証配穴による治療は、本治法であり、即効性も高い。耳ツボを加えると持続性が高まる。

局所への刺鍼とパルスによる治療も一定の効果があるが、表示法的効果に終わることが多いので、その必要性はあまりない。

*食欲のコントロールや減肥―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法。

中脘、水分、内庭、足三里、豊隆、陰陵泉、太衝―瀉法をするとよい。

 

18,パソコン病、頚部の痛みや肩こり

パソコン等の労損で形成された於血による頚、肩、上背部の凝りや痛みに対する共通の治療線―百会から絡却の肩凝り線、脊柱線の頚椎とその数ミリ外方の健側の反応線、脊柱線の上焦とその数ミリ外方の健側の反応線―瀉法

白川式手鍼の上焦穴、三焦穴、下後谿、下合谷の中から選穴し運動鍼にするとよい。

ストレスからくる肝欝気滞瘀血の痛みや肝気上逆によるのぼせを伴った張痛、痰湿証や湿熱証による重痛―共通の治療線に脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法を追加するとよい。

*労損による瘀血タイプ―内関から間使へ透刺、風池、天柱、丘墟、外関、曲池、後谿―瀉法

*肝気鬱結、肝気上逆タイプ―内関から間使へ透刺、百会、風池、丘墟、太衝から湧泉へ透刺―瀉法、

*痰湿証、湿熱証タイプ―風池、陰陵泉、豊隆、後谿―瀉法

*中気下陥・気虚瘀血の虚証タイプ―脳幹線Ⅰ中焦―補法または先瀉後補

百会、足三里―補法、三陰交―瀉法

*肝陽上亢―脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法

風池、太衝、丘墟―瀉法、復溜―補法

痛みや硬結が残っている場合に、局所に取穴するか、耳ツボ、吸い玉、手技療法もよい。

 

19,頻尿、前立腺肥大、インポテンツ、腰部仙骨部の重痛

*これらの疾患は、従来は、腎陽虚証として弁証されてきたが、高齢者は、その可能性が高いが、それ以外の比較的若い世代では、90%以上は湿熱下注として弁証される。このように変化してきた理由は、現代人は、アルコールの摂取量が限度を超えている人が多いこと、あるいは、甘いもの、火を通さない生もの、油っこいものを取り過ぎる傾向があり、これらが中焦で湿邪、あるいは湿熱邪が大量に生み出され、それが下焦に下注し下焦で湿熱邪が詰まって、このような疾患を引き起こすことになる。

ストレスが加わると、症状をさらに悪化させることがある。

*湿熱下注―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦、脊柱線下焦―瀉法

陰陵泉、中極(やや下方に向けて1,5寸の深さまで刺入して尿道に響かせる。次膠、あるいは秩辺付近の反応点から内下方に向けて、2寸から2寸5分の深さまで刺入し、陰部神経を狙って尿道に響かせる―瀉法

即効性があり、また食養生と治療を継続して、湿熱邪が去邪されると完治する可能性もある。

*腎陽虚症―脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦―補法

太谿、関元、腎兪―補法、関元と命門に灸をするとよい。

 

20,慢性腎不全

*腎には、実証はないという考え方があり、腎病は、腎性不足、腎気虚証、腎陽虚証、腎陰虚等の虚証として弁証されてきた。腎に実証はないということの意味は、腎精は不足することで病になることがあるが、過剰になり過ぎて病になるということはないということである。

また、心のように心包という防衛隊で衛られているわけではないので邪気にやられることはないということではない。

臨床上は、腎も、邪気に犯されて発病することがしばしばあるので、一面的解釈をしないように注意すべきである。

現代では、腎虚証タイプの腎臓病の患者はめずらしい。これは、病因から考えると、分かりやすい。現代は、食糧難で、栄養不足の時代ではないので、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス等の生活習慣病を引き起こすような原因が、腎病においても主要な病因になっている。

腎病であっても虚証がメインではなく、中焦で作られた湿熱邪が腎膀胱に下注して引き起こされる湿熱下注が患者の大半である。

弁証をする際には、断片的な一般的理論の誤った適応に振り回されることなく、現代の時代の特徴を踏まえて、客観的で具体的な情報に基づいて四診合算による総合判断によって、どうしてこのような病気になったのかというストーリーを、つまり病因病機について明らかにした方がよい。

*人工透析をしている患者を治療対象に考えているわけではない。鍼治療をして、人工透析をする必要がなくなるというようなことは考えにくい。しかし、人工透析にともなう諸症状は、鍼治療で緩和される。

ここでの治療対象は人工透析を開始する以前の段階であり、慢性腎不全の患者の大半を占めている下焦湿熱証タイプの患者が対象である。この段階であれば、病の程度によるが、鍼治療の効果がよいので、人工透析に頼ることなく、鍼治療で、病状をコントロールすることは可能であり、治癒する可能性もあり得る。

腎虚証タイプの慢性腎不全は、予後の判定は難しい場合があるので、ケースバイケースで判断した方がよい。

*下焦湿熱証―脳幹線1下焦、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

陰陵泉、中極、次膠、足三里、中脘―瀉法にするとよい。腎経の経穴そのものは、経絡病の場合は除外して、直接的な瀉法をすることは腎の正気を損傷することを避けるために控えた方がよい。

*腎陽虚あるいは脾腎陽虚―脳幹線Ⅰの下焦と中焦、脳幹線Ⅱ下焦―補

太谿、関元、腎兪、足三里―補法と灸、陰陵泉の先瀉後補

 

21,禿

*禿の証型―老化に伴う腎精不足、消耗性の慢性病、体力の消耗等による気血不足は、虚証タイプの禿になる。

さらに抗がん剤等による特殊なケースの虚実夾雑の禿もある。

飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス、運動不足、パソコン等のやり過ぎによる頚肩部のつまり等、生活習慣病を引き起こすのと同じ原因である実証タイプの湿熱証、肝気鬱結症、瘀血症等による禿がある。高齢者を除けば、実証タイプの禿が大半を占める。

*腎精不足、気血不足等の虚証タイプ―脳幹線Ⅰの下焦と中焦―補法

太谿(気虚、陽虚、腎性不足)あるいは復溜(陰虚)、気血不足には三陰交、足三里―補法、さらに陰虚には百会、風池は瀉法、他の虚証タイプには、百会、風池は補法にする。

*飲酒や甘いものの取り過ぎと、持続的なストレスが原因で引き起こされる肝胆湿熱証では、頭部が熱くなり、しかも多汗になるので、まるで、お湯で毛根が蒸されるような状態になり髪が抜けてゆく。

肝胆湿熱証の禿げやすい部位は、肝経のルート上にある百会の位置する頭頂部、胆経と胃経の交会穴である頭維の付近。

なお肝胆湿熱証だけでなく、脾胃湿熱証も同時にあるのが普通であるが、そのような場合は、頭維の付近から前額部全体にかけて禿げ上がる。

肝胆湿熱証の禿―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1―瀉法

百会、頭維、風池、陰陵泉、太衝、足臨泣、内庭―瀉法にするとよい。

*ストレスによる肝気鬱結になると、於血が形成されて気血の流れが詰まって毛根に栄養を補給できなくなるので脱毛する。さらに、労逸による頚、肩部に瘀血があれば症状を悪化させる。

肝気鬱結になると、とりわけ胆経に沿って於血による円形性脱毛症ができやすくなる。さらに持続的な強いストレスによる慢性的肝気鬱結証では、円形性脱毛症の範囲を超えて、肝胆の経絡のルートである百会のある頭頂部や胆経の走行線上から禿の範囲が拡大して全面的に禿げることもある。

肝気鬱結による於血証タイプの禿―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法、

禿ている局所に梅花鍼か散鍼をしてもよい、百会、四神聡、風池、内関から間使へ透刺、三陰交、太衝、丘墟―瀉法

 

22,甲状腺(バセドー氏病、橋本病)

*バセドー氏病の初期は、激しい肝火上炎があり、その熱邪によって大量の発汗が起こり、それによる気随津液で、急速に気陰両虚が進行する。

この病は、一見すると、実証の症状だけが目に入ってくる。また機能亢進というイメージが焼き付いているので、なおさら、そう見える。

しかし、機能亢進すればするほど、その分、虚の程度も進行するのが、この病の特徴である。虚の側面を見落とさないようにして、しっかり気陰を補うことが治療のポイントになる。

バセドー氏病―脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ下焦―補法

百会、風池、内関から郄門への透刺、天突、太衝、甲状腺腫への局所取穴―瀉法、足三里、三陰交―補法

*バセドー氏病で、肝と密接な関係にある眼が球突出するのは、肝気上逆、あるいは肝火上炎で脳の内部が膨張し圧力が高まって眼球が突出すると考えられる。その予防あるいは初期症状の治療には、平肝潜陽の作用がある百会、風池、太衝、光明―瀉法、復溜―補法をするとよい。

バセドー氏病の後遺症としての眼球突出の治療は、平肝潜陽の作用のある経穴を使って脳内の圧を人為的に下げた状態にしておいて、眼球を手掌でしばらく圧迫する治療を繰り返すと、徐々に、元の位置に戻るようになってくる。

眼球突出の程度がひどいものは、眼窩内刺鍼をした方がよい。さらに、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、少陽前線、大脳線Ⅲ、風池、天柱、太衝―瀉法をした方がよい。

*橋本病の初期は気虚証であるが、病気が進行すると陽虚証になる。逆に、若い女性で、気虚証や陽虚証の特徴的な症状が揃っているような場合は、橋本病を疑ってみてもよい。気虚証の段階の橋本病は治療効果がよい。

気虚証―大脳線1―瀉法、脳幹線1の上焦と中焦―補法

天突―平補平瀉、 足三里、合谷、百会―補法

陽虚証―大脳線1―瀉法、脳幹線Ⅰの上焦、中焦、下焦―補法

天突―平補平瀉、太谿、足三里、関元、腎兪―補法、 関元、足三里に灸頭

鍼、さらに中脘、膻中、大椎、至陽、命門に温灸をするとよい。

 

23,腰痛(ぎっくり腰、腎虚腰痛、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、湿熱下注による重痛、脊柱管狭窄症、痺証、癌の骨への転移による腰痛)

*腰痛の共通の治療線―脊柱線下焦、(腰椎、あるいは仙骨)と、患部に相応する部位で、督脈上の脊柱線下焦の数ミリ外方にある健側の反応線―瀉法

*ぎっくり腰―脊柱線下焦―瀉法

手鍼(下後谿、あるいは下焦、三焦)、あるいは委中―瀉法、あるいは局所

の阻力鍼法

*腎虚腰痛―脳幹線Ⅰ下焦、脊柱線下焦―補法

陽虚―太谿、腎兪、関元に鍼の補法と灸、陰虚―腎兪、復溜―補法

*椎間板ヘルニア―脊柱線下焦―瀉法

手鍼(下後谿、あるいは下焦、三焦)、あるいは委中―瀉法、あるいは局所の華佗挟脊―瀉法

*骨粗鬆症の急性期―脊柱線下焦―瀉法、

手鍼(下後谿-瀉法)、脳幹線Ⅰ下焦―補法

陽虚タイプ―太谿、懸鐘、腎兪、 陰虚タイプ―復溜、懸鐘、腎兪―捻転の補法(各穴に5~10分間)

この治療で、急性期で、全く動けないくらいの状態であっても、治療後には、なんとかトイレに行けるようになる。髄会の懸鐘への5分間以上の補法が最も効果的である。

*湿熱下注による重痛―腰痛の訴えがあった場合、治療に取り掛かる前に、その症状が、痛いか、重いかを確認すべきである。痛ければ瘀血、重ければ湿邪の可能性が高いので治療法も異なってくる。

湿熱下注―脊柱線下焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

陰陵泉、束骨(体重節痛を主る兪穴)、中極、次膠、委中、手鍼(下後谿)―瀉法、 湿邪による重痛には、局所取穴の効果は薄いので省略してもよい。

*脊柱管狭窄症は、椎間板ヘルニアや骨の変形に伴う物理的狭窄と瘀血により、気血の流れが詰まりぎみであるところに、湿熱邪が下注してきて、さらに詰まりが悪化した状態である。

この病の特徴は、脊柱管内部で邪気による詰まりの程度が強いので、下肢の方への気血の流れが悪くなり、歩いて消費される栄養量に対して、供給量が追い付かなくなる。それで少し歩くと栄養不足に陥り歩けなくなってしまうのである。休憩すると、供給量が徐々に増加してくるので、また歩けるようになる。

このようなことなので、治療のポイントは、脊柱管内の湿熱邪や於血を効果的に取り除いて気血の流れを回復することである。

また、腎虚証による骨の変形等があれが、去邪を先行した治療の後に、腎虚証の治療をすることになる。

脊柱管狭窄症―脊柱線下焦、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法

内関から間使の透刺、束骨、陰陵泉、三陰交、中極、次膠、委中―瀉法、手鍼(下後谿-瀉法)

*痺証―風寒湿邪による腰痛―全身的に正気が衰えていれば、その虚に乗じて風寒湿邪に侵襲される可能性が大である。若い人であっても、産後や正気を損傷している状態で、無理をして風寒湿邪にさらされるようなことをすると、痺証になることがある。

しかし、虚証でなくとも、またスポーツ選手のような屈強な人であっても、痺症になることがある。

運動をして汗をかいたままの状態、つまり、汗腺が開いたままになっている状態で、汗で湿った下着のままで寒風吹きすさぶ外に立っていたら、風寒邪にやられて、痺症になる可能性がある。

例え、正気が充実していても、邪気に襲われるような条件があれば、痺症になることもある。運動をした後の養生が大切である。

また、骨折、捻挫、椎間板ヘル二ア、手術の痕などが治らずに残っている状態であれば、そこで、気血の流れが詰まっている。全身的虚証でなくても、局所のつまりが原因で正気不足になっているので、邪気に侵襲されて痺証になることがしばしばある。

*痺症による坐骨神経痛―脊柱線下焦、百会から通天への斜めの治療線である股関節、前頂から頭維までの溝状になっている斜めの線で、前頂よりの3分の1の部分の大脳線Ⅳの下肢線―瀉法

手鍼の(下焦)―瀉法、委中(四総穴)、崑崙(喘咳寒熱を主る経穴)、陽輔(経穴)―瀉法で寒邪を取る、 束骨(体重節痛を主る兪穴)、足の臨泣(兪穴)―瀉法で湿邪を取る。局所取穴に灸頭鍼をして寒湿邪を取る。

*癌の骨への転移による腰痛―脊柱線下焦―瀉法、脳幹線Ⅰの中焦と下焦―先瀉後補

手鍼(下後谿)、委中―瀉法、太谿あるいは復溜、懸鐘、足三里―補法、局所取穴は癌の転移の問題があるので禁忌。耳ツボは即効性と持続性があるのでよい。

 

 

24,五十肩、肩関節痛、肩凝り

*五十肩は風寒湿邪による痺症であり、天候に左右されやすいという特徴がある。肩関節痛はスポーツや仕事で痛めた通常の運動器疾患であり、五十肩とは病因が異なるので、その治療法も多少の違いがある。

*共通の治療線―百会から絡却までの肩凝り線、脊柱線頚椎の健側より数ミリ外方の反応線、健側の顋会から頭維までの線の真ん中の3分の1の大脳線Ⅳ上肢線―瀉法、

*大腸経には曲池、あるいは井穴の商陽、三焦経には外関、あるいは井穴の関衝、小腸経には手鍼(下後谿)、肺経には尺沢あるいは井穴の少商―瀉法

*同名経の足の経穴を取って、上の病である肩関節を治療することができる。

陽明大腸経の肩髃の痛み―陽明胃経の足三里の下1寸―瀉法

少陽三焦経の肩膠の痛み―少陽胆経の陽陵泉―瀉法

太陰肺経上の肩前の痛み―瘀血がある時は太陰経の三陰交、湿邪がある時は太陰経の陰陵泉―瀉法

*五十肩での寒湿邪には局所の灸頭鍼がよい。五十肩の初期で、病位が筋肉にあるときは、筋肉に沿って横刺する。時間がたって、肩関節内部の深部に痛みがあり、於血による夜間痛がみられるような場合は、肩髃、肩髎(腕を少し拳ると窪みができるところ)に、約45度角で、深さ1寸3分くらい刺入する。

*肩凝りの標示法は、ほとんど五十肩や肩関節痛の治療に準じたものになるが、肩凝りは、弁証論治による治療をしなければ、その場しのぎの治療になり、患者との信頼を失うことになる。

肩凝りのタイプとしては、パソコン等の労損で頚椎に何らかの損傷を伴っていることがあり、頚、肩だけの凝りではなく上肢に痛みやしびれが出やすい於血証タイプ、

ストレスで肝鬱気滞於血になって詰っているタイプ、あるいは肝気上逆になり、熱感を伴って膨張するような、あるいは張ってくる感じがするタイプ、

痰湿や外湿で重だるくなるタイプ、

さらに、気虚於血タイプ、肝陽上亢タイプ、心血悪阻タイプ等がある。

臨床上は、いくつかのタイプの複合である場合が多い。治療は、タイプに相応した治療をする必要がある。

*労損による於血証タイプの治療は、標示法でよいが、それ以外のタイプは、肩凝りの症状に目を奪われることなく、臓腑弁証に基づいた治療を優先した方が、結果的には良い効果が得られる。最後に局所的に残った痛みや凝りがあれば、局所取穴で簡単に取れることが多い。

 

 

25,手術の癒着による後遺症(乳癌、子宮癌等)

*上枝の手術の後遺症には、顋会から頭維までの線の満中の3分の1の大脳線

Ⅳ上肢―瀉法

下肢の手術の後遺症には、前頂から頭維の線で前頂よりの3分の1の大脳線Ⅳ

下肢―瀉法

*胸部の心、肺や乳房の手術による癒着で発生する瘀血による引きつりや、痛み、リンパの流れの滞りによる浮腫―脳幹線Ⅰ上焦、脳幹線Ⅱ上焦―瀉法

肺の手術には、尺沢、心の手術には内関、乳房の手術には足三里―瀉法、

*肝胆脾胃の手術の癒着による後遺症―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

肝―太衝、胆―陽陵泉、脾―三陰交あるいは陰陵泉、胃、大腸―足三里―瀉法、

*子宮、卵巣、前立腺、大腸の手術による於血―脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦(大腸には、脳幹線Ⅰ、Ⅱの中焦を加える)

子宮、卵巣―三陰交、太衝、 前立腺―三陰交、陰陵泉、 大腸―上巨虚―瀉法を加える。

*手術による癒着の後遺症は、全て瘀血として捉え、全身的観点から、間使、三陰交の瀉法で行気活血すると効果的である。

また手術部位の該当する経絡の井穴を取り、時には運動鍼にして疎通経絡をはかる。また、局所の圧痛点、反応点に刺鍼する

*また、手術の結果、癒着により、リンパの流れが詰まって起こる浮腫(乳癌や子宮癌の手術でよくみられる)は、もともとの原因である手術の癒着(病因論からすると人為的な外傷により形成された於血として捉える)による於血を取り除くと、同時に、脾が水湿の運化作用の中軸であるので、この作用を利用して去湿する。

また関係する経絡の五兪穴の体重節痛を主る各経絡の兪穴を取穴して去湿する。さらに、三焦の気能化水の作用を活発にして浮腫の治療をすることができる。

*乳癌のケースでは、乳房は上焦に位置し、また浮腫の部位が肺経の領域に重なっているので、肺の通調水道作用を活発にさせることで治療することできる。

乳房は脾と関連し、また乳頭は肝と関連し胃経の走行上にあるので、治療に際しては、これらのことも考慮した方がよい。

手術の経過、患者の感覚、さらに触診もして、水湿の流れの詰まりの原因になっている局所を特定して、そこに刺鍼するとよい。

*乳癌の手術後の浮腫の治療―尺沢、陰陵泉、豊隆、陽池、局所の圧痛点、反応点―瀉法の治療穴を於血の治療穴(内関から間使に透刺、三陰交、太衝)に追加取穴する。

*子宮癌の手術後の浮腫には、子宮が下焦にあることから、水湿の運化作用の中軸である脾に加え、腎膀胱の気化作用を活発にして去湿する。また生殖器は肝経のルート上にあるので、肝経の兪穴を使用することができる。

陰陵泉、中極、子宮穴、太衝、次髎局所取穴―瀉法を、於血の治療穴に追加する。

 

26,骨折や外傷の手術後のリハビリ段階での治療

*骨折部位は、長期間、固定するので、リハビリ段階になって動かそうとしても固まっているので痛くて動かすことができない。リハビリ単独で回復させるには長期間かかる。

これは病因論から言えば、労逸ということになり、つまり、長期間、動かさなったことで頑固な瘀血が形成されたと考える。強力な行気活血を行う必要があり、また、そうすることで、固まって痛くて動かすことができなかったのに、一気に動かせるようになる。

*骨折部位に相応する治療線を選ぶ。たとえば、手足の骨折部位には、そこに相応する大脳線Ⅳの上肢、下肢の治療線を取る。治療線のすぐ近くに反応が出ている線があれば、そこも追加するとよい。

*どの部位の骨折であっても瘀血を取るために、全身的観点から、間使、三陰交の瀉法で行気活血をした方がよい。また、骨折部位で該当する経絡の井穴を取穴して運動鍼にして疎通経絡するとよい。

*井穴への取穴は、爪を使うと、経絡の溝と井穴のアナを確認できる。その穴に20度角で薄い筋肉層に沿って約1分刺入すると、無痛で得気が取れる。その得気に対して捻転の瀉法を軽く施す。得気が取れていれば手技をしても、ほとんど痛みはない。

刺鍼した状態で運動鍼にする。さらに関節の運動やマッサージを加えてもよい。

井穴は抜鍼した際に出血するが、出血が止まるまで、アルコール綿でよく拭き取るとよい。

*鍼治療を取り入れたリハビリをすると、通常のリハビリ期間を3分の1以下に短縮できる。

数回の治療で、リハビリを省略することができるくらい早期に回復することもある。

*骨折部位や手術部位が、寒い日や雨降りには、神経痛様の痛みが出るになりやすいが、リハビリ段階で、鍼治療を取り入れると痺証になるのを予防できる。また、痺症になれば、鍼治療が最も効果的治療法である。

多くの場合、このような痺証は、手術の失敗による後遺症の痛みとして考えられることが多いが、厳密にいうと後遺症とは言えない、手術をした部位と同じ部位に、別の病気である風寒湿邪による痺証が発症したというのが正確な捉え方である。

*痺証は、全身的な虚証があり、邪正闘争に負けて発症すると考えられてきた。臨床上は、正気が充実している人であっても、外傷による骨折や捻挫、また手術による癒着等による於血があると、そこで、気血津液の流れが滞るので、結果的に、局所が正気不足に陥り、風寒湿邪に侵襲されやすくなり痺証になるケースがしばしば見かけられる。

外傷の治療や手術に際しては、あらかじめ、治療の一部に鍼治療を組み込んでおけば、於血を取り除けるので痺証の予防ができる。

さらに、気血の流れが、きわめて良好な状態になるので、術後の痛みの予防ができ、術後の回復も飛躍的に向上する。

27,酸欠等による脳障害

*労災事故や赤ちゃんの保育器の事故等によって、命は助かったけれど、酸欠による脳障害が残るということがある。このような脳障害には、頭皮鍼による治療が最適である。発症後の経過期間が相当、長くても効果が期待できる場合がある。

*酸欠による脳障害は、上肢、下肢の運動障害、精神障害、知能の障害、感覚器の障害、言語障害、内臓の障害という具合に、広範囲に及ぶこともあり、その程度も、軽度から重度まであるが、すべて治療対象になり得る。治療結果が、すべて良好ということはないが、障害の程度がかなり改善することが多い。

*上肢や下肢の運動障害―大脳線Ⅳ上肢、下肢、脊柱線頚椎、大脳線Ⅰ

関係する経絡の井穴に刺鍼して運動鍼にするとよい。

小脳の障害―小脳線、大脳線Ⅲ

脊柱の障害―脊柱線の相応する部位、大脳線Ⅰ

手鍼の下後谿―瀉法

解剖学上の大脳の運動野、感覚野、小脳の位置に刺鍼する「頭鍼療法の国際基準」の治療法を参考にしてもよい。

運動器の障害には、手鍼の下後谿、三焦、下焦、上焦を追加してもよい。

*精神障害、知能の障害―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ、大脳線Ⅱ(上焦、中焦、下焦)大脳線Ⅱの上焦、中焦、下焦は障害に相応する治療線―瀉法、例えば、精神的イラつき、怒りやすい―大脳線Ⅱ中焦、また怖がり―大脳線Ⅱ下焦、

*眼の障害―大脳線1、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲ、肩凝り線、脊柱線中焦の数ミリ外方(肝兪の位置に相当する位置)―瀉法

国際基準の視区を参照してもよい。

太衝、光明、風池、天柱、攅竹から上睛明、絲竹空から太陽へ透刺を追加するとよい。

*耳の障害―天衝から角孫の少陽後線、脳幹線Ⅰ中焦、―瀉法

国際基準の治療線を参考にしてもよい。

翳風、外関、丘墟―瀉法を追加するとよい。

もし、腎虚証があれば、脳幹線Ⅰ下焦―補法、太谿(気虚、陽虚、腎性不足)あるいは復溜(陰虚)―補法を追加するとよい。

*言語障害―大脳線1、脳幹線Ⅰ上焦、大脳線Ⅳ顔面(構音障害)―瀉法、

国際基準の言語区(失語症)を参考にしてもよい。

廉泉、通里―瀉法をするとよい。

*内臓の障害―脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦、 脳幹線Ⅱ上焦、中焦、下焦、大脳線1―瀉法から臓腑弁証に基づいて相応する治療線を選ぶ。

*脳障害の共通穴として内関から間使へ透刺、三陰交、風池、天柱、懸鐘―瀉法をするとよい。

また腎虚証がある場合は、脳幹線Ⅰ下焦、小脳線―補法、太谿あるいは復溜、懸鐘―補法を追加取穴するとよい。

*脳血管障害、脳腫瘍、外傷、細菌の毒素、薬害等による脳障害にも、この治療法は参考にできる。

 

28,痰切、咳

*痰が多すぎても、痰が詰まって出ないのも、痰が絡んで咳こむのも苦しいが、比較的シンプルな治療法で対処できる。

*痰湿阻肺―風邪を引いていなくても、脾胃で作られた痰湿が、肺に貯まり、止めどもなく痰が喉から出てくることがある。

このような痰の治療は、生痰の源は脾、貯痰の器は肺、痰が詰まっている部位は喉であることから、痰湿阻肺の治療線は、大脳線Ⅰ(喉)、脳幹線Ⅰ上焦(肺)、脳幹線1中焦(脾胃)―瀉法

天突、豊隆、尺沢―瀉法をするとよい。

*痰の色が黄色くて、ねばくなり、痰が切れない等、熱化して痰熱になっている場合は、栄穴の内庭、魚際を追加するとよい。

*風邪引きで、表証から裏証になって、痰が黄色く、ねばくなり、また喉の奥の気管支付近から、酷い咳や痰が出るような場合も、この治療法でよい。

*喘息発作時の治療法も、これでよい。

 

29,全身的レベルの筋肉痛、運動麻痺、筋萎縮

*線維筋痛症(筋肉痛)、多発性硬化症(筋麻痺)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(筋萎縮)

これらは、全て難病で、病気の原因も治療法も分かっていない。

このような病名を聞いた段階では逃げ出したくなるが、現代医学にとって難病であっても、医学体系の異なる中医学にとって難病であるかどうかは病名からは判断することはできない。双方にとって難病の場合もあるし、いずれかの一方において難病であって、もう一方にとっては適応症ということもある。

病名が難病であっても、一切、気にする必要はなく、中医学の原理に沿って適応症かどうかを冷静に判断して適応症であれば、たんたんと治療をすればよい。

*中医学の立場からすると、これらの筋肉の病は、病気の具体的な引き金になった原因や患者が置かれてきた状況から判断して、主な病因は強いストレスであると考えられる。

主訴は、症状が異なるが、いずれも全身的な筋の問題(筋の痛みあるいは筋の麻痺あるいは萎縮)と肝の関係、さらに肝と関係する症候群等から総合判定すると、弁証は肝気鬱結である。

個々の筋肉の問題ではなく、全身的レベルでの筋の問題ということになるので、「肝血により全身の筋は栄養される」という中医学の原理が、これらの筋の病を考える際のポイントになる。

強い肝気鬱結状態になると、肝の疏泄作用が低下して、肝に蓄えられている血の流れが全身的に詰まりやすくなる。

とりわけ、筋に対する血流が悪化すると、、瘀血による筋痛が全身的レベルで出たり、さらに詰まりの程度が強くなると、結果として筋に肝血が届かなくなり筋が栄養不足に陥り、体質やその時の発病の条件の違いによって、筋の麻痺、さらには、筋の萎縮という症状が出るようになったと考えられる。

これらの3種類の病気は、病因病機からみると、症状や程度も異なるが、同類の病であるので、異病同治で治療することができる。

*肝血虚証でも、全身レベルで血が不足して筋を養えなくなると、似かよった病気になる可能性があるが、強いストレスによる肝気鬱結が病の基礎になっている場合は、このような病になる。病因論から鑑別する必要がある。

*また、ALSは、筋の委縮という点に着目すると、「痿証」の範疇になるが、古典で取り上げられている痿証の病因は肺熱であるので、古典を標準にすると、痿証の範疇には当てはまらない。

*脳幹線Ⅰ中焦(肝)、脳幹線Ⅱ中焦(肝)、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法

さらに、症状によって適当な治療線(たとえば、大脳線Ⅳの上肢、下肢、脊柱線の頚椎、上中下焦)を追加するとよい。

*内関から間使へ透刺、三陰交、太衝、陽陵泉、風池―瀉法

症状の変化に応じて、取穴を臨機応変に変えてもよい。

 

30,慢性疲労症候群

*問診で、「いかがですか」との問いに、最初に「疲れる、あるいは疲れた」と答える患者が多い。

おそらく答えるときの表情からして、主訴は、全身的疲労倦怠感であると解釈できる。疲れるという曖昧な表現を、どのように医学的に解釈するべきか悩むところであるが、言葉の意味から素直に解釈すると、何かをしすぎてエネルギーを使い果たして消耗している状態であるといえる。虚実でいえば、虚の状態であるといえる。臨床上、果たして、この解釈で当たっているかどうかということが問題である。

*正気不足による慢性疲労症候群―気虚、血虚、津液不足―脳幹線Ⅰ上焦、中焦、下焦―補法

合谷、足三里、三陰交―補法

気血津液の何が、どの臓腑で不足しているかという臓腑弁証をして、上記の経穴に、臓腑の虚を補う適切な経穴をプラスしてゆけばよい。

*疲労感というものは、虚証の時だけ出るものではなく、肝気欝結による気滞、瘀血あるいは痰湿による詰まりで、気血の巡りが悪化しても、詰まって苦しいというのも疲労感として表現されることがある。

膨張感、痛い、痺れる、重い、熱ぽい、冷える等の邪気の性質を反映した感覚も、「疲れた」と表現されることがある。

さらに、これらの身体的症状や感覚があると、それに相応した精神症状(イライラ感、落ち込み、無気力、倦怠感、泣く、集中力がなくなる)も現れるので、それらも疲労感として自覚されるようになる。、

「疲れた」という表現は、上記したような様々な症状や感覚を、ひとまとめにしてイメージとして表現したものである。

実証タイプの疲労感の方が、虚証タイプのそれよりも、きつく耐えがたいものとして感じられることが多い。

*現代では、高齢者や慢性病で正気を損傷している人を除くと、大半の人は実証タイプの疲労感である。ストレスによる肝欝気滞瘀血や食べ過ぎによる痰湿、運動不足による瘀血等が疲労感を作り出す根本になっているので、患者自身が、それらの病因を取り除けるように適切なアドバイスをすることが、根本的な治療のカギになる。

*実証タイプの慢性疲労症候群―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法

内関から間使の透刺、三陰交、風池、太衝、豊隆(足三里)、陰陵泉―瀉法

 

31,ヘルペス

*ヘルペスは湿熱証であるが、肝胆の経絡上のエリアに出やすいので、肝胆湿熱証として弁証されることが多い。ヘルペスは体質的に湿熱証タイプの人が、何らかの原因で正気不足に陥ったときに、その虚をついて、それまで体内で潜在化していた湿熱邪(ヘルペス)が暴れ出して発病したと捉えることができる。

*治療は、先ず顕在化した湿熱邪を取り去ることに集中すべきであるが、その後、正気の回復をはかる治療をすべきである。

*ヘルペスの治療―脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ中焦、ヘルペスが出現している部位に相応する治療線―瀉法

陰陵泉、豊隆、足臨泣、中渚、内関、太衝―瀉法、局所の散鍼あるいは梅花鍼

*ヘルペスは、病院で治療ができて、表面上はきれいに治るが、後遺症として相当きつい神経痛が残ることがしばしばある。しかし、その予防法や治療法がない。

鍼で治療すると、治療効果もよく、何より神経痛が後遺症として残ることはないので、これこそ鍼治療の適応症である。後遺症の神経痛に対しても一定の治療効果がある。

 

32,シェーグレン症候群

*この病は難病ということになっているが、弁証は肝腎陰虚証である。

患者のほとんどは、女性であること、好発年齢は40歳代から50歳代であり、まさに、更年期の真っ最中に差しかかっている年齢の人が発症しやすい。女性にとって、この時期は、7×7の49歳で、腎精が衰え、天癸も急激に枯渇して月経もなくなる年齢を挟んだ更年期ということになる。。

肝腎の精血も虚衰してくる、この時期に、持続的な強いストレスを受けて、肝鬱化火になると、その火邪で肝腎陰虚になり、陰虚内熱、陰虚内燥が一層、盛んになり、津液不足が全身的に表面化してくる。

津液不足による具体的症状として、眼の乾燥やまぶしさ(肝陰虚の症状)、唾液が出なくなり口内が乾燥する。かすれ声になる(腎陰虚の症状)。さらに脳の髄液や心陰による心の潤いまでもなくなり、全身が、まるで魚の干物のようにひからびた状態になってくる。全身が干物というイメージに当てはまる症状は、すべて、この病の症状の可能性がある。

*この病は、更年期と重なって発症することが多いので、ほとんどが女性の患者である。更年期障害を広く解釈すれば、この病は、更年期症状の一部と解釈することができる。

この病の症状と言えるのか、更年期に良くみられる症状なのかの境界線を引くことは難しい。たとえば、この病には、更年期によく見られる精神症状が強く現れることが多いが、いずれの症状であるかの鑑別はむつかしい。

ところで、中医学によるこの病の治療においては、更年期障害との関連性はどうかについても、あまり深く考える必要がないということであり、病因、病機をしっかり把握して治療すればそれでよい。

*また、膠原病、とりわけ関節リュウマチを併発している人が多いようである。更年期の時期は、肝気鬱結によって気血の流れが詰まりやすくなるので、結果として、あちらこちらで、正気不足に陥りやすくなる。また老化への曲がり角に差し掛かっているので、全身的レベルの正気不足もあるという二重の正気不足があるので、その虚に乗じて風寒湿邪に侵襲されて、リュウマチのような痺症になりやすいと考えられる。

リュウマチそのものは、風寒湿邪の性質を反映した症状を呈するが、このような陰虚タイプのリュウマチは、寒湿邪の性質が現れている一般的リュウマチと異なる固有の症状を現すことが多い。

たとえば、陰虚による熱ぽっさや乾燥感を伴うことがある。

*シェーグレン症候群・肝腎陰虚証―大脳線1、大脳線Ⅲ、脳幹線Ⅰ中焦―瀉法、脳幹線Ⅰ下焦―補法、

リュ―マチには該当する部位に相応した大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法を追加する。

*肝腎陰虚―三陰交、復溜―補法(5分から10分間)

陰虚による陽亢や、乾燥や熱の症状には、栄穴の行間、内庭、魚際等を追加取穴するとよい。刺鍼後、数分間以内に、乾燥感がなくなり、唾液が出てくる、眼が潤ってくる等、この病の主症状は消失する。治療を継続すると、主症状は治癒する。

肝気上逆、気鬱化火―風池、内関、太衝から湧泉に透刺―瀉法

リュウマチ―曲池、陰陵泉―瀉法)、

 

33,不妊症

*不妊症は、人の成長、発育、生殖、老化を主る物質である天癸の働きと関係している。

肝腎の精血が充足していれば、天癸も充足するが、肝腎の精血が虚衰して、天癸が枯渇しているような状態では妊娠は難しい。

*女性は、14歳で「腎精が充実し、天癸が至る」、生殖機能を促進する物質である天癸が充満して受胎可能になり、21歳で成人になり、28歳で身体的ピークになり、その後、下降してゆく。35歳から老化によるやつれが出始め、42歳で老化が目立つようになり、49歳で腎精が空虚になり、閉経して老人となる。

35歳から腎精が衰えはじめ、天癸も虚衰しはじめるので、妊娠しにくい状態に徐々になりはじめ、42歳が妊娠できるほぼ限界になる。

*21歳で成人になり、28歳でピークを迎え、35歳からは老化し始めるということなので、出産に適した年齢は、腎精が盛んな21歳から35歳ということになる。

*40歳前後の不妊症は、腎精と天癸が虚衰し受胎しにくい状態になっているので、腎精と生殖機能を促進する物質である天癸を充実させて、あるいは若返らせて妊娠可能な状態にするということになる。

このようなことは、不可能なことのように思われるけれど、中医学では、まるで話にならないというわけではない。

*腎精は、たえず後天の気によって補われて充足することになっているので、腎精を直接補うだけでなく、後天の気の方からも補うことができる。

腎精の不足は、精血同源ということから、肝血を充足させることを通して腎精を補うことができる。さらに気血生化の源である脾胃を健やかにすることで、肝血を補うことができる。このような治療をすることで、腎精が充足し、天癸による生殖機能が促進されると、妊娠の可能性が高まる。

*しかし臨床上は、このような理論による治療だけでは、上手くゆくとはかぎらない。治療が成功するには、乗り越えなければならないハードルがいくつかある。そのハードルとは何か。

*現代は、ストレス社会の中で、多くの女性は程度の差はあるが肝気欝結を起こし衝任脈失調による生理痛や生理不順がある。

生理の状態が限度を超えて正常範囲内でなくなれば、腎精や天癸の虚衰の問題はなくても不妊症になる。

*ストレスで肝の疏泄作用が低下すると脾胃の気機が失調する。また食べ過ぎ、飲み過ぎによる痰湿中阻になって、脾胃の気血生化の源が正常に働かなくなっても、後天の気を順調に生産できなくなり、先天の気に悪影響を及ぼすことにもなる。

さらに中焦で生産された痰湿は、経絡の走行に従って全身至る所に運ばれる可能性があり、それが衝任脈にも及び、衝任脈失調になったり、おりものが多くなったりすることがある。

飲食不節による痰湿証は、肥満になるだけでなく、不妊症の原因にもなりかねない。

*40歳前後で不妊治療を希望している大半の人は、肝鬱気滞於血、痰湿等で気血津液の流れが詰まり、その悪影響で生殖機能も低下している可能性が高い。このような場合は、腎虚証による不妊症の可能性が理論上は十分にあるけれど、先ず、実証の面の治療を先行させた方がよい。

肝鬱気滞於血や痰湿証等の実証が治療で改善されると、気血津液の流れが、正常化するので、老化していると思われていた生殖器機能や勢いのなかった卵子も、元気を取り戻して、妊娠可能な状態になることがある。

*実証の問題が取り除かれても、腎精や天癸の虚衰による卵巣や卵子の老化の問題等で、妊娠できないのであれば虚証の治療に集中するべきである。

*また、35歳くらいまでの若い人の不妊症のうち、腎精や天癸の虚衰による不妊症の人は、先天的腎精不足や消耗性の慢性病患者に、ほぼ限定されるので、数%程度の比率になる。

若い人の大半の不妊症は、肝気欝結や痰湿証、衝任脈失調証等の実証タイプの治療をすることで妊娠する可能性が高い。実証タイプの不妊症は、詰まりが取れさえすれば問題がなくなるので、1回から5回くらいの短期間の治療で不妊症の治療に成功する可能性がある。

例えば、肝気鬱結を解く治療に的を絞ること、また、生理の周期を整える治療、生理痛の治療がポイントになることが多い。

また検査の結果で、卵管が詰まって不妊症になっているというようなことが判明すれば、その治療に的を絞って治療すればよい。

*全身的冷え性、寒がりは、一般的には、腎陽虚証と考えられるが、老人では、その可能性が高いが、若い世代では、本物の腎陽虚証の人は、数%程度にしかすぎない。

全身的冷え性、寒がりの人は、腎陽虚証ではなく、肝気欝結の程度が酷い人で、気血の流れが酷く詰まり、それで、全身的冷えや寒さを感じるのである。

*このような冷え性タイプの人の脈診は、ほとんど脈状が感じられないくらい沈、渋である。沈脈は、邪気である於血が裏に詰まっているので、正気は邪気の存在する裏に向うので脈も沈む。

渋脈は、於血で脈の拍動がわからなくなるくらい血流が詰まっていることを意味する。

*陽虚証でも、似たような脈状になることがあるが、陽虚証で、脈上がわからないくらい脈が沈んでいるときは、陽虚の極みであり、ご臨終直前の状態である。不妊治療をしようという意気込みのある人に、陽虚の極みの脈が出るというようなことは考えにくい。

*治療は、思い切った強い瀉法で、頑固な肝気欝結の治療をすると、気血が流れ始めて全身が温まってくる。お灸の必要はないし、お灸をすると、気鬱化火になり、酷いのぼせになって裏目になる可能性もある。

なお、脈状も、1回の治療では、それほど、はっきりした変化が見られないが、何回か治療を継続しているうちに、脈状が分かる程度に脈も変化してくる。

*なお、冷えのぼせタイプも、腎陽虚証とは関係がなく、肝気欝結をベースにした肝気上逆、肝火上炎等の実証タイプである。これらの実証タイプの人で、生理痛や生理不順等が正常の範囲を超えている人は、不妊症になりやすい。

*肝気鬱結、肝気上逆、気滞瘀血、痰湿等の実証タイプの治療―大脳線1、脳幹線1中焦、脳幹線1下焦、脳幹線Ⅱ下焦―瀉法

内関から間使へ透刺、太衝から湧泉に透刺、足三里、三陰交、風池―瀉法

*腎精不足、肝腎不足、天癸の衰弱等の虚証タイプの治療―脳幹線Ⅰ中焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線Ⅱ下焦―補法

内関から間使に透刺―瀉法、太谿あるいは復溜、三陰交、足三里―補法(補法の手技の時間は、捻転の補法で約3分から10分間、鍼尖の感覚が虚から実に変わるまで手技を継続すること、また置鍼の必要はない。)

虚実夾雑タイプは先瀉後補にする。

 

34,爪の変形、乾燥肌

*爪は肝との関係が深く、老化や慢性病による体力の衰えにより肝の陰血不足になると、爪は肝の陰、血の滋潤を受けることができなくなり、爪が乾燥したり、ひび割れたり、もろくなって欠けたり、様々な変形を起こすようになる。また、爪や皮膚の色が赤みや艶がなくなる。

*またストレスによる肝気欝結で気滞瘀血が形成されると、気血の流れが詰まって、爪を滋潤できなくなり、これまた、虚実の違いがあるが、似たような症状が出るようになる。さらに於血があるので爪の色や皮膚の色が、やや紫暗色になり艶もなくなる。

*爪の変形の原因には、これ以外にも、爪切りで深爪にすることが原因で巻き爪になる、ハイヒール等の合わない靴が原因で爪が変形することもある。

*日本の冬場の太平洋側の気候は乾燥しやすいので、燥邪による影響から爪のひび割れや変形、乾燥肌になりやすくなる。暖房による人工的乾燥で引き起こされる乾燥は、さらに症状を悪化させる。

燥邪にやられた場合は、爪だけでなく全身的に皮膚がカサカサする乾燥肌になったり、唇がひび割れたり、口渇もする。

燥邪による爪の変形や乾燥肌は冬場の乾燥シーズンに限定され、他の季節には起こらない。

*爪の変形や皮膚のカサツキは、肝気欝結による実証タイプのものが一般的であるが、高齢者や虚弱な人は、虚証タイプの陰虚、あるいは津液不足による内燥で、爪や皮膚が乾燥する。虚の程度がひどくなると、爪や皮膚にとどまらず、全身あらゆるところが、まるで魚の干物のように乾燥してくる。

*陰血不足の虚証タイプの爪、皮膚の治療―大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法

脳幹線Ⅰ下焦、脳幹線1中焦―補法、

三陰交、あるいは復溜―補法、太衝―平補平瀉

*肝気鬱結等の実証タイプの爪、皮膚の治療―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱの中焦―瀉法、大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法

内関から間使の透刺、太衝、三陰交―瀉法、 爪の治療には、大敦、変形している爪の指の井穴―瀉法あるいは刺絡を追加する。

*燥邪による爪の変形、乾燥、あるいは乾燥肌の治療―脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補、大脳線Ⅳ上肢、下肢―瀉法、脳幹線下焦―補法

列欠―瀉法、復溜―補法(捻転の補法3~10分間)、肺兪―先瀉後補

*アトピ―性皮膚炎で、冬場、燥邪にやられて皮膚が異常乾燥した場合は、病因病機が異なるので、根本原因である湿熱邪を取ることがポイントになる。(復溜の補法で津液を増やして燥邪を消滅させる治療法は、湿熱邪を増やすことになり症状を悪化させる可能性があるので適当でない。)

アトピ―性皮膚炎による乾燥の治療―曲池、陰陵泉、三陰交、太衝―瀉法、肺兪―先瀉後補

 

35,突発性難聴

*突発性難聴と言われているものの90%以上はストレスが原因である。その他に、大音響によるもの、風邪引きで中耳炎をこじらせたもの、外傷等がある。

難聴、耳鳴り、耳閉感等の共通する症状があれば、病因にかかわりなく、臨床上は、すべて突発性難聴ということになる。

*耳の症状以外にも、頚、肩のこり、片頭痛、のぼせ、めまい、イライラ感、時には落ち込む、不眠、時には眠気、胸苦しさ、心煩、動悸、季肋部痛、肩甲骨間部の痛み、胃腸症状、浮腫み、生理痛等、次から次へといろいろな症状を併発することがある。これらの随伴症状があるものは、ストレスが原因の突発性難聴の特徴である。

*ストレス性のものは、ストレスが軽減すれば症状も軽減する可能性があるので、精神状態やその他の症状が好転すれば、突発性難聴の症状も自然に軽減するか、一時的に消失することが多い。

しかし、客観的なストレスの原因が継続している場合やストレスを受けやすいタイプの人は治療した時は、すっきりすることがあるが、症状が繰り返しぶり返してくる可能性が大である。治療では、病気の根本的原因であるストレスそのものを除去することはできないからである。

そこで、ストレスへの対処法が大切な問題になってくる。あれこれのカウンセリングは時間の無駄になることが多いので、その患者にとって、ストレスに対する的確で実行可能な対処法を見出すことが大切である。

時には、出過ぎたことになるかもしれないが、ストレスの原因そのものの解決法を見出す話をすることが必要な場合もある。

たとえば、嫁姑の関係が最悪状態であるとき、鍼治療で突発性難聴の治療に成功すると思うか。また、お嫁さんと姑さんの双方が、突発性難聴の治療にあなたの治療院に通っていたらどうするか。

*ストレス以外の原因の突発性難聴は器質的なダメージを受けている可能性が高い。症状そのものは、ある程度、軽減することもあるが、根本的な治癒は難しい場合がある。

*老人性の突発性難聴というものはない。もし老人であっても、そうなった場合はストレスが原因でなったと考えればよい。このような場合は、腎虚証は潜在的にあることはまちがいないが、当面の治療は突発性難聴の治療に絞った方がよい。

老人性の難聴の原因は、老化に伴うものであり、腎虚証がもとにあって、徐々に進行して難聴や耳鳴りになるで、突発的に難聴になるものは腎虚証ではない。

*ストレス性の突発性難聴(弁証は肝胆火旺である。ストレスによる肝火が、表裏関係にある胆経にそって耳の周りを巡行している胆経に影響して発症した)

―脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、天衝から角孫(少陽後線)、大脳線1、肩凝り線―瀉法、

翳風、風池、百会、太衝、外関、丘墟

耳ツボ―内耳、神門、肝、胆、頚椎外側の反応点

*外傷、中耳炎、音響が原因の突発性難聴

頭皮鍼―少陽後線、大脳線1、脳幹線Ⅰ中焦、肩凝り線―瀉法、

耳ツボ―内耳、神門、胆、頚椎外側の反応線

体鍼―翳風、聴宮(得気だけで手技はしない)、外関、丘墟、風市―瀉法

*老人性の耳鳴り難聴(突発性難聴ではない)―弁証は腎精不足または腎陰虚

頭皮鍼―脳幹線下焦―補法、少陽後線、肩凝り線―瀉法

耳ツボ―内耳、腎

体鍼―聴宮(得気のみ)、外関―瀉法、風池(陰虚は瀉法、腎精不足は補法)、復溜(陰虚)あるいは太谿(腎精不足)

 

36,多汗症

多汗症は、いくつかのタイプがあり、それぞれ病因病機も異なる。

素体陽盛の人は、病気とは言えないが、暑がりで汗をかきやすい。このようなタイプは、他に特別な病的症状がなければ多汗症とまではいえない。

*湿熱証―とりわけ、脾胃湿熱証が基にあり、肝胆湿熱証が酷いタイプは、のぼせやすく、頭顔面部を中心に、熱感を伴った全身性の多汗症になりやすい。

健康な人は温度変化により、高温の時は発汗しやすく、低温の時は発汗しない。発汗によって体温の調節をしているのである。

しかし、湿熱証の人は、体内に湿熱邪がたまっているので、普通の人にとっては発汗するほどの高い温度でなくても、少し動いたりすると熱い汗が溢れ出てくる。また、昼夜を問わず発汗しやすい。

*湿熱邪を作り出す飲酒、野菜や魚の生もの、甘いもの、脂っこいもの、激辛を控えるべきである。またストレスでイライラするようなことがあると気鬱火化して多汗症を促進する。

*湿熱邪は、脾胃で作られるので、脾胃の治療を中心に行い、さらに熱化が促進されないように肝の治療を加えるとよい。また、湿熱邪で下焦が詰まって小便のトラブルがあれば、下焦の詰まりを取って湿熱邪を体外に排泄するとよい。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―瀉法。

陰陵泉、豊隆、中脘、中極、太衝―瀉法

*衛気不固(肺気虚)による自汗―全身性の気虚証であり、脾気虚が基にある。気の固摂作用が低下して汗腺の開閉ができなくなると、温度変化にかかわりなく汗が漏れ出るようになる。

自汗は、昼間、目が覚めている時にのみ起こる。

脳幹線1中焦、脳幹線Ⅱ上焦―補法

合谷、足三里―補法

*衛気不固の自汗と同じ症状を呈するが、病因病機が異なる別種類の自汗タイプがある。

お腹がすいて食べ過ぎる、また飲み過ぎる等による痰湿中阻、ストレスによる肝気横逆があると、脾胃の気機の働きが低下するので、脾の昇清作用が低下して肺に栄養が届かなくなる。

中焦は実証であるが、肺は結果的に虚証になる。肺気虚になると、衛気不固の自汗になり、随伴症状として、立ちくらみや、朝眠くて起きられない、疲れやすい、眼瞼下垂等の脾肺の気虚証による低血圧のような症状を伴うことがある。このタイプは、若い女性に見られる。

脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、

足三里、陰陵泉、太衝―瀉法

*多汗症と言えるかどうかわからないが、陰虚内熱による寝汗は、夜、眠っている時にのみ大量の汗をかくことがある。また暑い季節に、睡眠中に汗ばんでくるといようなものではなく、季節に関わりなく、睡眠中に大量の汗をかいて目が覚める。糖尿病の後期で、陰虚証進行している患者に良くみられる。

脳幹線Ⅰ下焦―補法

復溜―補法(10分間以上)

*多汗症の範疇にはならないが、大量の汗をかくものに「戦汗」がある。これは、外感病で、邪気と正気との激しい戦いのピークに、大量に発汗することをいう。これを境に、病情が快方に向かうケースと、深刻化するケースの岐路に立たされる。病情が悪化した場合は、高熱と発汗によって、気陰両虚になったと診断して、去邪するよりも補法に治療のポイントを移行させるべきである。

脳幹線Ⅰ上焦―先瀉後補、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅰ下焦―補法

合谷―先瀉後補、足三里、復溜あるいは三陰交―補法

 

37,認知症の証型別治療

認知症はアルツハイマー型と血管障害型や、若年性型と老人型等に分類される。このような分類法や各型の特徴等について参考にすることができる。

中医学的分類法や各証型の特徴、さらにその治療法については中医学の体系に沿って行うことになる。

認知症は全て老化現象による腎虚証であるという捉え方は実情にあっていない。生活習慣病の原因と同じく、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ストレス、運動不足等によって形成された痰湿、瘀血が主な病因である実証タイプの認知症もかなり一般化している。

40代、50代に発症する若年性型の認知症の大半は、腎虚証タイプではなく、実証タイプである。

長寿社会の現代では、80歳未満の高齢者で、腎虚証の諸症状があまり見られず、また生活習慣病になるような原因を多く抱えている場合は、実証タイプの認知症になる場合が多い。

現代では、高齢者の認知症の最も多いタイプは、高齢による腎虚証もあるが、実証タイプの要素も重なっている虚実夾雑タイプである。

*老化に伴う腎虚証型―理論上は、50歳前後から、全ての人が老人になり、腎虚証があると考えられるが、現代では、平均寿命が大幅に伸びたので、腎虚があっても、腎虚が主な病因である老人型の認知症になる年齢は、70歳代後半になってからその可能性が高まってくる。

*腎虚証型の認知症―腎精不足、腎気虚、腎陰虚、腎陽虚のちがいによって、治療法も異なる。

全ての腎虚証―脳幹線Ⅰ下焦―補法、 大脳線1、小脳線、大脳線Ⅲ-瀉法

腎気虚型、腎精不足型―太谿、懸鐘、腎兪、風池―補法、

腎陽虚型には上記の経穴に、関元の補法と灸を加える。

腎陰虚型―復溜、腎兪―補法、太衝、風池―瀉法

・痰湿、瘀血等の実証型の認知症―大脳線Ⅰ、大脳線Ⅲ―瀉法、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法、

内関から間使に透刺、風池、陰陵泉、豊隆、三陰交、太衝―瀉法

*痰湿証のみで、認知症になる可能性は少ない。しかし食べ過ぎ、飲み過ぎが原因で痰湿証になると、老若男女を問わず、痰湿証に伴う症状(いつもぼんやりして、眠そうで、気力がなくて、反応が鈍い等)が出るが。これは、一般的な痰湿証の症状であるが、高齢者が痰湿証になると、鑑別を間違えて認知症にされてしまうことがある。実際に認知症にされてしまった人もいる。

痰湿証の治療をすれば症状は好転し、認知症に間違われることはなくなる。

*脳血管障害型の認知症で脳梗塞の後遺症による半身麻痺がある場合は、実証型の治療に、大脳線Ⅳの下肢線、上肢線を加える。すると、手足の麻痺に対する治療効果も、はっきりと現れるが、それ以上に、認知症の症状の方が手足の症状よりも先に好転する。また、くも膜下出血に伴って現れた半身麻痺と認知症も、この治療によって良い治療効果が現れる。脳血管障害型の認知症は、1~3回くらいの治療で、手足の麻痺より先に治癒する場合が多い。

*すべてのタイプの認知症に対して、大脳線1、大脳線Ⅲ―瀉法が共通である。

若年性型あるいは、実証型のいずれのタイプの認知症であっても、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法は、痰湿、於血による詰まりを取るために必須である。

すべての老人型、あるいは腎虚証タイプの認知症には、脳幹線Ⅰ下焦―補法が老化に対応する必須の治療線であり、その治療効果は期待に添う結果を出してくれる。

虚実夾雑証には補瀉兼治をすることになる。

頭皮治療法とっては、認知症の治療は得意分野の一つである。

 

38,鬱病の病因病機と治療線と取穴

鬱病は、持続的な強いストレスがあり、さらにアルコール、甘いもの、生もの、油っこいもの等を過度に摂取する習慣があり、この二つの病因が重なると鬱病になる可能性が出てくる。

ストレスによって引き起こされた肝気鬱結による気鬱が肝の子である心に及び、鬱々とした精神状態がもたらされる。

また、飲食不節によって中焦で痰湿が生産されて、それが胃の経別を通じて心に及ぶと、湿の性質を反映して重くて沈んだ精神状態になる。

気鬱と痰湿が、心で結合すると、両方の性質が混ざり合って鬱病固有の精神症状が生まれる。

また肝気鬱結から気鬱化火になり、その火が肝の子である心に移行すると心火になり、その火が痰湿を結合すると痰火となり、躁状態になる。

火が燃え尽きると、躁状態から鬱状態に戻る。このようにして躁鬱を繰り返すことがある。

*治療は気鬱と痰湿を取り除く治療と精神安定のための治療がポイントになる。大脳線Ⅰ、大脳線Ⅱ上焦、大脳線Ⅱ中焦、大脳線Ⅲの上焦、脳幹線Ⅰ中焦、脳幹線Ⅱ中焦―瀉法 (過敏な人には、大脳線Ⅱ上焦、大脳線Ⅱ中焦、脳幹線Ⅱ中焦を省略してもよい)

百会、風池、神門、内関から間使への透刺、陰陵泉、豊隆、太衝、鳩尾から中

脘への透刺(あるいは鳩尾、上脘、中脘への3鍼)―瀉法、

*頭皮鍼による鬱病の治療は著効がみられることがあり、数回の治療で、長年の鬱状態や不眠症から脱却することもある。

頭皮治療法にとって、鬱病の治療は不眠症の治療と共に得意分野の一つである。

*鍼治療の結果、実質的に抗鬱剤や睡眠薬が不必要になっているにもかかわらず、薬をそのまま服用すると、薬が効きすぎて、異常な眠気に襲われる等の薬の副作用が出始めることがある。長年にわたって薬を飲むことが習慣化しているので、止めるのが怖いということや、リバウンドの心配もするので、この件が問題として残ることがあるので、担当医に症状が好転したことを告げ、薬の加減をしてもらった方が良い。

調気手技療法

「調気手技療法」             

       

調気手技療法は、弁証論治に基づいた手技療法である。この調気手技療法は、四診合算による主訴や体質に対する診断をし、弁証に基づいた補瀉手技をすることによって、陰陽五行のバランスを整え、心身の健康を回復させようとするものである。

1.あん摩指圧マッサージとの違い(治療か慰安か)

調気手技療法とあん摩指圧マッサージの違いは、手技療法という意味では同じであるが、医学レベルの治療か、慰安に近いものであるかということである。

具体的には、診断をして各患者の主訴や体質に合わせて、補瀉手技を行う治療法か、診断はほとんど行われず、主訴や体質の違いに関わりなく、手技の圧力の加減を聞く程度で、ほぼ一律に得意とする手技を行うかの違いである。

一般的あん摩指圧マッサージによる実際の治療においては、先ず、患者に、うつ向けに寝るように指示した後、すぐに背面の治療を上から下への順序で始めるのが普通である。

これは、問診、舌診、脈診、経絡診、腹診等による診断を省略しているので、病因、また、病気の性質である虚実、寒熱、また、どこの臓腑に、どの経絡に、どのような問題があるのかよく分からないままに治療することになる。

診断なき治療というものは、医学レベルの常識では考えられない。これは治療ではなく慰安である。

調気手技療法は診断に基づいた医学レベルの治療をするものである。

あん摩指圧マッサージ以外の各種の手技療法も、免許の有無の違いはあるが、診断をほとんどしないという意味では共通していて、手技内容もかなり似かよったものが多い。

また、リラクゼーション、リフレ、オイル、アロマ等の手技は、ほぼ撫でるだけであり、例外はあるが、専ら慰安を目的としたものが多い。

現状では、資格制度があるあん摩指圧マッサージよりも、リラクゼーションに類する店の方が一般化していて、なかには、風俗店との境が分からなくなったものまであり、むしろ、そちらの方が集客力も大きいように思われる。

エステは美容の範疇ではあるが、内容的には相当部分、一般的手技療法に似かよった内容である。

整骨院も、建前は治療ということになっているが、実質的には慰安目的のあん摩指圧マッサージと似かよった手技内容になっているところが多い。また、保険治療ということで、その範囲内での可能な治療法という制約にしばられて、本来的な柔道整復の固有の治療法が十分に発揮できていない。

さらに、鍼灸治療院は手技療法ではないが、傾向的にみると治療院という名称がついているが、治療というよりも実質的には慰安目的の鍼灸院が多い。

これらの業界では、いろいろな名称はついているが、大半は、本格的な医学レベルの治療院ではなく、慰安になっているのが現状である。

ストレス社会においては、治療効果は、ともかくとして、その時だけでも、気持ちよくてリラックスできれば良いという客も一定の割合でいる。

調気手技療法では、このようなリラクゼーションの要望に対しても、慰安で対応するのではなく、治療という立場で対応することになる。

弁証論治に基づいて、寧心安心させる治療をすれば、その場だけのリラクゼーション効果ではなく、さらに持続性のある本格的な医学レベルの治療ができる。

手技そのものも、治神というキーワードが理解できれば、最高レベルの気持ちのよい手技で、リラクゼーション効果をもたらすことができる。

ここでの問題は、客が慰安か治療かの選択をするのは自由であるが、現状では、慰安の選択しかできないことが問題である。客に治療というもう一つの選択肢を提供することが大切なのである。

おそらく、潜在的には、慰安を求める客よりも、信頼性のある医学レベルの手技療法を求めている患者の方が圧倒的に多いはずである。

さらに問題なことは、治療という言葉や名称ではなく、信頼性のある医学的レベルの治療が本当にできるかどうかである。

信頼するに値しない低レベルの治療があまりにも横行しすぎた結果、あん摩指圧マッサージ、鍼灸も含めて、国民から、ほとんど見放されたのではないかと思える。手技療法による治療そのものが崩壊の危機に立たされて、今や、慰安だけが残ってしまったというのが現状である。

調気手技療法の治療科目は、肩こり、腰痛、疲労回復、リラクゼーション等に限定されることなく、内科、精神科、外科、老人科、男性科、産婦人科、五感器科、美容等、ほぼ全科目になる。また従来の手技療法では考えられなかったような難病治療にも対応する。

 

 

 

2.調気手技療法の特徴

弁証に基づいた補瀉手技による治療を行うので、患者の主訴や症状、体質の違い、また病因も異なるので、一人、一人診断も異なり、その治療法も異なってくる。全員同じような治療をするということはありえない。

この補瀉手技は、陰陽五行理論によって成り立っているという意味では、鍼灸の補瀉手技と共通している。

鍼の各種の治療法である体鍼、頭皮鍼、眼鍼、手鍼、耳鍼、特効穴治療等における補瀉手技を、調気手技療法に転用できるように工夫したものなので、鍼治療の効果にほぼ匹敵するような効果を出すことができる。

もちろん、手技療法の特徴から、鍼治療と同じような効果を出せないものもあるが、それ以上の効果を出せるものもある。

脳梗塞で入院している寝たきりの半身麻痺の患者が、調気手技療法による頭皮治療の直後に歩き出すということもある。脳血管障害に伴う半身麻痺の比較的早い段階での治療なら、数回の治療で、70%以上、回復する可能性がある。

脳に障害があって、半身麻痺になっているのだから、手足のリハビリで回復させようとすること自体が発想の段階からして無理がある。脳の側から治療できる調気手技療法は理にかなった治療法であり、その実際的効果も目を見はるもがある。この治療法で半身麻痺が急速に回復するので、車椅子は不要になり、手足のリハビリをする必要性もほとんどなくなる。

調気手技療法は、経絡経穴を中心にして治療をする。経穴の効能やその臨床応用に関する授業が専門学校で行われてないのは不思議なくらいである。薬剤師に、薬の効能についての教育をしないで、薬の販売をさせているようなものである。

経穴の効能について精通し、臨床応用ができるようになる訓練が必要である。

経絡経穴に関するしっかりとした臨床教育が行われていれば、例えば、通常の腰痛や膝の痛みによる歩行困難な患者であっても、治療後に歩行ができるようになるくらいに回復させることができる。

在学中に、本物の患者を治療する実践的訓練の機会がほとんどなく、卒業後も、臨床訓練する制度がないので、国家資格を取得しても、心もとない状況である。

また、リハビリ段階になった骨折の患者は、通常のリハビリを省略して、数回の治療で、仕事ができるようになるくらいに回復させることができる。調気手技療法は、骨折におけるリハビリの革命をもたらすかもしれない。

これまでの手技療法では主として運動器疾患が対象で、内科、精神科、婦人、五感器系科、難病治療等は、ほとんど治療対象外とみなされてきた。

しかし調気手技療法では、臓腑弁証を基礎にした治療体系であるので、これまで対象外とみなされてきた疾患(例えば、眩暈、吐き気、腹痛、動悸、不眠症、鬱病、認知症、骨粗鬆症、橋本病、半身麻痺、冷えのぼせ、生理痛、つわり、緑内障、慢性鼻炎、抗がん剤、インターフェロンの副作用、美容等)が

得意な適応疾患になる。

脳幹線1、脳幹線Ⅱの上焦、中焦、下焦の治療線は臓腑弁証による臓腑の治療もできるが、脳の解剖学上の脳幹の機能そのものに対しても治療効果がある。

たとえば、脳幹線1、Ⅱの中焦の治療線を使うと、肝胆脾胃の臓腑とその経絡、さらに各臓腑と関連する精神、組織、五官器等の治療もできるので、その応用範囲は想像以上に広範囲に及ぶ。

また、中焦を使うと、脾胃の治療ができるので、食欲不振、下痢や便秘、浮腫等の治療と同時に、中気下陥による眩暈や眼瞼下垂の治療もできる。

また、脳幹線1,Ⅱの中焦の治療線を使って治療すると、脳幹の機能の一つである内臓の自律神経の最高中枢に作用し、たとえば、消化器系統の自律神経を調えて、消化器系の広範囲の疾患の治療ができる。

上焦の治療線を使うと、中医学上あるいは現代医学の心や肺の疾患が治療範囲となる。さらに、上焦には中医学上の心が含まれるので、精神科疾患の治療の要として使われることがある。

下焦の治療線を使用すると、二便の失禁、慢性腎不全、インポテンツ、生理痛、不妊症等に対する治療効果が見られ、両医学上の腎、膀胱、生殖器等の疾患が治療範囲になる

髪際の督脈上の大脳線1、大脳線Ⅲは、鼻、喉、目の症状、視力の向上、顔面部の中心線の美容に即効性がある。

また、認知症の予防と治療、精神不安、鬱病、不眠症等の精神科疾患、広い意味で大脳に起因する疾患の方が、一般的疾患よりも治療効果を発揮しやすい。

身近なところでは、頭の使い過ぎによる脳の疲労感が解消される、さらに、意欲、記憶力、思考力、創造力、集中力が高まる、精神的緊張が緩む、本番の試験等であがらなくなる。

これらの変化から言えることは、大脳線1、Ⅱの治療線は、その位置が前頭葉の中心部分にあることからも、前頭葉の機能そのものを活発にさせる作用があると考えられる。

 

3.調気手技療法の補瀉手技

鍼治療における補瀉手技も、調気手技療法における補瀉手技も、陰陽五行理論を基礎にして成立しているということにおいては共通している。

そこで、鍼治療の補瀉手技を、手指を使って行う調気手技療法に応用できるように工夫して、調気手技療法の補瀉手技を考案した。

たとえば、鍼治療では、腰痛は委中で治療すると効果的であるということは誰でも知っているが、手技療法で、委中を、どのように運用するべきか分かっていないので、委中を臨床で使う人はほとんどいない。

調気手技療法では、於血タイプの腰痛に対しては、足首を浮かして膝蓋骨を圧迫しないようにしておいて、委中に補瀉迎随の瀉法と捻転の瀉法を組み合わせた手技を症状の程度に応じて数分間以上、連続して行う。すると、ほとんどの場合、きわめて良い治療効果を出すことができる。局所の腰部を長時間治療するよりも、委中の治療の方が、短時間で、数倍の治療効果があり、効果も持続する。

これは、委中の経穴の効能によるものであり、その効能を引き出すことができる手技の力による。

これまでに習得してきた様々な手技療法の手技を否定するというのではなく、それらの技術を基礎にしながら、また、それらを引き継ぎながら、補瀉手技の理論や方法を上乗せするようにすればよい。

これまでの手技療法は弁証論治による治療法ではなかったので、補瀉手技の必要がなかった。もし、虚実の弁証を間違えて、補瀉手技を施せば、マイナスの治療効果が出る可能性もあるので、弁証と補瀉手技は一体として捉えて治療するべきである。

調気手技療法は、弁証に基づいて、手指を使って経絡に流れている気に対して補瀉手技を行い、陰陽五行の平衡を調える治療法である。

手技療法の手技は、鍼治療のように経穴の一点に手技を施すこともするが、その特徴を生かして経絡を中心に、線あるいは帯状に、あるは経筋病などは、面で治療するという具合に臨機応変に対処してゆくことになる。

経絡の走行や取穴位置から手指が大きく逸れていたり、治療してゆく順序が補瀉迎隨の方向と反対になったりして、その治療効果を発揮できなかったり、マイナス効果になることさえある。

治療後、揉みおこしで痛くなったという話をよく聞くが、ほとんどの場合、診断をしていないことや技術的未熟さで、逆効果になったケースと思われる。

経絡経穴の位置を実践的に訓練して正確に分かるようになる必要がある。経絡に沿って指で撫でてゆくと、経絡は溝状になって走行していることが分かる。

また、経絡の溝を指で撫でていくと、指先に窪みが感じられるところが、ほとんど経穴の(あな)になっている。

経絡経穴の位置は目視でも訓練すると、かなりの程度まで正確に分かるようになってくる。

経絡の幅と経穴の大きさは皮膚面では、数ミリくらいに感じられるが、筋肉層の表面にふれる深さでは、経穴の大きさは1ミリくらいに感じられる。

手技療法においては、骨際とそのすぐ横にある腱や筋との間にできる溝、腱と腱や筋と筋の間にできる溝に経絡が走行しているのを指で感じ取ることができるように練習をするとよい。

また経絡の溝を撫でていると、はっきりとした窪みを感じることができる経穴(例えば、手三里、風池、百会、崑崙)があるので、分かりやすいところから練習をするとよい。

適度の圧力を加えて、溝状になっている経絡の走行に沿って手技をすると、指先に経絡や経穴固有の感覚が伝わってくる。その感覚を逃さないように手技を行う必要がある。

経絡学説を基礎にする手技療法と現代医学を基礎とするマッサージとは原理が異なるので、明確な使い分けをする必要がある。これを混同すると、補瀉迎隨の方向を間違えることになる。リンパマッサージの手技の順序と経絡治療の補瀉迎随の手技の順序とは同じになることも、反対になることもある。

調気手技療法は、現代医学を基礎とした手技療法と違って、筋肉や神経、リンパに対して手技をするのではない。

例えば、ある筋肉の一部が硬くなって痛みがある場合、そこの筋肉を揉み解すというようには考えない。その筋肉を栄養している経絡の流れの詰まりを取ることにポイントをおいて治療する。あるいは、その痛みが、どのような原因によって痛みが出るようになったのかをよく考え、その根本原因に対する治療をおこなう。

今している治療は、どのような原理で治療をしているのかをよく理解した上で、原理的な一貫性をもって治療する必要がある。

手技療法の経験が豊富な人は、圧力の加え方やその強さに関しては経験的に自然に分かっているので上手な人が多い。

経験的に分かっていることが、実際の治療では大切なことではあるが、それらについて原理からよく理解していることも大切である。原理から理解している人は、初心者でも上達するのが早いし、応用も効くことになる。

手技療法における適度な圧力とは、どういうことか。

鍼治療における鍼の刺入の適当な深さは、経絡の中に流れている気に対して、得気が得られる深さということになる。調気手技療法における指の適度な圧力とは、経絡の深さに、ほどよく圧力が加わる強さが適当ということになる。

虚実によって、多少の圧力の加え方に、差が出てしかるべきであるが、臨床上の感覚としては、強すぎることもなく、弱くて物足りないということでもなく、ほどよい強さで、気持ち良くて、効きそうな感じがするのが良い。

手技療法での得気は、手指で経絡の中を流れている気に対して適度の圧力を加えて、その気を効果的に動かせる状態になったことを得気が得られたという。

手指の圧力が強すぎると、得気が得られる深さを突き抜けるので、痛く感じるだけで治療効果もでない。場合によっては、筋肉痛が残るかもしれない。

また、圧力が弱いと、経絡の深さに届かないので、痒いところに手が届いていない感じがしてイラついてくることがある。

得気を得た後、その気の感覚を逃さないように、経穴や経絡に補瀉手技を施して行くことになる。調気手技療法の手技のポイントは、経絡の気を体感しながら、補瀉手技をするということである。

気の感覚が分からないままで、形だけの補瀉手技をすると、痛たかったり、気持ち悪かったりすることもしばしばあり、治療効果も期待できないばかりか、逆効果になることもある。だれでも、一定の訓練をすれば気の感覚が分かるようになるので、難しく考えることはない。

調気手技療法においては、補瀉手技の中心になるものは補瀉迎隨である。さらに、身体の正面の中心線に対して、手指を外回りさせる(瀉法)、あるいは、内回りさせる(補法)かの回転方向の違いによる捻転補瀉法、また、押して気を入れるか(補法)、あるいは、撮んで邪気を引き抜く(瀉法)かによる提挿の補瀉法がある。

臨床では、いくつかの補瀉法を組み合わせた複合の補瀉法(補瀉迎隨と捻転補瀉法)が使用されることが多い。

また、呼吸補瀉法、男女による左右の使い分け等の補瀉法もある。

さらに、双方向性の良性の調節作用をもたらす平補平瀉法がある。

補瀉法の問題とは少し異なるが、運動が速く活発である気に対する手技をする場合は、気の性質に合わせて、小刻みに、速く動かす手技が適している。

また、津液や血に対する手技は、その性質に合わせて、やや大きめで、ゆっくりとした動作が適している。

 

4.調気手技療法の習得の問題点

調気手技療法のうちの有力な治療法である頭皮治療法は、中医学の基礎理論を学んだことがある人なら、治療線と手技のコツを学び、比較的簡単なレベルの弁証能力があれば、だれでも、調気手技療法だけなら、数回の講習会でかなりの程度までできるようになる。その後、弁証能力の向上のための努力と一定の臨床経験を経て、再度、講習を受ければ、相当程度のハイレベルの調気手技療法の治療ができる可能性がある。

調気手技療法による治療家を目指すには、学校教育に上乗せする形で、中医学の基礎理論に基づいた調気手技の実技訓練と、脈診、舌診、問診、経絡診等の診断学、経絡経穴学等の学習をする必要がある。

鍼治療による頭皮鍼をマスターするには、弁証能力を高めることと、鍼の操作の技術や補瀉手技の訓練をする必要がある。

調気手技療法の基礎的なことを理解し、初歩的な基礎訓練を終えた後、臨床指導のもとに、弁証論治による実践的治療を行う必要がある。実践的な治療を通じて基礎理論の深い理解や手技の体得ができるようになり、さらに、臨床能力も高くなる。

鍼治療を通じて弁証論治の治療の流れが分かっている人は、手技の訓練を中心に行ってゆけば、比較的短期間に調気手技療法を習得することができる。

弁証能力に自信がない人は、確かな診断ができない状態で治療することになり、良い治療効果を出すことは難しい。

中医学の基礎理論や診断学、経穴学等の基礎的学習とその臨床応用に関する指導を受ける必要がある。これは大変なことのように思われるかもしれないが、確実に調気手技療法をマスターしてゆく早道である。

この調気手技療法は、これまでの手技療法の様々な伝統的な手技に、いくつかの新しい手技を加えると、そのまま引き継いでゆくことができる。また、これまでの手技療法に弁証論治の治療法を上乗せすればよい。

現在の状況下では、あん摩、指圧、マッサージは、国家資格を有していながら、他の国家資格がない手技療法と競合して劣勢に立たされ、止めどもなく地盤沈下をしている。

この調気手技療法は、あん摩指圧マッサージやその他の手技療法の一部も含めて、慰安の域を脱し切れていないレベルから、医学レベルの治療体系に質的な飛躍を遂げ、患者の治療要求に具体的に答えられるようにすることを目指している。

患者から信頼される治療ができるようになれは、地盤沈下に歯止めがかかるようになる。