美容鍼灸の弁証論治

*美顔の針治療 

内面的精神状態や健康状態は、顔面の表情や雰囲気に大きく影響して、その人の印象を決定的に左右することがあり、このことが美容上の最大のポイントになることもある。これまでの美顔の針治療では、個々の美容上の部分的な問題を治療することに関心が払われてきたが、全体的印象としての表情や雰囲気に関しては、治療対象としては、どうにもならない問題であるとして置き去りにされてきた。
美顔治療のポイントは、個々人の精神状態や全身的な健康上の問題からアプローチして、その人の体質に見合った治療をすることで、個性的な表情や雰囲気をもたらすようにすることが大切である。しかも、その表情や雰囲気を醸し出している美容上の個々の部分的な問題も同時に解決されてゆくようにすべきである。

 

*健康になることと美しくなることは同じこと

心身の健康のための治療と美容のための治療は本質的には同じことである。ただ、健康と美容のいずれの観点から治療するかの違いがあるだけである。
誰しも経験的に分かっていることであるが、精神状態や健康状態が悪い時は、表情や雰囲気もさえない状態になり、全身的にも浮腫んだり、皮膚の色が悪くなったり、美容上も、気になることが続出してくるものである。


*気虚証タイプの針治療

このタイプの人は、全身的観点からみると、エネルギー不足で、しかも、水湿の代謝も悪いタイプなので、何ごとにも、無気力で、消極的態度になり、まるで怠け者のようにみられる。このような精神状態は、生まれつきの性格であると思われているかもしれないが、そのように考えることは間違いである。また、顔面の美容上の問題として、上瞼が重くて垂れ下がり細目になる。顔面全体が浮腫んで、張りがなくなり、たるんでいるので、ぶよぶよした感じで顔が大きくなっている。また、ほうれい線も目立つようになる。いつも眠そうで、多汗で、めまいを起こしそうなくらい疲れた表情になる。
また、容姿とは別の問題もある。小声で頼りなさそうな話し方になるので、会話の内容はともかく、話が相手に伝っていないとか、会話での好印象が感じられないこともある。
上記したような表情や症状は、美容上の観点からすると、たとえ、本来の顔かたちが、いくらきれい人であっても、魅力にかけることになる。
この様なタイプの人も、針治療で、これらの症状を伴った気虚証の治療をすることで、全身にエネルギーが充填され元気そうな雰囲気になり、全身の水湿の運化が良くなって浮腫みがなくなり、全身の下垂傾向も改善されて、治療後には、イメージが一新されて、若々しい活発な雰囲気に変わる。
気虚証という証がなくなるまで治療を継続して気虚証体質が改善されると、一過性の変化ではなく、美容上の問題に留まらず、身体の方も根本的に元気になり、気力も充実してくる。身体と精神状態が健康的になり、その結果として、美容上も、魅力的な表情と雰囲気に変化し、個々の美容上の気がかりな点も具体的に改善されるようになる。

「虚証の弁証取穴」 合谷、足三里、内関あるいは太淵、太白、内関、 下垂症状が強い人には百会を追加取穴して補法を施す。内関を先に取穴して、軽い瀉法をして気の巡りをよくしておいてから足三里、合谷を補った方が、補法による詰まりを防ぐことができるので治療効果がよくなる。

「局所取穴による表示法」 美顔治療においては、顔面の局所に刺鍼しても構わないが、その治療効果は、限定的で一時的な場合が多い。実証タイプの局所治療は、ある程度、効果が期待できるが、虚証タイプの効果は薄いか、場合によっては、マイナス効果になることもある。弁証取穴と正確な取穴位置、適切な補瀉手技が治療効果の決定的要素である。

 

*実証タイプの針治療

アルコール飲料や甘いもの、生もの、油っこいものを過剰摂取し、しかも運動不足の人は実証タイプの痰湿証、湿熱証になる可能性が大である。この様なタイプの人も、虚実の違いがあるが、気虚証タイプの人と似通った水湿の停滞による症状が現れる。
痰湿証、湿熱証の弁証取穴 陰陵泉、豊隆、中脘、中極、頭維に瀉法を施す。

「治療効果」
 痰湿や湿熱邪が去邪されて、脾の水湿の運化作用が回復するので、全身の浮腫みや、たるみがなくなり、このことによる美容上の全ての問題点も消失する。
表情は、瞼が大きくあいて細眼が丸くパッチリ開いて、明るくて元気そうな表情に変わる。頬の浮腫みや弛みがなくなりリフトアップされる。また、ほうれい線も消えて引き締まった感じで小顔になる。さらに、くすみが取れて美白で色艶もよくなる。
顔面の美容効果に限定されることなく、足の浮腫みも取れて引き締まった感じがして、足が細くなり軽やかになる。中焦に停滞していた水湿やガスが消失するので、ウエストまわりの浮腫みや張りも取れる。
脾の昇清作用が正常に働き始めると、全身の下垂傾向が改善される。あるいは、痰湿の停滞による重みで、垂れ下っていた乳房がバストアップされ、また、垂れ下がっていたヒップもアップされることになる。全体的な体型や姿勢が整ってくる。

「美乳効果」
気血不足で、乳房が本来的な大きさよりも、小さくなっている場合は、乳房は胃経上にあり、また、脾胃と関係するので、足三里と三陰交を取穴して気血不足を補えば、病的に気血不足で小さくなっていた分は本来的な大きさになる。
気虚生湿による水湿の停滞での弛みや中気下陥による下垂した乳房は、足三里、陰陵泉への補法、中気下陥には、百会、合谷の補法を追加取穴することでバストアップされる。

「美乳のための補瀉手技のポイント」
上記したような経穴に補法をすると、胃脘部が詰まってくる感じがする場合がある。虚が原因で気滞や瘀血、痰湿が停滞している状態で補法をすると、それらの邪気が勢いを得て詰まって苦しくなることがある。臨床上は、虚証には補法をすべきだと考えるのは短絡的である。
内関あるいは間使に軽く瀉法をして、さらに置鍼して行気しながら、他の補法を必要とする経穴には、虚の程度に応じて、鍼尖の感覚が虚から実に変化するまで、3~10分間の補法をするとよい。あるいは、局所の乳房の周りへの刺鍼を省略しても、効果にはあまり影響しない。
痰湿や湿熱による実証タイプの弛みは陰陵泉、足三里あるいは豊隆、中脘の瀉法をする。
また、巨乳で垂れ下がっているタイプは、痰湿や湿熱が停滞していて重だるく疲れた感じがしやすい。このようなタイプは痰湿証や湿熱証として、全身的な治療をすると、去湿されて軽い感じになってバストアップされる。
なお、乳首に問題がある場合は、乳首は肝と関係があるので、太衝、期門を追加取穴するとよい。
生理前に、乳房が気滞で膨らんで痛みが出ることがあるが、やがて瘀血で固まりぺちゃんこになるような場合は、循経取穴による足三里と、内関あるいは間使、三陰交の瀉法で行気活血することで瘀血が緩み、その分だけ、柔らかくなり、ふっくらと膨らんでくる。なお、肝気欝結による瘀血が強いタイプには太衝、期門の瀉法を追加するとよい。美乳のための弁証取穴による治療は、乳癌の予防効果も期待できる。

 

*肝気鬱結証タイプの針治療 
このタイプの人は、ストレスが主な原因で、肝鬱気滞瘀血を起こして心身ともに詰まった感じになって広範囲にさまざまな症状を引き起こす。
その影響は、当然のことながら、美容上の問題にも直結してくる。
たとえば、精神状態は鬱々としてくるときには、気持ちが塞ぎ込んだり、また、イラついたりする。それが目つきや表情にも表れて、近寄りたくない雰囲気になることもある。
全身症状としては、肝気欝結で気血の流れが詰まっているときは、気血が巡らなくなるので冷え症になる。また、顔面は青白くなり艶がなくなり、ときに、眼の周りにクマができやすくなり、全体がくすんでくる。
また、気鬱化火、肝気上逆になると、気につれて血も上るので、足が冷え、頭顔面部がのぼせてくる。足が異常に冷えるが、顔面は赤ら顔になり、眼も血で白目が赤くなる。
このようなタイプの人は、生理痛がひどく、生理にともなって、イライラ感が強くなり、偏頭痛、顔面には吹きでもの、異常食欲、便秘、浮腫み等の症状が出やすくなる。
このような肝気鬱血を基本にした諸症状は、女性の大半の人が経験していることであり、身体や精神状態の問題であると同時に、美容上も厄介な問題が次々に起こってくる。
これは、美容上の問題というよりも、むしろ、生理不順や生理痛と関連した婦人科疾患である。また、ストレスが病因になっている精神科や内科的疾患でもあり、美容の問題は、これらの疾患の一部分であり、結果でもある。
したがって、美容上の治療は、美容上の観点を考慮しながら、これらの疾患の治療をすることで解決できる。これらの疾患の元になっているものは肝気鬱結証であることが多いので、この証の治療をすることで、これらの疾患の治療をすることができると同時に、美容上の広範囲な問題点も解決できる。
肝鬱気滞瘀血で、気血の流れが詰まって瘀血が形成されたり、詰まることで局所に栄養が届かなくなって、眼の周りのクマや顔全体のくすみが出現したり、皮膚があれたり、小じわができたりする。これに対して、眼の周りや顔面のあちらこちらに刺鍼してもかまわないが、ほとんど無意味である。肝心なことは、その原因である肝気欝結を解く治療をすることである。
そうすることで、美容上の問題も解決される。
「肝気欝結証に対する基本的な取穴」 太衝、期門、内関から間使への透刺、全て瀉法
肝気欝結による生理不順、生理痛、少腹部痛、仙骨部痛、また、くま、くすみ、しわ等には、三陰交を追加取穴するとよい。
「気鬱化火や肝気上逆」による、のぼせ、顔面紅潮、異常なイライラ感には、百会、風池を追加取穴
「肝胆火旺」による偏頭痛、耳鳴り、耳閉感、風池周辺の頚部の痛みや肩こり、こめかみの痛み、目尻の小じわ等には、風池、太陽、丘墟を追加取穴するとよい。
「肝火上炎」による眼の諸症状 眼の奥の痛みや眼精疲労、眼の乾燥と眩しさ、目赤、きつい目つきには、百会、風池、光明を追加取穴するとよい。
「肝気犯胃」による顔面の吹き出もの、異常食欲、胃痛、便秘、顎関節症には、内庭または足三里、中脘を追加取穴するとよい。
「肝気犯脾」による全身的な浮腫み、顔面の浮腫みやたるみ、ほうれい線、眼瞼下垂による細目には中脘、陰陵泉、豊隆、中極を追加取穴するとよい。

 

*腎虚証タイプの針治療 
更年期以降の女性、老人、慢性病の後期の人に腎虚証がみられる。また、少数ではあるが例外的に若い人であっても、腎虚証の人もいる。
美容上の問題においても、二十歳代後半頃から、腎虚によるもの、つまり、年だから仕方がないと考えられがちであるが、これは思い違いである。20代では、通常は、老化、つまり腎虚による美容上の問題は、ほとんどない。
人は皆、たとえば、30代、40代になっても、それぞれの年代に見合った年相応の顔に変化してゆくが、それ自体は自然なことであり腎虚によるものとは言えない。
これらの年代の美容上の大半の問題は、腎虚つまり、老化にともなう病的な変化は、きわめて限定的なものであり、むしろ、ストレス、飲食不節、睡眠不足、運動不足等の生活習慣病を引き起こしているような問題が原因であることが多い。
長生きをするようになった現代では、更年期から60歳代後半くらいまでの女性の美容上の問題は、腎虚、つまり老化の問題は根底にあるけれど、それ以上に、個人差があるが、若い人と同じように、生活習慣上の問題がより大きな原因になっていることが多い。
一般的に言って、60歳代後半から、美容上の問題は、日常の生活習慣上の問題が主な原因であることもあるが、それまで、潜在化していた腎虚、つまり老化が原因の美容の問題が表面化してくる。この場合には、腎虚証の治療にポイントを移す必要がある。「腎虚証の弁証取穴」
腎精不足、腎気虚には太谿、気海、腎兪
腎陽虚には太谿、関元(鍼灸)、腎兪
腎陰虚には復溜、腎兪
皺、くすみ、くま、シミ、白髪、禿等が、老化現象として徐々に進行してきた場合は、腎虚証として治療することになる。それで、老化の進行を食い止め、ある程度の若返りも可能になる。当然のことながら長期的には老化予防の治療には限界がある。
老化現象と思われているこれらの美容上の問題点も、実は別の原因であることも多い。
たとえば、高齢者では、老人斑として、徐々にシミができて増えてゆくことがあるが、若い人であっても、急にシミができることがある。これは、紫外線や各種の炎症の後遺症によることがある。同じシミであっても原因が異なるので、老人のシミは、腎虚証として治療するが、老化とは関係ない若い人のシミは、曲池や三陰交に瀉法を施して治療する。シミの治療は、日焼け等でシミ化することが予測される段階での予防的治療、老人性のシミの初期段階では良い効果が出ることもあるが、古くなったシミは、色を多少、薄くさせて目立たないようにすることができるが、シミそのものを完全に消失させることは難しい。
肝鬱気滞瘀血によるくすみ、くま、小じわは治療効果がよいが、老人性のくすみや皺、あるいは激やせに伴ってできた大きな皺は、治療効果は芳しくないが、長期間の治療を継続した場合、振り返って比較してみると、はっきりとした治療効果を見てとることができる。

 

「禿の治療」
高齢者の老化現象による禿は、腎虚証として根気よく治療してゆくと、髪の本数が著しく増えるというようなことはないが、髪の質が良くなり太くてしっかりしてくるので、抜け毛も少なくなり、外見上、目立たなくなってくる。
若い人の禿は、ストレスが原因で、肝鬱気滞瘀血による円形脱毛症や、アルコールの飲み過ぎや甘いものの食べ過ぎ、ストレス等による肝胆湿熱証によるものが多い。これらの治療は本人の原因に対する養生が必要であるが、治療効果は比較的に良い。
円形脱毛症の肝鬱気滞瘀血の取穴は、太衝、内関から間使への透刺、丘墟、百会、風池、局所への梅花鍼か散鍼 数回の治療で完治することが多い。
熱い汗で頭の毛根が蒸されて脱毛するイメージの肝胆湿熱証の取穴は、陰陵泉、太衝、丘墟、中脘、内庭、頭維、百会、風池。 肝胆湿熱証の改善の程度に応じて、また目安としては頭部の汗が少なくなってきたら禿の程度も改善されてゆく。

 

「手技のポイント」 
一般的に、補法の手技は、一穴につき5~10分間の捻転の補法を施す。あるいは針下の感覚が、虚から実の感覚に変化するまで手技を継続する。置針の必要性はない。このような補法をした時だけ、目に見える補法の効果が現れる。
数秒間の補法の手技をして、長く置鍼しても、気持ちは補法でも、客観的な補の効果はほとんど期待できない。
また、取穴の位置が大雑把で、経絡の走行や経穴の位置から逸れていると、治療効果はゼロか半分以下になってしまう。取穴の誤差は、経穴の入り口である皮膚面においては、1~2ミリの誤差の範囲内で正確に取穴しなければいけない。
神経を集中して、指で皮膚面をチェックしてゆくと、経絡は溝状に、経穴の位置は窪みになっているのを感じ取ることができる。数ミリの大きさの経穴の窪みの中に、1ミリくらいの経穴の穴を見つけて、その穴に正確に刺針するようにする。
経穴は気が出入りする穴であるので、経穴の穴に針を刺入すると、気の防御作用が働いて、一種の邪気である針尖に気が向かってくる。その時の気と針尖の衝突が得気である。
得気の感覚は、気が一種の気体であるので、液体のような粘さや重たさはなく、固体に当たった硬さでもなく、エアーブレーキを踏んだ時のふんわりとした感覚で止まる様(さま)に似ている。
得気の瞬間の感覚は、気が気体であるが故に、何かに当たったという感覚がないので分かりにくいので、細心の注意力が必要である。針を捻転すると、何かに絡まっているという感じが一切なくて、きわめて滑らかな感じがする。大きく針を捻転すると、軽くパルスをかけられているような感覚がするだけで、痛みや響きはしない。
得気の後、数分間を経ると、気が活発に動き始めるので、気に先導されて血も動き始める。
得血の感覚は、血は液体であるので、重い、粘る、しびれる等の感覚がし始める。
やがて、得血の感覚が現れると、経絡に沿って現れる経絡現象を体感できるようになる。
得気が得られるかどうかの誤差は0.1ミリ以下のこともある。得気を上手に得るには、ある種の哲学と集中力、繊細さが必要である。
針灸の手技は、経絡に流れている気に働きかけて陰陽五行を整えることである。つまり、針灸の手技の核心は調気である。
針灸は、大雑把な技術ではなく、繊細な職人的な技術が必要である。得血や得物ではなく、得気が得られると、刺針に伴う痛みや、いやな響きがなく、むしろ、気持ちの良い感覚がする。そのような時、治療効果も格段に良くなる。

 

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