白川式手鍼治療

「白川式手鍼治療」

下後谿、上焦穴、三焦穴、下焦穴、下合谷の手鍼5穴で、ほぼ全身の運動器疾患の治療ができる。

下後谿

*下後谿の位置

・後谿の位置は、手を握ると、第5中手指節関節の尺側にできる横紋の先端であるという説は、厳密にいうと間違いである。横紋の直下は腱になっているので、痛くて刺鍼することはできない。

横紋の先端は目安であって、正確な位置は、横紋の先端の真横で、腱と第5中手指節関節との間にできる溝のなかにある穴である。

臨床上、刺鍼しやすくて臨床効果も後谿と同様である下後谿の位置は、横紋の先端よりも、手関節の方向に約2分くらい寄った位置にあり、第5中手指関節の尺側の骨がコーナーになっているところで、その骨のコーナーと腱の間にできる溝の中にある穴である。

*後谿と3つの経絡との関係

・後継は太陽小腸経であるので、太陽小腸経に対しては、もちろん、同名経の太陽膀胱経に対しても、また八脈交会穴の一つであることから督脈に対しても関係を有する。

・後谿は3つの経絡と関係しているので、同時に3つの経絡と関係する疾患を治療することができる。人体の後部の頭部、頚部、肩背部、腰部、臀部、上肢、下肢にわたる広範囲な治療ができる。

*後谿の効能と臨床応用

・後継は、小腸経の経気の宣通作用があり、小腸経の各種の邪気による詰まりを取り除いてくれる。

・小腸経の五兪穴の体重節痛を主る兪穴なので、小腸経のどの部位であっても、湿邪が停滞して重痛や重だるさがあるときは、この経絡上の去湿ができる。例えば、五十肩で肩貞や天宗付近に重痛や重だるさがあるときは、局所に刺鍼するよりも、去湿作用のある後谿に瀉法をして、運動鍼にすると著効が見られる。

なお、湿邪の程度が広範囲、あるいは重度の場合や慢性化している場合は、全身的な去湿作用がある陰陵泉の瀉法と組み合わせるとよい。

後谿は、小腸経、同名経である太陽膀胱経、督脈上の広範囲の疾患を治療することもできる。具体的には、後頚部の寝違え、ぎっくり腰、委中の付近の痛みや、パソコンのやり過ぎ等による後頚部や肩背部の小腸経、膀胱経、督脈と関係する広範囲の痛みや凝り、また、それが原因で引き起こされる指や上肢の痛みや痺れ等が治療範囲になる。

痛みがあるこれらの部位の局所に取穴するよりも、後谿の運動鍼の方は治療効果が高い。局所に顕著な圧痛点や硬結が残る場合は、後谿の取穴や得気の状態を手直しして再度運動鍼を行うとよい。さらに局所に著しい硬結や反応点があれば局所取穴を追加してもよい。

・また、膀胱経に頑固な湿邪が停滞していて重だるさが残る場合は、後谿と膀胱経の兪穴の束骨とを組み合わせて取穴するとより効果的である。

また、於血の痛みが残る場合は、井穴の至陰に15度角で1分刺入して得気を得た後、瀉法をして置鍼する。抜鍼時に出血するが、アルコール綿でよく拭くとよい。あるいは、活血化於のために郄穴の金門に瀉法をするとよい。

・風寒邪に侵襲されて起こる太陽膀胱経の頭項強痛に対しては、漢方薬では、葛根湯が使われるが、鍼治療では後谿の瀉法がよい。

*督脈の治療範囲と治療

後谿は、督脈が邪気に侵襲されて起こる脊柱の強ばりや痛み、そして、督脈上のすべての病変の治療ができる。

・後谿の治療範囲は、むち打ち、頸椎症、ストレートネック等による頚、肩部の疾患、また脊柱側弯症、猫背、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、すべり症、脊柱官狭窄症等の胸椎、腰椎等の背柱に関係するすべての疾患、それらが原因で上肢や下肢に及ぶ痛みや痺れ、運動制限等は、後谿の治療範囲になる。

・例えば、骨粗鬆症の治療では、後谿は表示法として刺鍼すると激痛を緩和できる。また、骨粗鬆症の弁証は腎虚証になるので、腎陰虚証であれば復溜、懸鐘、腎兪等への10分間くらいの補法が必要である。この配穴と手技で、急性期の激痛もほどほどの程度に治まる。骨粗鬆症の手技療法で、局所への圧力は危険なので控えるべきである。遠隔治療である程度の効果を出すことができる。

・脊柱官狭窄症は、後谿の運動鍼で痛みの症状が緩和される。さらに於血あり、下焦湿熱証もあるので、内関から間使への透刺、三陰交、陰陵泉、中極等を取穴する必要がある。局所取穴は、反応点に行ってもよい。於血や湿熱邪が去邪されても、腎虚が残る場合には、腎虚の治療をする必要がある。

*刺鍼方向、刺鍼の深さ

・刺鍼方向と深さ 刺鍼方向は、直刺にすると刺入後、2分くらいの深さで、骨に鍼尖がひっかかるので、刺入方向は、やや手掌の方向に向け、骨に引っ掛からないように刺入すべきである。

・刺入の深さは、8分くらい刺入したところで、ふんわりと止まる感じがする。その感じが得気の感覚である。気の防御作用によって、鍼の刺入の勢いが押し留められるのである。

・気体である気に触れても、ふんわり止まる感覚がするだけで手答えがないのが当然である。得気を得た瞬間に何か手ごたえがある筈だと思って、さらに深く刺入すると、経絡の気が流れている深さを突き抜けて、得気とは関係ない神経や、腱などをきっかけた得物の感覚になり、痛みを伴ったきつい響きになる。

・得気を得た後、数分間くらい置鍼すると、軽くて滑らかなだけの得気の感覚から、鍼尖に気血が集まってきて、魚でも喰らいついたようなきつくて粘る感じに変化する。そこで瀉法をすると、心地よい感覚を伴った効果的な瀉法の手技になる。

上焦穴

上焦穴は、手の第3指と第4指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、中手骨間に、1寸の深さで横刺する。

上焦穴は肩部の肩井、頚部の風池の附近の肩こりに即効性があり、また、10分間ほど、置鍼しておくと、上焦の背部全体あるいは僧帽筋全体の凝りが緩んでくる。

上焦穴は肩こり治療のキーポイントになる。

 三焦穴

三焦穴は、第2指と第3指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第2と第3中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて1寸5分から2寸ほど横刺する。

八風から1寸、横刺すると、頚部の天柱から大杼にかけての膀胱経と風池から下の頚部の胆経のラインの凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると背部の凝りや痛みが緩和する。

さらに、5分横刺すると、腰部と下肢の胃経、3陰経(腎経、肝経、脾経)の凝りや痛みが緩和する。

 下焦穴

下焦穴は、第4指と第5指の中手指節関節の前方の奇穴の八邪穴の窪みから刺入し、第4と第5中手骨が交わるところの奇穴の腰腿点に向けて、1寸5分から2寸ほど横刺する。

下焦穴は、腰、臀部、下肢の膀胱経と胆経の広範囲な部位に対して治療効果がある。例えば、坐骨神経痛の治療では、坐骨神経に沿っての多数の刺鍼をするよりも、下焦穴、一穴に刺鍼した方が臨床効果が高い。

また、原因に関わりなく、股関節の痛みには効果的である。また、膀胱経、胆経のどの部位の痛みに対しても治療できる。

また、骨折や捻挫の後、気血の流れが悪くなり瘀血が形成され、局所的に正気不足に陥り、邪気に侵襲されやすくなり、膀胱経や胆経が痺症になることが多い。このような骨折、捻挫の後遺症と痺症の治療に、下焦穴は威力を発揮することが、しばしばある。

三焦穴と下焦穴の両穴に刺鍼すると、下肢の全経絡を治療することができる。

ぎっくり腰などの於血腰痛には、これまで一般的に使われてきた腰腿点を取穴してもよい。

 下合谷

下合谷は、第1指と第2指の中手骨が交わるところのすぐ前方にできる窪みで、合谷より3分ほど陽谿に寄った位置である。刺鍼方向は直刺、刺入の深さは約6~8分。

下合谷に刺入すると、胸鎖乳突筋の下方や肩井の前側から缺盆にかけての凝りや痛みが緩和する。

なお、別の治療法として、胸鎖乳突筋は人体の側面になるので、少陽経の治療範囲として捉えて、懸鐘で治療できる。また、肩井附近の凝りや痛みの治療は合谷でできる。また、缺盆や肺経のエリアの肩こりは尺沢が効果的である。

 

 

「解説と注意点」

手鍼は、全て運動鍼にするか、マッサージを併用した方が効果的である。

八邪の穴は手背の皮膚の表面から5ミリほど下方で、中手指節関節の前方の陥凹にある。指を自然に曲げた状態で、八邪穴の陥凹に正確に刺入することが第一のポイントになる。次は中手指節関節の骨に鍼尖を引っかけないように関節の溝を通し、さらに、中手骨間の溝にそって、上下左右に逸れないように横刺しなければいけない。

何かに引っかかっているような感じがしたら、無理に押し込むようなことはしないで、少し鍼を抜いて刺鍼転向した方がよい。するする抵抗なく刺入できるところに刺入すれば、ツボに無痛の状態で命中し効果もよい。

手鍼の刺鍼方向が正確であれば、目標とする治療効果が得られるが、方向が逸れると治療目標が外れることがある。しかし、目標以外の思わぬ治療効果がでることもある。

治療範囲や目標によって、5種類の手鍼穴の使い分けや組み合わせを工夫するとよい。例えば、三焦穴で頸部の治療をするのなら1寸の深さでよい。背部の治療は1寸5分の深さでよい。腰部や下肢の胃経、三陰経の治療をしたい場合は1寸5分から2寸の深さになる。

また、頚部や肩部の凝りや痛みに限定した治療をする場合は、三焦穴の1寸と上焦穴の2穴の組み合わせ、さらに、症状に応じて、下合谷、後谿を組み合わせて治療すると、効果的な肩こりの治療ができる。

手鍼は邪気で詰まった凝りや痛みを取る治療法なので、手技は瀉法になるが、手技には拘らず、適度な強さの平補平瀉法でもよい。また神経に触れて電撃様の強刺激になることがある。その場合は、不快な感じがしやすいが、即効性が出ることがある。

手鍼は簡単な治療法で広範囲で、しかも高い治療効果を出しやすい治療法であるが満点の治療法ではないので、他の治療法である耳針、頭皮鍼、体鍼の弁証取穴、局所取穴等を組み合わせて治療しても問題ない。さらに、運動鍼や手技療法を加えた方がよい。

手鍼は頚部、肩背部、腰部、臀部、下肢、上肢等のほぼ全身の運動器疾患を包括的に治療できる。

また、眼、鼻、耳等の感覚器や一部の臓腑にも副産物的に良好な治療効果が出ることがある。この領域での治療法は、まだ不確定なところが多く、これからの課題である。

 

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